7月1日(火)

                         タンペレ通信に戻る

昨日の列車

 土曜日に深夜、正確には日曜日の早朝のことである。タンペレからロバニエミに向かう夜行列車を待つ我々一家は、タンペレ駅の待合室にいた。
 0時を過ぎてしばらくすると、構内アナウンスがあった。ちんぷんかんぷんだが、周りにすわっていた人も一斉に移動し始めたし、我々の列車の次の列車は4時間後である。迷わず、指定の4番ホームに向かった。ホームへの階段には、板を渡してスロープが作ってあり、コロ付のトランクを引きずる父ちゃんには、ありがたい。このような長距離旅行者に対する配慮は、欧州に共通するものか。
 切符に指定の54番号車に乗り込み、我々の寝台がある寝台室の前まで進む。ドアを開けようとすると、なんとロックがかかっているので、そこで車掌さんが来るのを待つ。車掌さんは、隣の車両から移動してくると、3つ手前の寝台室を開錠している。なあんだ、車掌さんに開けてもらわんと開かんのかと思い、自分の切符を差し出すと、彼は一瞬、変な顔をして、切符の記載事項を読みにくそうに追い始めた。「老眼か?」とは思ったが、「今日は、日曜日だ。これは、昨日の切符だ」には、驚いた。
 確かに、我々は土曜の夜に夜行列車に乗って、日曜日の朝ロバニエミに着くよう旅行社に切符の手配を頼んだのである。確かに、切符には、28日(土)、0:40発の列車が指定されている。そのまま、読めば24時間前である。昨晩、切符を見直していて、確かに変な書き方だなあとは、思ったが、まさか、そんなに美しい間違いかたをしてくれるとは、予想だにしていなかったので、「フィンランドの鉄道では、夜中を過ぎても前日の続きと表現する慣習があるのか、おもしろいなあ。」などと、勝手に納得していたことが記憶に甦ってきた。
 これは、完全に負けである。言い訳のしようがない。今晩、アパートまでタクシーに乗り、失意の内に帰宅する気持ち、ロバニエミのホテルの1泊分のキャンセル、明日の晩の列車の予約、旅行社との交渉などを思うと、全く気が重く、泣きたい気持ちである。言葉の分からない家族も、異様な雰囲気を感じて、不安になり始めている。ふとっちょの車掌さん(私は、ふとっちょのおじさんが好きである、たぶん、これからも)が「とにかく、隣の55号車で待ちなさい。」と言ってくれたときは、地獄に仏の気分であった。
 55号車を降りようとすると、ホームで煙草を吸っていた(車内は禁煙)3人の(たぶん)フィンランド人のおばさんが、「どうしたの」と英語で聞いてきた。事情を話すと、「我々も、同じ体験をした。しかも、ロバニエミからヘルシンキまでと、タリンでの2回もよ」と、自慢しながらなぐさめてくれた。よくあることだから、車掌さんも柔軟に対応することに慣れているはずと言うのである。とにかく、まだ、空室があったので救われたのであろう。満室だったら、柔軟な対応も取りようがない。55号車の真ん中辺りの寝台室に入って、やっと一安心。

(寝台列車)

 フィンランドの寝台列車は良い。経済的で安全(だと思う)。全ての寝台室は個室で、(私の乗った列車で判断しては、判断を誤る可能性が残るが)3段のベッドを持つ、寝台室の扉はロックされるので、外部からの侵入はない。各寝台室には、3つのカードキーが配備され、トイレに出るときなどに持参、廊下側から開錠できる。我々は、家族で個室を1つ占有し、1段目に家内と素子、2段目に智、3段目に私が寝た。覚悟していたことだが、3段目が辛いことは万国共通である。最も揺れが大きく、振動に耐えながら眠りにつく覚悟がいる。しかし、大垣夜行や夜行の高速バスで東京まで移動するのは違い、完全に横になって眠れるのは有難い。利用をお進めできると思う。ただし、切符の日付には十分注意してね。
 寝台車の料金は、乗車券にベッド代が上乗せされる形になっており、3人利用が最も経済的である。ベッド代は、1人が200マルッカ、2人で各100マルッカ、3人だと各60マルッカ、結局、何人で使っても(3人部屋の)一部屋当たりの料金が追加されるのである。ちなみに、我々の払った運賃は、ベッド代180+乗車券(家族割引あり)385マルッカであり、乗車券も700km(くらいかな?)を移動した割には安い。子供の乗車券を半額とすると、大人一人あたり154マルッカ(約4000円)である。< BR >  国鉄のパンフレットを見ると、国鉄を使った週末のスキーツアー(ロバニエミからバスでさらに2時間ほどのスキー場、フィンランドでは最もコースの高度差が大きく500mくらいある)が、大人一人当り1000マルッカ弱である(リフト券などは別)。ヨーロッパアルプルの広大なオープンスロープ、30分ノンストップで滑ってもコースの半分にしか達しないゲレンデには未練が残るが、ラップランドのスキー場も良いかもしれない。

 


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