「ダニエル」と「Cキューブ」阪急御影 / JR芦屋 ケーキ |
初めてのケーキ・ネタです。世田谷区在住の田中康夫氏がわざわざ神戸空港に反対しにきているように、わざわざケーキ屋について「『ダニエル』に、とどめをさすと思います」とまで書いてあるのだから、そりゃあ一度くらいとどめをさされに行ってみるのに如くはありません。 『ダニエル』は、同じ阪急御影浜側に、ふたつの店舗をもっています。ひとつは山手幹線沿いのテイクアウト店、もうひとつはにしむら珈琲の角を少しのぼった左手にある、パスタ等の軽食もとれる「アターブル ダニエル」です。今回はこちらのほうに行ってケーキとロイヤルミルクティーをいただきました。 いただきましたのはいいのですが。 近所の口コミなのかなんなのか、随分お客さんも多く、外でしばらく待つなどしたあとざわついた店内のテーブルに通された瞬間、がっかりしてしまいました。白いコットンのテーブルクロスに、前の客の皿とカップの跡がくっきりと残されているのです。同じく白い椅子には、ずいぶん目立つシミが残されたままです。あらかじめ注文は聞かれていたので、我々はメニューを見ながら迷う楽しみも奪われたまま、仕方なく店内を見渡すなどしますが、さほど上質とも云えない、夜になってあら隠しをしなければなんとなく「恥ずかしい」ような内装で、ましてやエア・コンディショナーの室外機の目隠しの前に座っていた我々は、あまり快適だとは云えませんでした。 ケーキが運ばれてきます。フロマージュ・ブラン。皿一杯に飾り砂糖を散らしてあるのは綺麗といえば綺麗、どこを持っても手がべとつくという意味では不快です。添えられたバニラ・アイスクリームもすでに溶けかけているのが哀しいところです。そして、その時点で我々には水のひとつも供されていなかったのでした。催促したところ、だいぶん遅れてからやってきたロイヤルミルクティーと一緒にようやく水も運ばれてきました。そのロイヤルミルクティーでさえ、もしかしたらサントリーの「Pekoe三ツ星紅茶、ぜいたくミルクティー」のほうがこれよりマシなんじゃないかと思ってしまうような代物で、添えられたシナモンスティックが単なる気取りにしか見えなくなってきてしまいます。 本当にその紅茶が不味かったかどうかは知りません。しかし最初の印象から、すべてが数珠繋ぎ式にそうなってしまったのでした。 白いコットンのテーブルクロスを使うのも、多いに結構なことです。しかし、それは毎度取り替えることが前提とされるべきです。…もちろん、我々はコースディナーを注文しているわけではないのだから、そこまで望むのはおかしいかもしれません。しかしそれなら、そのつもりがないのならば、メインテナンスの楽なビニールのクロスでも使っておくべきでしょう。しかもケーキひとつと紅茶一杯(ポットサービスでもない)でひとり1,500円という、安いとは思われない単価も払っているのだから、座席にまずコップ一杯の水を持ってくるくらいのサービスはあってしかるべきではないでしょうか。そもそも、「アターブルダニエル」というよりは、「ダニエル ア・ターブル」というほうがフランス語として自然ではないのでしょうか?。我々は結局最後まで「とどめをさされる」ことはできませんでした。 ☆ JR芦屋山側にある『Cキューブ』は、時折芦屋大丸に立ち寄った際などに見かけていた店でした。 Cの3乗と書いてCキューブなんですが、何かそういう軍事用語がありませんでしたっけ。軍事ネタをアートにするインゴ・ギュンターの作品にCキューブIというのもありましたよね。 それはともかく、ここの『Cキューブ』は、Charpantier Contemporary Cuisine、の略なのだそうです。アンリ・シャルパンティエ系なのですね。 一階の北側が厨房になっており、例によってガラス越しに内部を覗き見ることができます。1階入口から入ると、ショーケースにたくさんのケーキ。『ダニエル』に並んだそれももちろん美味しそうに見えましたが、こちらはもっと美味しそうに見えてしまいます。ひととおり垂涎したあと、2階が喫茶室ですので、階段をのぼっていきます。ステンレスと強化ガラスで作られたとても綺麗な階段です。下に見えているトイレブースは、瞬間調光ガラスを使ってあるのだそうです。 ケーキとエスプレッソを注文します。たくさんのケーキサンプルを持ってきてくれます。でも、下で見た美味しそうなモンブランがありません。「ここにあるのから選ばなければならないのですか?」「いえ、どちらでも結構ですよ。」「じゃあ、下にあったモンブランを」。下から持ってきてくれて、「こちらでよろしいですね?」と確認してくれます。 当然、すでにお水はいただいています。 ケーキが運ばれてきました。『ダニエル』みたいにやたら大きな皿に持ってくるんじゃなくて、程よい大きさのケーキ皿です。しかも褒め称えるべきは、その皿を予め冷やしてあることです。それによって、添えられたバニラ・アイスクリームが溶け出していません。『ダニエル』で見かけたそれよりもバニラ・ビーンズがしっかり顔を覗かせており、美味しそうです。 てっぺんにミント葉、上品な味のモンブラン(よく見かける黄色いモンブランじゃなくて、もっと栗色をしています)の中には大きな栗がひとつ。食べるごとに嬉しくなってしまうケーキでした。山吹色と深いオレンジ色のツートンカラーの可愛いデミタスに注がれたエスプレッソも、おいしくいただきました。見渡す内装も、石を使った壁とステンレス、ガラスの取り合わせがお洒落で、白い天井はまるく折り上げられていたり、床の一部に使ったモザイクタイルも心地よく、久しぶりに、お店に入るのにこんなわくわくした気分を味わった、という感じでした。帰りにはそのまま2階からペデストリアン・デッキに出て、芦屋駅に向かいます。 …どちらのケーキ屋さんがよさそうでした? なーんちって。 『ダニエル』の名誉の為に添えるとするなら、きっと、山手幹線沿いのテイクアウトのほうでケーキを選び、家に持ちかえって愉しむのには、おいしいケーキを味わえるのではないでしょうか?。もちろん紅茶も自分でいれて、ね。 ■追記(99/05/02) 新刊『それでも真っ当な料理店』に、以下のような記載がありました。 『ダニエル』のケーキを前書では激賞しました。不明を恥じます。ア・ターブルなるカフェを出店した前後から、巷間、噂されるが如く、味は着実に失速しています。併せて、数多くの読者から、温性の感じられぬ女子従業員の笑顔なき接客に関するお便りを戴きました。(…)温性の何たるかを端から理解せぬ作り手にとって疎ましき食べ手は、静かに立ち去るのみです。 |
最終更新日04/09/10