涙とため息の季節
煉瓦敷きの並木道。
木々は、目に痛いほどに赤く染まり、その煉瓦敷きの小道をも埋めつくさんと葉を散らす。
散りゆく葉は、つむじ風に舞い、視界をも赤く染めてしまう。「――― はぁ」
私にとってのこの季節は、ため息の季節なのだ。
ヒカルと出会って数年たった今でもそれは変わらない。
現に今、こうやって二人でこの道を歩いていても、思わずため息をついてしまうのだから。「なんだよ佐為、陰気なため息なんかついちゃって?」
ヒカルは、眉をしかめている。
そんなに陰気だったのだろうか?
とはいえ、「私は一応幽霊みたいなものなわけですから、少々陰気でもしょうがないんじゃないでしょうか」
とも思わなくも無い。
「それに、この季節になると、どうしても昔を思い出してしまうのです」
大君の都。
平安の都。
あの都も、やはりこのように紅葉が美しかった。
いや、あの都は、周りを山で囲まれている分、もっと美しかった。
だが……、「おい、どうしたんだよ佐為?」
「え……?」何時の間にかにヒカルに顔を覗き込まれていた。
私はそんなにぼんやりとしていたのでしょうか。「ふぅ……」
少し自己嫌悪に陥って、またため息をついてしまう。
視線を前方に走らせれば噴水の目の前まで私たちは来ていた。
都にあった、唐朝鮮の者たちの手になる庭園とは、また違った趣のある水の芸術。
目の前を木の葉が一枚ひらひらと舞い、水面に落ちる。
ゆらゆらと揺れる水面とともに、その葉もゆらゆらと。「……!」
途端に思い浮かんだ情景。
鮮烈に思い出される情景。
情景だけではなく、感情も感覚も鮮やかに。
苦く、苦しく、悲しい。
冷たい水が、急速に身体の体温を奪っていく感覚。それは、私のため息の原因。
私の最後の記憶。
私の、最初の、最後の記憶。――― パシャ
「……!?」
突然聞こえた水音に引き戻される私。
「佐為、見てみろよ、ここまで奇麗な落ち葉は珍しいぜ!」
目の前には、噴水の水面に舞い落ちた葉を拾い掲げたヒカルがいた。
得意そうな顔をしているヒカル。
先ほど聞こえた水音は、ヒカルが葉をすくいあげた音だったのか。「ここまで立派な葉っぱだから、押してあかりにでもやるか?」
そして、葉と一緒に……。
「フフフ……」
思わずもれてしまう笑み。
でも、「……って、おい…なに、泣いてんだよ、お前は……」
おかしいですね、ヒカルは驚いたような顔でそんなことを言います。
――― あ。
でも、自分の頬が濡れているのを確かに感じる。
「……おかしいですね。私は今、とても喜びを感じているんですよ」
本当に…本当に……。
おかしいですね…こんなの。「まあったく、さっきまではため息ばっかりついてたかと思ったら、今度はいきなり泣き出すかよ……?」
理解不能、とばかり頭をふるヒカル。
おかしいのは自分でも分かっています。
でも、仕方がないんです。
なぜなら、「今は、ため息と涙の季節なのですから」
喜びの涙の……。
おしまい
あとがき
紅く染まった木々と庭の池に落ちる紅葉を見ていたら、なぜかこんなものが頭に浮かんできてしまった。
『ため息と涙の季節』という題名からは、失恋だかなんだかの話に思えるけど、いきなり入水自殺の話だし。(爆)
実際に佐為が入水したのがどの季節だったのかはわからないけれど、枯葉舞い散る中、池だか湖だかにしずしずと入っていく姿は絵になるような気がしたのよ。
ただそれだけなんです。(苦笑)
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