キミの名は




珍しくみんなで一緒に遊びに出かけた日。
すごい人込みで散り散りになってしまった私たち。
気づいたときには、彼と二人だけになっていた。

「こりゃ困ったな。この人込みじゃ、みんなを見つけるなんて並大抵のことじゃないぞ」

伊角くんは、ため息をついていた。
たしかにそうかもしれないけど、私と一緒にいるんだからもうちょっと嬉しそうにして欲しい、って思うのは、私のわがままなのかな。

私の一方的な想いだっていうのはわかってるけど。
ちょっとさみしくなってしまう。

「どうしようか?」

彼が私の方を無くと同時に、

「慎一郎くんじゃない!」

彼の後ろの方から彼を呼ぶ声。
女の人の声。
彼は振り向かなきゃいけなかったけど、私はもとからそっちを向いていたからすぐに見えた。
私より大人っぽい女の人。
くやしいけど、結構美人。
しかも、

「今日子!?」

振り向いて彼に名前で呼ばれてる。

すごく・・・悔しいかもしんない。

「ど、どうしたんだ、こんなところで?」

彼、ちょっとどもってる。
あ、今、私のことちらっと見た。
なんか、バツの悪いような表情してる。
いーですよー。
私はただの囲碁仲間でしかないんでしょうから。
ふんだ。

「伊角くんのお友達? じゃ、私、行くね」

ニッコリ、完璧な微笑みを浮かべてさっさと歩き去っちゃおう。
彼女の笑顔が勝ち誇ったような顔に見えたけど、彼のあんな顔見たくないから。

ばいばい。

「えっ、ちょっ・・・ちょっと奈瀬!」

彼の慌てたような声が聞こえるけど、聞く耳持ちません。
スイスイと人波を潜り抜けながらその場を離れる私。
きっと今の私は、怒った顔をしているんだろう。
周りの人たちが私のことを見ているような気がするから。
でも、そんなこと気になんかならない。
全然気になんかならない。
私はただただ前を見て歩き続ける。

「・・・!?」

すると、突然後ろから腕をつかまれた。
驚いて振り向くと、そこにいたのは、

「・・・伊角くん」

彼だった。
なんだか真剣な顔してる。
私はなぜか目を合わせることが出来なかった。

「奈瀬」

でも、彼にそう呼ばれたら、
苗字でそう呼ばれたら、反射的に口を開いてた。

「・・・『アスミ』」
「・・・?」
「・・・『明日美』だもん」
「・・・え?」
「『明日美』なんだもん!」
「・・・。」

つまんないことだけど。
自分には、こんなこと言う資格ないのかもしれないけど。
言わずにはいられなかった。
気がついたら、何時の間にかに私の腕から彼の手は放れていた。
呆れられちゃったのかな。
すぐ目の前にいるのは分かってるんだけど、何にも言ってこないし。
私も、目、合わせられないし。

と、思ったら、

「・・・!?」

いきなり両手で顔を上げられた。
目の前にあるのは・・・彼の・・・顔。
なんだかとってもやさしげに微笑んでる。

・・・かぁっ

こんな間近に。
顔が・・・火照っちゃう。

「『シンイチロウサン』」
「・・・?」

え? なに?

「『慎一郎さん』、だよ」
「・・・え?」

なに言ってるの?

「だから、『慎一郎さん』」
「・・・『慎一郎さん』」
「はい、良く出来ました」

・・・って、えっ!?
・・・な、なに!?
私・・・もしかして抱きしめられちゃってるの!?

「『明日美』」

・・・!!??

「『明日美』・・・これでいいんだろ」

・・・そんな嬉しい言葉、いきなり耳元で囁かないでよっ!!
私にだって、心の準備というものが。
・・・って、何考えてるの私!?

「明日美」

・・・っひゃうん!
だからそんな、耳元で囁かれちゃうと・・・!

「明日美」

・・・ううう・・・それならそれで、こっちだって!

「・・・慎一郎さん」

胸元に頬寄せて囁いちゃうんだから。

「慎一郎さん」

反撃よ!

「明日美」
「慎一郎さん」
「明日美」
「慎一郎さん」
「明日美」
「慎一郎さん」
「明日美」
「慎一郎さん」
「明日美」
「慎一郎さん」
「明日美」
「慎一郎さん」
・・・
・・・
・・・


後で気づいたんだけど、私たちって駅前で堂々とこんなことやってたのよね。
しかも、抱き合いながらお互いの名前を呼び合っているところを、散り散りになっちゃってたみんなにも目撃されちゃったみたいで・・・。

もう、みんなにバレバレ。
和谷は、なんかニヤニヤしてるし。
進藤は、私たち見るたびに顔赤くしてるし・・・って、かわいいじゃない。
フクは・・・変わらないわねぇ。
でもいいの、
「ねー・・・慎一郎さん!」
「ん? なんだい明日美」
ほらね。
だからいーの。




おしまい

 


あとがき

誰かこの暴走男を止めてくれぇ〜!(笑)
16歳の女の子の一人称なんてなに考えてんだぁ〜!!(爆)


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