レジェンド セイレーンの歌声



レジェンド

 バブラシュカ大陸創世記から語られている伝説がある。
それは、伝説というほど曖昧ではないが、真実と言って
いいほど信憑性の高いものではない。しかしこの伝説を
かいま見たものがいる。それは・・・・・・・

 バブラシュカ大陸は陸上交通は盛んだが、こと海運と
なると貿易都市スネフに大きな港があるだけで、あとは
小さな漁村が点在するだけとあまり発達はしていない。
 しかしその中でとても気になる伝説があることを私は
しった。それは、「月が蒼く輝く夜、音もなくその伝説
の灯台は現れる・・・その灯台に触れし者、未来が輝く
瞬間を知るであろう」というものである。私がこの伝説
を知ったのは遥か昔、幼い子供の頃であった。そのころ
はただのおとぎ話と思っていたが、志しなかばにして夢
破れ自分の生き方を見失った今の私は、この伝説を解き
明かす流浪の旅に出ることにより、心を癒そうと考えた。

 あれは土星期も終わりに近い冬の日のことだった。私
はその伝説の灯台の情報を集めるため、大陸最大の港が
あるスネフに足を運んでいた。ものが灯台だけに港で聞
くのが一番と思ったからだ。しかしだれに聞いてもその
伝説は知っているが、そんな灯台は見たことがないとい
うものばかりであった。幸先の良くないこのはじまりに
少し気落ちはしたが、そんなにあっさり謎がとけては面
白くないとこの時は思っていた。しかしこの旅がこれほ
ど厳しく、そしてあのような結末になるなどとは、その
時の私にはとうてい考えられるものではなかった。

 スネフで情報を得られなかった私は、暖かい大陸南の
海岸線を通り小さな漁村もしらみつぶしに当たっていく
ことにした。はじめこの作業に関してなにも苦痛は感じ
なかったのだが、どの村、どの町に行っても同じ情報し
か得られないとなると次第にこの作業に疑問を感じるよ
うになってきた。しかしそんな私にある転機が訪れた。
それは有力な情報が手に入ったのである。その情報とは
豊かな大地、そして大いなる恵みを育む土地タリオ、そ
のタリオにほど近い農村に住むある老人が探し求める伝
説の灯台を見たことがあるという。私はその老人に会う
ためにその農村に向かうこととしたのだが、その行く手
には大きな難関が待ちかまえていることを悟ったのであ
った。その難関とは・・・何人たりとも通すことのない
死という結末のみが待ちかまえる砂漠ゴザである。しか
し私は意を決してこの砂漠を越えることを選んだのであ
る。そう、ここであきらめるには歳月がたちすぎていた
のである。

 さて、ゴザ越えの話は後日あらためてすることとしよ
う。何せこれだけで一つの物語が書けるほどの経験をし
たのだから・・・。

 死の砂漠ゴザを越えた私は、すでに精も根も尽き果て
ていた。しかしゴザを越えたという安心感と、新たな情
報への期待で自然に体は前へ進んでいた。そして目的の
農村にたどりついたとき信じられない光景を目の当たり
にしてしまった。それは村中がある植物で埋め尽くされ
ていたのである。人という人、生き物という生き物がす
べてその植物に覆い尽くされていた。私は言葉では言い
表すことのできないほどの絶望感を感じ、しばらくその
場を離れることはできなかった。そしてそこから幾刻か
の記憶は残っていない。おそらく大きな目標を失った絶
望感とここまでの旅の疲れでただなすすべもなく、ふら
ふらとさまよい歩き続けたのだろうと思われる。そして
私が次に気がついたときは、あの足を踏み入れては二度
と帰ることのない、ビスティームの中であった。どれだ
けの刻を私はこの帰らずの森で過ごしたのだろうか。そ
してどれだけの道のりを私は歩いたであろうか。そんな
私の前にある光景が広がったのであった。

 季節はもう冬になっていた。あれから何度目の冬だろ
うか。今の私には考える気力ももうない。私はこの寒空
の下、廃墟ナバトの今はもうその栄華をはかり知ること
のできないほど荒れ果てた街道の上に仰向けになってい
る。空には蒼い冬の月が輝いていた。すべてを失った私
はここで人生の幕を閉じるのだと、そう考えていた。私
は目を閉じた、今までの出来事が走馬燈のようによみが
えってくる。そしていつの間にか私は深い眠りに落ちて
いたようである。このまま死に落ちるのかと思われたそ
の時、私は眩しい光に目を覚ますこととなる。動かぬ体
を無理に起こし目を凝らすと、その光の中には人の形を
した像がたっていた。その時の記憶は実に曖昧である。
私は恐る恐るその像に近づき手を触れてみた。するとど
こからかはわからないが、私の頭の中に直接響くかのよ
うに声が聞こえてきた。
「私に触れし者よ、輝ける未来を約束しよう・・・。そ
して私はもう二度と現れることはないであろう。」
その声が終わるかどうかのうちに、私の記憶は闇の中に
落ちていった。

「先生!!先生!!起きてください!!新しい生き物が
届きましたよ!!」
私は助手の声で起こされたらしい。穏やかな昼下がり、
私はこの研究所の裏庭にあるこの木陰で昼寝をするのが
好きだ。ここで横になりながら夢の中をたゆたうのが好
きだ。しかしさっきのは本当に夢だったんだろうか。あ
の灯台の伝説は知っているが、あくまでも伝説だと思っ
ているのだが・・・。
「先生!!早くしてください!!」
おっと、助手がよんでいる。そろそろ仕事に戻るとしよ
う。今日からまた新しい生物の研究に入るのだから。そ
れではみなさんごきげんよう・・・・。

え??私??
私の名前はボージェス。
この大陸では結構有名な生物学者なんですよ。

それでは・・・・・




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