1996/12/07
宮薗節「鳥辺山」
【解説】宮薗節の最高傑作です。新内などにも移曲されています。おさえた節の微妙さは、なんともいえず官能的なものです。
本調子#一人来て二人連れ立つ極楽の 清水寺の鐘の声 早や初夜も過ぎ四つも告げ 九ツ心も 恋路の闇にくれは鳥
#綾なき空や 浮き橋に つながる縁や縫之助 つひ仇惚れも真となりて ホンの夫婦になりたいと 思ふ思ひはままならぬ 今はこの身に 愛想もこそも
二上がり#尽きた浮世や いざ鳥辺野の 女肌には白無垢や 上に紫 藤の紋 中着緋紗綾に黒じゅすの帯 年は十七 初花の
#雨にこがるる 立ち姿 男も肌は白小袖にて 黒き綸子に 色浅葱裏 二十一期の 色盛りをば 恋といふ字に 身を捨て小舟 どこへ取り付く しまとてもヲなし
本調子#聴く度々につらかりし 父母のこと 思ひ出し 後の嘆きを思ひやり ここから去んで呉竹の 伏し沈みたる袖の露
#浮き橋涙もろともに 父さんや母さんの あるはお前も同じこと その親々に苦をかける 不孝ものには誰がした 合惚れといふ仲人や 枕の科じやないかいな
#恋は心の外とやら ゆふべもうちの花車さんが わしに意見を真実の 色といふ字があればこそ 好かぬ勤めの辛抱も 好ひた殿ごへ心意気 愛し可愛ひが定ならば 五度逢ふものを三度逢ひ 二度を一度の逢瀬には 親親方の機嫌も良く 色で身を打つこともなく
#世間に多い心中も 金と不孝で名を流す 色で死ぬるは無いぞとよ
#恋は思いのはじめにて 盛りが憎い 迎い駕篭 そのきぬぎぬや朝顔の 夕顔にまでわけへだて 辛気な苦界 ままならぬ 悲しいことや 辛いこと生きる死ぬるの手詰にも 必ず かならず若気を出し 短気な心もちやんなやと 重ね井筒の上越した 粋な意見も上の空 お前に迷う心から 面白い気で聴いていた
#親御様へも世の義理も わしから起こるこのしだら 堪忍してとばかりにて すがり付いて泣き居たり
二上がり#思ひ切らしやれ もう泣かしやんな わしは泣かねど ソレこなさんの いやそなたの いや こなたのと 顔と顔を見合はせて 一度にワツと嘆くにぞ ひと足づつに消えて行く つひにこの野の 春降る雪や 折からに 早寺々の鐘もつきやみ 夜は白々と 鳥辺山にぞ着きにけり
top
声の音楽〜桃山晴衣と「ももやま塾」