「スマートグロース−アメリカのサステイナブルな都市圏政策」(学芸出版社刊)より第3章冒頭の抜粋
3章 オレゴン州 成長管理の先進州の新たな挑戦
3.1 都市圏成長管理の実像の解明
この章では、オレゴン州の成長管理を取り上げる。オレゴン州はアメリカ太平洋岸のカリフォルニア州とワシントン州の間に位置する人口334万人の州である。森林、肥沃な農地、手つかずの海岸線などの豊かな自然資源に恵まれており、古くから農業、林業、食品加工業、観光業などの自然を生かした産業がさかんであった。また、オレゴン州では、この豊かな自然とリベラルな州民性があいまって、飲料容器のリサイクル法を他州に先駆けて導入するなど、先進的な環境保護政策が進められてきた。このため、州レベルの成長管理政策である州土地利用計画制度が導入されたのも1973年と早かった。オレゴン州の制度の特徴は、自治体の策定する総合計画(マスタープラン)の位置づけが高いことと、計画(プラン)を介して政府間の政策調整が行われることである。州主導型のフロリダ州の初期制度とくらべると、自治体を主体としたゆるやかで総合的なシステムとなっている。オレゴン州の制度は、1973年という早い時期に導入された先進性もさることながら、その後四半世紀以上にわたり基本的な制度にほとんど手を加えることなく運用されてきたという実績を持っており、その後成長管理政策を導入した他州に影響を与えてきた。
一方、1990年代に入って、同州唯一の大都市圏であるポートランド都市圏において、新たな都市圏レベルの成長管理政策が発展してきた。これまでの州レベルの成長管理政策が、UGB(都市成長境界線)によって都市の成長を押さえ込むという、受け身の成長管理であったのに対して、この都市圏レベルの成長管理政策は、市街地の土地利用をより高密でコンパクトなものに誘導しようとする、いわば積極的な成長管理とも呼べるものである。
本論では、州レベルの制度の紹介にはあまり立ち入らず、むしろ、上述のような近年の都市圏レベルの成長管理政策の発展について主に論じることとしたい。州制度の成立とその後の発展の経緯については、すでに優れた研究がなされているし、日本でもある程度紹介されている。また、州制度をめぐる論議が活発だったのは1970年代や80年代であり、現在ではやや同時代性が失われている感もある。一方、ポートランド都市圏の成長管理は、現在もまさに政策が進められ、活発な議論が交わされているテーマである。
本論の目的は二つある。まず最初の目的は、1990年代以降のポートランド都市圏における成長管理の取組の実態を明らかにすることである。これまでにも、特にメトロの取組を中心に、断片的には日本でも紹介がされているものの、成長管理のための制度的枠組みの発展、計画の具体的内容、策定過程における住民参加の実態など、自治体における取組も含めてこの時期のポートランド都市圏における取組の全体像を紹介した文献はこれまでにない。
また、二番目の目的は、そのような制度の発展や計画づくりが可能になった理由を可能な限り分析することである。厳格な制度や優れた計画をつくったから、成長管理政策が進んだわけではない。政策を動かすのは、人々の意志であり、制度や計画はむしろその反映に過ぎない。ポートランド都市圏で成長管理が進展した背後には、どのような要因があったのか。逆に、思うように成果が上がっていないとすれば、その原因は何なのか。また、そこから都市圏の住民が何を学び、どのような制度改善に結びつけたのか。そのような疑問にできるだけ答えることにしたい。
この章の構成は以下の通りである。まず第1節では、オレゴン州における成長管理の基本的枠組みを理解するため、州制度の特徴と、ポートランド都市圏をめぐる最近の制度改革の動向を概観する。次に第2節では、ポートランド都市圏の広域行政機関であるメトロの活動に注目し、近年の制度改革で権限が拡大したメトロが、自治体とどのように政策調整を行いつつ成長管理を進めているのかを分析する。第3節では、都市圏の中心自治体であるポートランド市のマスタープランづくりを取り上げ、成長管理を進めようとする市と住民との間にどのようなあつれきが生じているかを分析する。最後に第4節では、以上の分析から得られる考察をもとに、オレゴン州の成長管理政策の到達点を総括的に論じる。
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3章 オレゴン州 成長管理の先進州の新たな挑戦 3・1 都市圏成長管理の実像の解明 3・2 オレゴン州における成長管理の基本的枠組み
2 ポートランド都市圏における広域調整の強化
2 都市成長管理計画 3 UGBの拡張 4 自治体を越えた広域調整はどこまで可能か
2 南西コミュニティ計画 3 住民参加のまちづくりはなぜ頓挫したか 4 エリア計画への転換と市の機構改革
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