コミュニティ計画の特徴は,これが市の法定総合計画の見直し作業を兼ねている点で す。オレゴン州内の全ての地方政府は,総合計画を立てることが義務づけられてお り,ポートランド市も1980年に総合計画を立てたのですが,そろそろ見直しの時期に 来ています。人口が多くて手間もかかるポートランド市では,この機会に見直し作業 を地区ごとに分けて行うことにしたわけです。
コミュニティ計画にはもうひとつの役割が期待されています。ポートランド市には 「ネイバフッド・プランニング」の良き伝統があり,住民の自治組織である近隣組合 が自分たちの町内の近隣計画を立てるのが慣例になっているのですが,コミュニティ 計画は,この草の根の近隣計画と,ともすればトップダウン型になりがちな法定総合 計画を結びつける役割も果たしているのです。
各分野は,政策/目標/行動という3段構成で記述されます。まず政策(policy)はそ の分野に関する基本的な姿勢を示した文章で,例えば住宅分野だったら「既存住宅の 保全・修築や業務地区での高密度住宅の新築などを通して現在および将来の住民のた めに住宅機会を増やす」といった感じのものです。
次に目標(objectives)は政策を具体的にかみ砕いて表現したもので,10個程度の箇条 書きの文章で構成されます。数値目標が混じることもあるようです。例えば「さまざ まな住戸タイプを用意する」「今後20年間で3,000戸の新規住宅を供給する」「良好 な賃貸住宅を保全する」といったものです。
そして行動(action)は目標を実現するために取り組むべき施策を示したもので,誰が (市,公社,近隣組合,公益企業,学校など),いつ(策定済み,進行中,5年以 内,20年以内),何をすべきか(事業,プログラム,規制)を整理した表(action chart)にまとめられています。例えば「集合住宅を許容するためにゾーニングを高密 度に変更する規制;市計画局;策定済み」「アフォーダブル住宅を建てるNPOを育成 するプログラム;市開発公社;20年以内」といったものです。
コミュニティ計画のセールスポイントはこの行動部分で,特に「誰が」何をすべきか ――行動の実行者(implementors)を列挙している点が計画の実現性を高めています。 ただし実行者には当然市役所の外の組織も含まれるため,市は合意の取り付けに注意 を払っており,専門勧告委員会という会議にそのような外部の組織の職員たちを招い て計画の妥当性を吟味してもらっています。
恐らく市役所としては,市民には計画の全体的な方向性を議論してもらって(政策/ 目標の部分),それを受けて市役所のプランナーたちがゾーニング変更を含めた具体 的な施策(行動の部分)を決めるように仕向けたいのだと思います。しかし政策→目 標→行動→ゾーニング変更と順を追ってことが運ばないのが現実の厳しいところで す。特にポートランド都市圏の場合,前回お話しましたようにメトロ広域政府の成長 管理計画がすでにある程度できあがっており,その中では中心都市(ポートランド市 など)の人口密度を高めることが明記されているため,市役所にとってはゾーニング 変更は最初から既定路線なわけです。
もちろん,メトロの成長管理計画だって入念な市民参加に基づいて作られたものです から,ゾーニング変更もきちんと説明すれば市民は納得してくれるはずなわけです が,この緊縮財政の折,そんな面倒臭い手順を踏まないで手早く成果だけ出してしま え,と市役所が考えるのは無理もないことでしょう。そんなふうに考えてか,不十分 な市民参加のまま計画の草案を作ったところ,市民の怒りと不満が爆発し,説明会に 400人が押し掛ける大騒ぎになったというのが,先日の南西コミュニティ計画の出来 事です。
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