きらきらキラキラ きらめいて
ちらちらチラチラ 瞬くの
大きな川の そのまわり
集まり光を放ってる
蛍じゃないよ 私達
月無き夜には主役になれる
夜空を飾るスパンコール
ペガサス・白鳥・小グマに小イヌあなたの望む姿にその身を変えて
あなたの目を楽しませてあげる
きらきらキラキラ きらめいてちらちらチラチラ 瞬くの
「まさに夏ってカンジよね・・・。」
オレンジ色に染まる高台。
街を一望できる高台。
彼女は、沈み行く夕日に目をやりながら、大きく伸びをする。
そしてそのまま真後ろにある自分の愛車の上に腰掛け、背中から寝転んだ。
・・・と思ったら。
「アッチッチッチャッチャァァァ・・・・!!」
奇怪な悲鳴を上げて飛び起きた。
当たり前といえば当たり前のこと。
真夏の太陽の下、しかも、先ほどまでエンジンのかかっていた車のボディーの温度は、人が寝転がるのに適したものであるわけはないだろう。
・・・というか、ヤケドしてもおかしくない。
彼女は、意味のなさない悪態をつきながら、そこらじゅうを跳ね回っていた。
しばらくして、ようやく落ち着いてくると、目の前に低い柵にもたれかかる。
夕日に背を向け、車を正面に臨むように柵にもたれかかった彼女。
まだ少し息を整えている。
「・・・はぁ。」
大きく息をついて顔を上げる。
目を開けると、目の前には、すでに暗くなった空が広がっていた。
そして、そこに光る点が一つ・・・。
「あ・・・、一番星。」
呆けたようにつぶやく彼女。
そのまましばらくボーっと視線を空に向けている。
夕闇が深く広く広がっていき、ポツリポツリと光の点が増えてくる。
すると、
「よし!」
とばかりに、彼女は立ち上がり車に乗って、その場を去っていった。
...with Misato-san
"Mid-Summer"
・・・ブンッ。
低い音を立てて天井の水銀灯に一斉に火が灯る。
既に日は落ち、暗くなっていた屋内が照らされ、たゆたう水面が浮かび上がる。
このプールは、プールの中にもライトがついていて、水が青く浮かび上がるのだ。
そんなプールの一端。
ペタペタと足音をたてながら真中のレーンの飛び込み台に立つ者がいた。
彼は、台の上にしばし佇んだ後、
「・・・ふぅ。」
と吐息を漏らすと、
「・・・!」
無言で、なかなかキレイな放物線を描いてプールに飛び込んだ。
「はあはあはあはあはあはあ・・・。」一定の呼吸音。
力強い蹴りと、きれいに水をかき分ける腕。
オリンピックサイズのプールを、もくもくと泳ぎつづける彼が、この夏の初めまで泳げなかったなどと、誰が信じようか。
「ぷはぁ!」
プールの端にタッチして、彼、碇シンジは顔を上げた。
「・・・。」
プールサイドにつかまり息を整える。
そして、今まで泳いでいたプールを見やった。
すると、自然に笑みが浮かんでくる。
無理も無いことだ。
なにせシンジが泳いでいるのだ。
この夏の初めには、
『人は水に浮くようには出来ていない』
とまで思っていたシンジが、苦も無く泳いでいるのだ。
その喜びは、計り知れない。
リツコさんの考えてくれた『LCL作戦』は、大成功だった。
LCLで、自分の泳げないという思い込みを克服した後、すぐに普通の水での練習に移ったので、あれはただのきっかけに過ぎなかったのだが、あれが無ければ、きっかけすらつかむことはできなかっただろう。
しかも、リツコさんは、シンジが普通の水のプールである程度泳げるようになるまで、毎晩練習に付き合ってくれたのだ。
まったくもって、リツコさんには感謝してもしきれないものがある。
シンジは、心の中でリツコさんに感謝すると、プールの壁を蹴って、また泳ぎ始めた。
実際シンジは、ここまで自分が泳ぎを好きになるとは思ってもいなかった。
実のところ、ある程度泳げるようになった時点で、シンジの泳ぎの練習は終わっているのだ。
それなのに、その後も毎晩プールに来てしまっているのは、シンジが泳ぎを楽しんでいるからに他ならない。
シンジは、目を瞑り顔を上げる。そして、そのままプールサイドから手を放すと、大きく両腕を広げて、背中からプールの水にその身をゆだねた。
プカプカと浮かぶ。
ゆらゆらと揺れる。
シンジは、全身の力を完全に抜いていた。
ただただ水面に身をゆだねて、ゆっくりをプールを漂っている。
目を開けていれば、天井の水銀灯の明かりが見えるのだろうが、シンジはその瞳を閉じたままだ。
完全にリラックスしていたシンジ。
だが、
・・・バシャンッ!!
水に何かが飛び込む音と同時にシンジに水飛沫がかかると、
「・・・!?」
さすがに、目を開けて飛び起きた。
立ち泳ぎになってあたりを見回す。
だが、水面に波紋が広がっているほかは何も見えない。
「おかしいな?」
そう思いながら、更にキョロキョロとあたりを見回す。
と、その時、
・・・ザバッ!
シンジの真後ろで水音がしたかと思うと、
ガバッ!!
と、何者かが後ろから抱き付いてきた。
「・・・な、ななな・・・!!??」
突然の事に慌てるシンジ。
しかも、背中に大きくやわらかな二つのなにかの感触をヴィヴィッドに感じて、更に慌ててしまう。
「・・・えっ、あっ、なっ・・・だっ、誰・・・!?」
背中にガッチリと張り付かれているため、後ろを振り向くことすら出来ないシンジ。
彼には、慌てた声でそう問うことしか出来なかった。
すると、シンジは、自分の耳元で吐息を感じた。
「・・・!?」
わけのわからない状態の中で、シンジの体はガチガチに硬直。
顔は、真っ赤に染まっていた。
そんなシンジだったが、
「えへへ・・・シ〜ンちゃん・・・。」
その声を聞くと、違う意味で慌てふためいて、
「み、み、み・・・、ミサトさん!」
暴れ出した。
「・・・と、いうわけなんです。」何とかミサトさんに放れてもらったシンジ。
二人は、プールサイドに並んで座っていた。
案の定、というかなんというか、シンジは、ミサトさんにここにいる理由をしゃべらせられてしまった。
このプールは、リツコさんの手によってシンジの貸切となっていたのだったが、そんなことはミサトさんには関係無い。
彼女は、泳ぎたいと思ったからここに来たのだ。
もちろん、入るときに貸切のサインは見たが、彼女にとっては、そんなものは、それがどうした、くらいの価値しかない。
誰が入っているのかは知らないが、自分一人くらい入っても大丈夫だろうと思っていた。
シンジが一人でいたのはうれしい誤算であった。
なぜなら、シンジなら自分を拒みなんかしないと確信していたからだ。
しかも、
「こ、ここ・・・貸切になってたはずなんですけど・・・!!?」
などと、どもりながら言われてしまっては、これは何かある、と思わないわけもなかったし、それを指摘して、更に慌てたシンジから聞き出した内容は、彼女に意地悪そうな笑みを浮かべさするのに十分だった。
「ふーん・・・、マヤちゃんと海にねぇ・・・。」
からかいたい、という思いが滲み出ている笑みを浮かべるミサトさん。
「シンジ君もやるこたやってるんだ。」
「・・・な、なんですか、それは。」
ミサトさんの意味ありげな物言いに、よせばいいのに聞き返してしまうシンジ。
ミサトさんは、更にその笑みを深めて、
「だぁーから、一夏の体験しちゃうんでしょ。」
などと言ってくる。
「・・・な、な、な、な、な・・・!!」
シンジは、言葉を紡ぐことも出来ないくらいに慌てていた。
そんなシンジに、
「お、照れちゃってこのー・・・、ニクイね・・・!」
などと、突っつくミサトさん。
シンジが、ミサトさんのオモチャ状態から脱するのには、それからかなりの時間がかかった。
スイスイスイ・・・。
プールの端のレーンを静かに泳ぐシンジ。
バチャバチャバチャ・・・。
プールのまん真中を豪快なフォームで泳ぐミサトさん。
スイスイスイ・・・。バチャバチャバチャ・・・。
スイスイスイ・・・。
バチャバチャバチャ・・・。
スイスイスイ・・・。
バチャバチャバチャ・・・。
シンジを存分にからかった後、ミサトさんは当初の目的どおり、泳ぎに入った。シンジも、さんざんからかわれた後で少しばかり気分を害していたのだったが(とは言え、ちょっぴりむくれている程度だったが)、同様に、当初の目的どおり泳ぎを再開した。
・・・ちょっぴりむくれたままではあったが。
スイスイスイ・・・。バチャバチャバチャ・・・。
スイスイスイ・・・。
・・・。
スイスイスイ・・・。
・・・。
ものも言わず、ただひたすらに、といったカンジで泳いでいた二人だったが、いつしかミサトさんは泳ぐのを辞めて、プールをいくつかのレーンに分けている浮きつきのロープにもたれながら、シンジの泳ぐ姿をボーっと見ていた。「・・・。」
スイスイと、キレイなフォームで泳ぐシンジを、感心したように見ていた。
さすがは元同居人、彼女自身、シンジが泳げなかった事をよく知っていたので・・・というか、その事でよくからかっていたので、何やら思うところもあるらしい。
呆けたようにシンジを見ながら、そのフォームに自分の親友の姿を思い出してしまう。
思えば彼女の泳ぎもキレイだった。
それに、その彼女が保護者をしていた娘も・・・。
「・・・やっぱり、どうしても似てくるのかしらね?」
ミサトさんがつぶやくと、隣のレーンで泳いでいたシンジが、ミサトさんのいる方のプールに泳ぎ着いて、
・・・プハッ!
顔を上げた。
「どうしたんですかミサトさん。もう泳がないんですか?」
にこやかに話しかけるシンジ。
「んー、ちょっとね・・・。シンちゃんの泳ぎに見とれちゃったかな?」
へへへ、と、いつものように笑ってみせるミサトさん。
シンジは、
「なに言ってんですか、もう・・・。」
と、やはりこちらもいつもの苦笑を浮かべた。
「いやいや、でもホント、シンちゃん泳ぎうまくなったわねぇ。お姉さんは関心しちゃったわ。」
ウンウン、と自分で自分に頷くミサトさん。
「はあ。でも、波のあるところではまだ泳いだこと無いんで、実際はどの程度泳げるのか、わからないんですけどね。」
シンジは苦笑を浮かべたままだ。
だが、シンジのその言葉を聞くとミサトさんは、ちょっと目を見開くと、
「ダメよシンちゃん、そんなことじゃ!」
ズズイとシンジに顔を近づけた。
「・・・は?」
思わず呆けてしまうシンジ。
「海に行きましょう海に! プールでは味わえない醍醐味があるのよ!!」
そんなシンジに、ミサトさんは力強く言い切った。
そして、
「それにね、波くらい経験しておかなきゃ、マヤちゃんの前で変なとこ見せたくないでしょ。」
茶目っ気たっぷりにウインクして見せた。
シンジは、戸惑いながらも、なんとなく逆らえない自分のこれからを予想していた。
さわさわと、緩やかに吹く陸風が、素肌を舐るように吹いているのが感じられる。
足元には、やはりさわさわとした砂浜。
日中はヤケドするくらい熱くなるのであろうその砂も、今では冷え切っている。
そしてなにより、目の前に広がるモノ。
海と呼ばれるモノであることはわかっている。
波の音も聞こえている。
わかってはいるが、シンジは戸惑っていた。
なぜならこの夜、月は無く。
目の前には、ただ漆黒の空間があるだけだったからだ。
ザザー・・・。
立ち止まっているシンジの耳に響く潮騒。だが、
バシャバシャバシャ・・・!
その静かに広く深い音は、他の音によってさえぎられた。「ほーらシンジ君もいらっしゃいよぉ! 冷たくって気持ち良いわよぉ!」
呆然と遠くを見やっていたシンジの焦点が、その声のした方に定まる。
そこには、渚で戯れるミサトさんの姿が見えた。
月無き夜ではあったが、星は出ていたし、シンジの目も、闇に慣れてきていた。
ミサトさんは、先ほどと同じ水着姿で水飛沫をたててはしゃいでいた。
これが昼間なら、ミサトさんのあげている水飛沫が太陽の光を反射して、ミサトさんを輝かせていただろう。
今でも、違った意味で輝いているように見える。
シンジは、そんなミサトさんに誘われて、寄せては返す渚に足を踏み入れる。
ザザー・・・。
シンジの足に寄せた波が返ると共にシンジの足元の砂がひいていく。その感覚は、まるで引き込まれるような感じだった。
まるで、真っ暗な海に引き込まれてしまうような・・・。
「怖いですよ・・・。」
思わずシンジはつぶやいていた。
「なに言ってんの!おっとこのこでしょ!」
バシャ!
ミサトさんに思いっきり水をかけられた。「・・・しょっぱい・・・ぶっ!!」
そう言うひまも無くミサトさんは続けて水をかけてきた。
「ほらほら! シンちゃん、なにやってんの。」
ミサトさんの声はいたずらっぽそうに笑っていた。
それがわかったから、シンジも気分がくるっと変わって、
「ミサトさん・・・。」
「・・・な、なによ。」
「・・・おかえしですっ!!」
ミサトさんに思いっきり水をかけ返し始めた。
「うわっぷ!・・・シンジく・・・っぷ!」
「あははは・・・!」
「・・・もう・・・っぷ、やったわねぇ!!」
バシャバシャバシャ!バシャバシャバシャ!
2人とも子供みたいに水のかけっこをはじめた。子供みたいな表情で、子供みたいに笑っていた。
バシャバシャと走り回り、水をかけあった。
そして、何時の間にか少し深いところまで来ていた2人。
2人ともゼエゼエと息をしている。
力いっぱい遊んだからだ。
肩で息をしながらも笑顔で相対している2人。
少し動きが止まった時、ミサトさんがまた、いたずらっぽく微笑んだ。
「シ〜ンちゃんっ!!」
大きく跳んで、シンジに跳びついてきた。
「・・・なっ!」
バッシャァーン・・・!!
いきなり跳びついてきたミサトさんに耐え切れるはずも無く、諸共海に沈む2人。「ぼこぼこぼこ・・・。」
「ぶくぶくぶく・・・。」
「「・・・ぷはぁっ!」」
そして2人は同時に浮かんできた。
ちなみに2人の体はもう離れている。
「な、何をするんですミサトさん!?」
慌てているシンジだったが、ミサトさんのほうはただ笑っていた。
「あはははは・・・いーじゃないのシンちゃん。」
そう言いながら、ミサトさんは上向けに横になった。
背泳ぎのような格好で海に浮かぶ。
「ほら、シンちゃんもこうして見て御覧なさいよ。」
ミサトさんは、真正面を見つめながらシンジに言った。
「なに言ってんですか、もう。」
少し不満げなシンジ。
だがミサトさんは、
「いいからいいから。」
そんなシンジの言うことなど聞かず、シンジを促す。
「・・・もう。」
ちょっとブスっとつぶやいて、シンジもミサトさんのように横になった。
そして、
「うわぁ・・・。」
感嘆の声をあげた。
プカプカと背中を水面にあずけて海に浮かぶと、目の前には満天の星空が広がる。
月の無い夜、星々は、その煌きを増すのだ。
キラキラと煌き、チラチラと瞬く。
天の川は、その姿を大きく示し、いつもなら見えないような星々も、はっきりと姿をあらわしていた。
「「・・・。」」
2人とも、言葉無く、その夏の夜の空を見上げていた。
そして、
ふと、シンジはその腕に何かを感じる。
その感触は、と思って横を見る。
そこには、並んで浮かんでいるミサトさんの顔がすぐ近くにあった。
ミサトさんの表情は微笑んでいる。
シンジも微笑みを浮かべた。
そして、自然に2人の手が繋がれると、2人ともまた夜空を見上げるのだった。
互いの温もりを、その手を通して感じながら。
闇の中、知ることの出来ない空と海の接点。
そこには、空も海も無く、世界は一つとなっていた。
星々の浮かぶ大海に、ただ漂う二人。
大切なのは、互いの手に感じる温もり。
真夏の星座達と戯れながら、真夏の夜は夢のように過ぎていった。
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