「日本におけるモダニズムのもっとも良質な部分をこの建物でみることができる。」(磯崎新)。
群馬音楽センター(A.レーモンド設計、1961竣工)は、コンクリート折板による大スパンの音楽ホールです。最近の建築には少なくなった「構造がデザインを決定する」タイプの建築であり、その力強さは今なお魅力的です。
構造的にどのような仕組みであるのか、実際に見た当時にはうまく把握していなかったのですが、最近資料(*1)を手に入れました。それによると…
図1。
建物全体は、折板コンクリートによるV字断面の2ヒンジアーチを並べたものと考えられています。ただし、意匠計画上平面形を扇形としたことから、それぞれの「アーチ」は、傾いて立っています。
図2。
このため、それぞれのアーチは転倒モーメントを持っていることになります。
図3。
そこで、奥(ステージ側)から梁を渡し、引張によってそれを防止します。
この梁はまた、折板のV字断面の変形抑止の隔壁としての補強効果も持っています。
図4。
このような状態になります。
図5。
ここで、ファサードのほうに注目してみましょう。
この建物では入口部分が最もスパンが飛んでおり、実に60Mに達します。
図6。
そのため、弾性変形による垂直方向のたわみが大きくならざるを得ません。
図5。
そこで、前面に2本の細い柱を立てることにします。この柱は若干内倒しに設置し、転倒防止にも役立たせています。
ただしこれによって防止できないスパン間のたわみに対処すべく、前面サッシュの上端は折板に固定せず、変形を許容する詳細となっているそうです。
図5。
できあがり!。
パースペクティプ。
内観。
CGでは便宜的に正方形断面の「梁」として描いていますが、実際は全体がRC折板であり、特に屋根部分に関してはコンクリートの厚みが実に12cmしかないとのこと。
これによりRC造としては屋根荷重が非常に軽く、当然使用コンクリート量も少なくて済み、当時のこの類の建物としては著しくローコストに出来あがっているそうです。
ただし現在では、人件費の高騰などから、こうした複雑な形状のコンクリートの打設はあまり現実的であるとも思えなくなってきてしまっています。
実に、あの時代が我々に遺した素敵な贈物と解釈すべきでしょう。 |