急減圧

  次の問題は、「急減圧」です。
皆さんもご承知のとおり、飛行機の中は一定の圧力に保たれています。これは潜水艦と同じです。ただ一つ違うのは圧力を調整する段階で、圧力をより与えるかまたは逆に少なくするかという事でしょう。飛行機の場合外の圧力は、地上よりも極端に少ない状態にあります。それは、人間にとっては適さない状態なので、圧力を人工的にかけるのです。それをするシステムを「与圧システム」と言います。このシステムが突然故障したり、飛行機のどこかが割れて穴が空いたりすると、急減圧(急激に機内の与圧が下がる)が起こるのです。急減圧に陥るとまず、機内の気圧と温度が急激に下がります。(巡航中の機外の温度はマイナス50度くらいになるでしょう)

 急減圧が起こると外と中の圧力が等しくなろうとし、そのため、空気が液化して短期間の間機内にきりがかかったような状態になります。人間の体からも、体内の空気が出ていく為、少々の風邪をひいていたり、アレルギー等で鼻が詰まっていたりして耳抜きがうまくいかなかったとしたら、強烈な痛みに襲われるでしょう。その結果、鼓膜が破裂する事も予想されます。

 客室内では固定されていないものが、その辺を飛び回り、機体に穴があればそこへすごい勢いで吸い出されるのです。(大きい、重い荷物も例外ではありません、固定されていない荷物が飛んでいき、誰にぶつかるとも限りません)余談ですがまた映画の話になります「エイリアン4」(映画を見ていない人はごめんなさい)で、最後にエイリアンをやっつける時、主人公が自分をしっかり固定した後、機体にピストルで小さな穴を空けてエイリアンが、窓に吸い寄せられた後、穴にあったった部分の皮膚が破けて内臓が全て吸い出されてしまい一件落着と言うくだりがあります、あれは宇宙での話ですが、同じような物だと考えてもいいでしょう。

 これで、デモの時のみならずにキャビンアテンダントが常にシートベルトを閉めるようにしつこくいっているのが分かりますね。もちろん急減圧が起きた時のためだけではなく、CAT(クリアーエアータービュランス)と言う、予測の出来ない揺れの時のためでもあります。このCATに出会ってしまうと、突然何百フィートも飛行機は、空中を落ちていくことになります。もちろん、ぜんぜん予測が出来ないわけでもありません。前に他の飛行機が飛んでいる時などはその飛行機から、予告の連絡が入ります。全く揺れていなくてもシートベルトのサインがつきキャビンアテンダントが、全員を着席させ、トイレにも行けない事がありますね、これは予告が入ったと言うケースも少なくありあません。うまくよけられれば飛行機は全然揺れもせず、トイレを我慢させられた人たちは、「どういう事だ!」と憤慨するかもしれません。でもこれは、別にいたずらしてシートベルトのサインをつけているのではなく、それなりの事情があるのです。こういう時は、自分の安全のためにトイレは我慢しましょう。

話を急減圧に戻して、機体の損傷による急減圧で、機長がシートベルトをタイミング良くつけたため、乗客が助かったケースを次に挙げましょう。

ユナイテッド航空のボーイング747型機がホノルルを離陸して太平洋の上を高度23000フィートで飛行中、突然前方の貨物室のドアが開いてしまいそれと同時に15X10フィートの穴も空いてしまった。急減圧が起こりその為、9名の乗客が機外へ吸い出されてしまった。残りの343名は機体が安全にホノルル空港に着陸した後、脱出に成功、助かった。
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  機内の気圧が14000フイートに達すると、自動的に酸素マスクが、前の座席の背や頭上から落ちてきます。通常落ちてきた状態では頭の上の位置で、絡まっている状態で、それを一つ取り、自分の方へと引き寄せるように引っ張ります。引っ張る事により酸素が吸入されます。急減圧が起こった場合、人間が通常の意識を保てるのはたったの20秒間しかありません。その後もかろうじて意識があったとしても、もうろうとして、思考能力が激減します、なにかを考えたり、協力的に行動するのは難しいでしょう。これは、脳への酸素が足りなくなる、俗に言う酸欠が大きな原因です。もしこのような時自分が立っている状態なら、すばやく座り、シートベルトを締め、身近な酸素マスクを自分の方へ引っ張り、マスクに付属しているバンドで自分の鼻と口に当たるように固定しましょう。覚えていてください、それを自分で出来るのはたったの20秒間しかないのです。

 もし、自分の頭の上からマスクが落ちてこなくても、パニックに陥ってはいけません。酸素マスクは各座席の列ごとにスペアーが用意されています。前後の列の物を使えばいいのです。減圧が急激ではなくゆっくりと起こっているため、たいした事はないとたかをくくった乗客が、酸素マスクをつけずに重度の酸素欠乏症になってしまったケースもあります。

  減圧が発生した時、操縦士は機体を急降下させます。飛行機を人間が酸素マスク無しで呼吸できる高度まで急いで降下させなくてはならないからです。(これはおよそ海抜10000フィート、およそ富士山くらいの高さ、または、いくら低くても地上から4000フイート)この時、操縦士は出来るだけ早く降下できるため激しい降下をします。降下中飛行機が加速しないように、出来るだけのブレーキをかけるのです、そのため飛行機の頭の部分は地上向け真っ逆さまの状態になります。ここでもシートベルトの重要性が分かりますね。機体が安全高度までたどり着いたあと、はじめてキャビンアテンダントは乗客の安全の確認などで席を離れます。まだ、10000フィート以上を飛行している場合は、キャビンアテンダントも酸素ボトルをつけて歩く事になるので、皆さんはもちろん、マスクをしたまま座席に座っていましょう。

皆さんが良く知っている急減圧の事故の例としてアロアエアウェイズのボーイング737型機が、飛行中、金属疲労のため機体の屋根の1/3を紛失、しかし、その時丁度客室内を歩いていたキャビンアテンダントが一人行方不明になった他は後の乗客、乗員は全員助かったのは記憶にも新しいところです。
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衝撃防止姿勢

まとめ
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