ポートランド市のコミュニティ計画
〜その1〜


コミュニティ計画についてご紹介する前に,ポートランドのプランづくりをとりまく 状況を理解していただくために,アメリカ大都市の土地利用計画をめぐる基本的な 構図と,その中でのポートランドの特色を説明したいと思います。

アメリカ都市計画の基本的な構図

アメリカでは土地利用のコントロールは自治体に任されています。というか,アメリカ では土地利用のコントロールこそが自治体の最大の仕事と見なされています。彼らの役 目は,地域にとって不都合な開発を防ぎ,地域の住民の住環境を守ることです。この排 他の発想から生み出されたツールがゾーニングです。以来,アメリカの土地利用コント ロールは常にゾーニングが先にありきで,総合計画が作られることがあってもほとんど 付け足しのような意味しか持たないのが普通です。

このように各自治体が排他の発想でゾーニングを運用するため,新たな開発は必然的に 都市の外縁部で行われることになります(注:アメリカでは自治体は住民が自発的に作 るものなので,都市の外縁部は最初どの自治体にも属していません)。こうして市街地 はどんどん膨れ上がり,自動車なしでは成り立たない低密で膨大な都市構造が作られて きました。

環境問題の高まりと成長管理

1970年代以降,環境問題の高まりとともに,このような都市構造の問題点が指摘さ れるようになりました。最近流行の言葉で言えば,アメリカの大都市は「サステイナブ ル」でないと言われはじめたのです。そしてこの対策として,州や都市圏レベルでのさ まざまな成長管理政策が講じられるようになりました。例えばスプロールを防ぐための 線引き制度や,渋滞を緩和するための相乗り通勤の奨励などです。

オレゴン州などでとられた州政府主導の総合計画制度もそのひとつです。総合計画によ る成長管理は,将来の都市構造そのものを誘導するという点で,対処療法的な他の政策 より優れています。しかし,先述のように自治体の最大の役割がゾーニングであるこの 国では,大都市の都市圏全体をカバーする総合計画を立てることは政治的に非常に困難 です。

ポートランドの広域計画

ところが極めて異例なことに,ポートランド都市圏にはメトロという広域政府が存在 し,都市圏全体の土地利用計画の権限を担っています。メトロは1992年に地域住民 の直接投票によってこの権限を与えられました。このような形態の政府が存在するのは 全米で唯一ポートランドのみです。

直接投票の結果を受けて,メトロはさっそく計画づくりに着手しました。この計画は, 今から50年後の都市圏の構造を計画するという意味で「リージョン2040」と呼ば れています。ポートランド都市圏では現在人口が急増しており,リージョン2040は それに対する成長管理政策なのです。

メトロは1994年に「成長コンセプト」を採択しました。これはリージョン2040 計画づくりの途中段階にあたるもので,都市圏の今後の大まかな成長のイメージを決め るものです。この過程でメトロは膨大な量の市民参加プログラムを用意し,成長コンセ プトに市民の考えが反映されるよう努力しました。その結果選ばれたコンセプトは,簡 単に言うと「市街地を拡大させることなく人口増を吸収する」というものです。いわば 市民は,メトロの思惑通りの厳しい成長管理政策を選んでしまったのです。

広域計画が市民に負わせるもの

この政策は,森林や農地などの環境を守ることができる半面,既成市街地の人口密度は 増すことになり,既存の住民にとってあまり好ましいことではありません。このような 自分たちにとって都合の悪い政策を市民が自らが選んでしまうところに,オレゴンの不 思議な州民性があるのですが,一説によると,手順が狡猾に進められているため,市民 は将来自分に降りかかってくる不都合にまだ気づいていないのだとも言われています。

「手順が狡猾」というのは,まず地域全体の目標だけ先に設定してしまい,あとは各自 治体の努力に任せるというやり方のことです。このメトロの決定を受け,都市圏の各自 治体は,いかに新たな人口を吸収するかの方策をそれぞれの総合計画の中で示さなけれ ばならなくなりました。メトロの要求はかなり具体的で,各自治体が負担すべき人口増 の割合などの数的な基準や,どこに成長を集中させるかなどの地理的な指示も加えられ ています。市民が,かつて自分たちの下した決定がいかに自分の身の回りに影響を及ぼ すかを実感するのは,これからというわけです。

そしてポートランド市では...

以上が大まかな状況説明です。ポートランド市のコミュニティ計画づくりは以上 のような文脈の上に進めれており,コミュニティ計画のことを理解するためにはこのよ うな都市圏全体の取り組みについての知識が必要だと思ったので,まずご紹介した次第 です。さて,そしてようやく,現在市のコミュニティ計画づくりがどういう状況にある のか,何が議論されているのか,はたして事実を悟った住民はどんな反乱を巻き起こす のか,など本題に入るわけですが,それは 次のページをごらんください。
Copyright (c) 1996 Takeo Murakami
 
 
 
 
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