私は水曜と金曜の夜しか稽古に行きませんけど、本当は日曜日の朝にもやってい
るのです。
毎週日曜日、朝の6時半から二時間ほどやってるらしい。
言うまでもなく宵っ張りの私がそんなに早く起きられる訳はないので、先生方に
何度か誘われたのですが、起きられないからと言って断っていました。
しかし会員の中には私と逆に夜は来ない人もいるようで、「同じ会員なのに顔も
知らないというのはマズいですから、皆さんに紹介するので、一度だけでもいい
から出てきて下さい」と言われました。
そこまで言われたら仕方ないので、死んだ気で一度だけ出てみました。
なんせ朝の6時半からですから、遅くても6時前には起きなくてはいけません。
日曜の朝6時に起きるということは、土曜の夜は早く寝なくてはいけないという
ことです。
土曜の夜に早く寝るというのは、私にとってまず不可能(!)な事であります。
寝るときからちっとも寝られずに不機嫌だったんだけど、朝、起きてやはり調子
が出る訳がない。
そんなに早く起きたこと無いから、なんでこんなに早く起きなくてはいけないん
だ……とぶつぶつ言いながら、いつものようにパンとカフェオレで朝飯を済ませ、
体育館に行きました。
すると、知らない子供が防具を担いでゾロゾロと歩いているのです。オロオロし
ながら、取りあえずオハヨウの挨拶を連発しました。
夜の部の稽古では見たことのない小学生や中学生が、10人以上いましたか。
子供だけでなく、先生も、やはり見たことのない方が何人かいたりしてちょっと
恥ずかしい。
仕事の関係で夜は来られず、朝だけ来る先生方のようでした。
いつも稽古を付けてもらっている先生方に「おやカメ山さん、珍しいじゃないか」
などと言われながら、会長先生に促されて自己紹介をしました。
上手に先生方が、下手に子供たちが並んで正座し、その後に子供の父兄さん達が
ゾロゾロと座っていて、そうでなくても寝起きの私には嫌な場面でした。
朝の光が目に痛いというか、眩しいんだよ朝は!!! あ〜目が痛い!!!
会長先生が少しお話をされ、それから稽古が始まったのですが、いつもの稽古と
違って子供の練習が中心のようでした。
皆でしばらく素振りをし、面を付けるんですけど、先生だけでは元立ちが足りな
いので、中学生の大きい子や、私も人数合わせで元に立つ訳です。
しかし、いつも先生に教えてもらっているだけなので元立ちの按配がよくわから
ない……。
この時点で、元に立った事はほとんどなかったと思います。
打ち込みくらいならいいんだけど、稽古となるとちょっとね〜。
カカシみたいに突っ立ってたら、体当たりしてきた子供をふっ飛ばしてしまった
り、先生相手の時のように竹刀の剣先を利かせていたら、打ち込んできた小学生
の喉を突いてしまって咳き込ませたりしました。慣れてないと立つのも難しいぞ〜。
先生から「相手は子供ですから、打たせてやってください」なんて言われてしま
いました。
「剣先を利かせると、子供が怖がって出られなくなってしまいますから」と。
そうですよね〜、小学生相手に剣先を突っ張っても仕方ないんだ。稽古をさせて
やるんだから打たせなくてはいけない。
打たせながら気がついたんだけど、中学生の子などは体格的にはもう私と変わら
ない子もいます。
で、私の付けている特価品よりも上等な防具を付けている子もいるんですよ。
でで、ふと見ると、一人の女の子が付けている防具がなんと私のと同じブツでし
た。飾りの色までまったく同じ品物です。
これはちょっと嫌でしたね。
防具屋のオヤジが言ってたように、やはり安いブツを買ってもそのうちにもっと
いい物が欲しくなるって、その通りかもしれない。いくら初心者でも、いいオジ
さんが中学生と同じ防具ではちょっとな〜〜〜。
そんなこんなで子供の稽古が終わると、適当に先生に稽古を付けてもらいました。
いつもと違う先生に稽古をして貰うのはいいですね。格好いいところを見せよう
と、ちょっとムキになったりします。
こうして朝の稽古は終わりました。
感想は、やっぱり私には朝の稽古は向いてないぞ。
最後の最後まで、身体が目覚めないような感じでした。
その上、疲れ切って帰ると当然眠くなるので、昼寝なんかをしてしまいます。せっ
かくの日曜が朝稽古と昼寝で終わってしまうわけです。これはちょっとな〜〜〜。
先生から「また気が向いたら出てきて下さい」と言われたんだけど、あれっきり
出たことはありません。勘弁してくれ〜〜〜ってとこでしょうか。
それにしても私の防具、この特価品の防具は物足りないな〜。なんたって、中学
生の女の子の防具と一緒だものな〜。
もっと上等な防具が欲しいな〜とか思いながら、それでも、この特価品の防具を
買うときにも、一生は無理だけど10年は使えるぞなんて言って買ったから、早々
に買い替えるとも言い出せずにいます。
今現在で……まだ1年半しか使っていないんのか……。
カタログなんか見ると、まあまあのブツでも20万円以上。満足出来るブツとな
るとやはり30万以上はするから、構わないから買ってしまおうか、という甘美
な誘惑と戦いながらまだ我慢しています。
そんなこんなで夜のみ稽古を続けた私ですが、日によってメンバーにかなりバラ
つきがあるんですよ。
私はもう、特別に用事が無ければ多少体調が悪くても、仕事が忙しくても絶対に
稽古を休まないと決めたので、まず確実に稽古に出かけるわけですが、日によっ
ては幼年部の稽古が終わると会長先生と私とオバさんのみとか、私と小学生が一
人、なんてぇこともありました。
冬の寒い日とか雪の日なんて、下手すると先生と私一人、なんてぇ事もありまし
たね〜。そんなときは逆にじっくりと教えていただけるので有り難いかも。
オバさんから聞いた話では、ここんとこ剣道もさっぱり人気がなくていけないそ
うで、昔は子供だけで30人も居て、一度に稽古が出来ずに余った子供は隅っこ
で打ち込み台(金属で出来たフレームの小手と面の位置にラバーが付いていて、
それを打ち込む道具です)を相手に稽古していたそうです。
国士館出身の先生が監督をやっていて、県大会ではいつもいいとこまで行ってた
頃もあるようです。
しかし最近は子供も数が減り、下手すりゃ元立ちの先生が余っているような状況
になったりします。
で、他に相手がいないときは仕方ないので、小学生の男の子と稽古をするような
事もありました。
よく稽古したのは5年生の男の子で、ウチの下の娘と同い年なんですね。
私はまだ初心者なんだけど、この子はすでに5年くらいのキャリアがあるから、
やたらと巧いんですよ。
基礎はしっかりしているし、打ちは私よりはるかに早いときたもんだ。
もっとも、本人は剣道なんてあまり好きでないんだけど、兄が二人やっていて、
親がどうしてもやれというので嫌々やっているらしい。
本人はサッカーの方が好きで、サッカーをやらせてもらえるなら剣道もやるとい
う交換条件で、嫌々連れられて来ていました。
週三回剣道をやり、他の日はサッカー。若いですよね〜。
で、基本打ちの後その子と稽古するんだけど、動きが早くて付いてけない。
その上に身体が小さいから的も小さいんです。面はもちろんのこと、小手なんて
ほんのちょっとしかスペースしかないもんだから、まったく打ち込めません。
近間でガチャガチャと稽古をして、で、私が彼よりも勝っているのはただ一つ、
体当たりのみだという事に気づきました。
動きには付いてけないから、とりあえず体当たりでもしてみるわけです。
流石に体当たりだけなら私が勝てました。
一生懸命打ち込むんだけど、ちっとも当たりゃしない。で、また体当たりをして
みる。すると少し気分がいい。
でも、剣道じゃないよね、あんなのは。
いまならもう少しうまく出来ると思うんだけど、いや〜、情けなかったです。
情けないと言えば、時々ですけどOBの女子高生(!)が来ることもありました。
稽古に来ている子供たちは中学生になると何人かはやめてしまいます。さらに高
校になるとみんな来なくなります。そのまま剣道を止める子もいれば、高校の剣
道部に入る子もいる。
剣道部に入った子はOBというかたちで、昇段審査が近くなったり、試合が近づ
いてきたりとか、部活がしばらくお休みになるときとかに先生方に見てもらいに
来るわけです。
二人ほど居ましたが、思えば、剣道をやる中学以上の女の子というのを見たのは
それが初めてでしたね〜。
ちょっといいですね、剣道やる女の子。気合いが男の声と違うんだ。甲高くて、
聞いてると頭が痛くなりそうな響きでいいですよ。
特に美人とか可愛いとかではないんだけど、ごく普通の女の子でもいいもんです。
白い稽古着に白い袴が特にいいですね。
とはいえ、女の子らは先生方に見てもらうので、私と竹刀を交えるという事は有
りませんでした。
初段だということで、次の昇段審査で二段を受けるとか、試合が近いからちょっ
と鍛えてもらおう、とかいうことで来ていたようです。
でで、ある日のこと、なんということでしょう! 会長先生と私とその二人の女
の子だけ、というステキな状況が発生したのでした。
これは〜、妙なものですね。
白い稽古着と白い袴を着けた女子高生二人と、初心者の私はいいおじさんなわけ
です。自分でいうのもアレだけど妙な取り合せかも知れない。
しかも、試合が近いということで、試合練習をしてみようなんてぇ事になってし
まいました。
試合練習というのは、文字通り、試合の練習です。でも、私はそんなものはやっ
たことがない。
普段の稽古は、とにかくよい姿勢で、大きく早く、思い切り踏み込んで大きな技
を出す練習しかしてないわけです。
試合というのは、こういうのとはちと違うんでないか? 知らんけど。
で、負け残り(負けた者が残るんですよ)の試合練習をしたのです。
当時の私は、まだ仕掛け技も応じ技も教わってなくて、さあ一本取れと言われて
もどうしたらいいのかまったく分からないレベルでした。
でもやれというので、いつものように、大きく踏み込んで大きな技を出すのです
が、軽く受けられてまったくダメ。
そうこうするうちに相手の彼女がふっと竹刀を動かし、私がつられて竹刀を下げ
たところにスパーンと面打ちが飛んできてました。は、速い……。避ける暇なん
てまったく有りゃしない。
そんな調子で、結局私は一本も取れずに負け残り、もう一人の女の子相手にも負
け残り、悔しいぞ〜〜〜。仕方ないけど……。
負け惜しみで言うんだけど、あの頃の私は始めてまだ4〜5ヵ月くらいかな?
それこそ基本打ちに毛が生えた程度のことしか出来なかったので、無理もなかっ
たんじゃないか?
今だったら、勝てるとは言わないけれど、もう少しは出来ると思います。本当だ
ぜぇ!!!
でもまあ、あん時は彼女等の練習になれば良かったのだから、あれで良かったの
でしょう。
女学生との稽古でもやはり体当たりはやりました。というか、わざとじゃないん
だけどいつものように大きく振りかぶり、大きく面打ちに出ると、かるく受けら
れてしまい、基本打ちと違ってどいてくれないので、そのまま体当たりをするよ
うな形になってしまうんですね。
女子学生に体当たり、これはいいですよ。
何がいいって、さわやかでいいですぜ〜。って、稽古の最中にそんな事を考えて
しまったからと言っても私が責められる事はないであろう。
その中の一人はその後もたまに顔を出して先生方に稽古を付けてもらってました。
県大会でベスト16まで行ったと言ってましたが、3年で二段を取ったのかな?
高校を卒業して就職してからは顔を出してません。残念? 今なら少しはまとも
に立ち合える自信は有るんだけど、その後女子高生のOBは一人もいなくなりま
した。実に、実に残念です。
あと何年かすれば、今いる中学生達がOBになるのでそれまでの辛抱(何がだ?)
でしょうか。
オバさんとの稽古もひと味変わっているとは言えましょうか。
先生方と違って、オバさんとは基本稽古しかしません。
二段のオバさんと三段のオバさんがいるんだけど、オバさん方とガシガシ打ち合
う気にはならないですね。
確かに大先輩で、二段、三段なんだけど、やはり私の気持ちの中ではオバさんな
んですよね〜。
だから、基本はしっかり教えてもらうんだけど、稽古を付けてもらう気にはなら
ない。
ナメているということではないんだけど、ちょっとね〜。
オバさんの方も、私が稽古をお願いすると基本打ちだけで終わりにして、互角稽
古とかはしないですね。
でも、二人のオバさんとそれぞれ一回ずつだけ試合稽古をやったことがあります。
先生がやれというので、私もオバさんも、え? 稽古するの? みたいな感じで
ちょっと照れながらやってはみました。
すると、始め〜、で、イヤーと気合いを入れて、構えたらオバさんがパーンと小
手を打ってきて、あっという間に一本取られて終わってました。
あれ? と思ってしまいました。なんで? ってとこでしょうか。
もう一人のオバさんもまったく同じで、構えたらすぐに小手を打たれて終わり。
おかしいな〜。こんなはずではないんだけど……。
これには種明かしみたいな事があるんですよ。
その後オバさんに聞いたんですが、オバさんに言わせると、オバさんはやはり脚
力が男性より弱いので、面打ちはまず入らないそうです。
お二人とも小柄だし、子供が中学生の頃に剣道を始めたので体力的にもピークは
過ぎています。だから、大きく踏み込んでの面打ちは苦手なようなんですね。
したがって小手打ちが主な技になるんだそうで、はなから面は狙わないような事
を言ってました。狙ってもまず届かないから、面を見せておいて小手を狙うんだ
そうです。
先生方と稽古をするときも、小手打ちが主体の立ち合いになるというか、自然と
小手狙いになってしまうということです。
そういわれて見てみると、確かに、オバさんの稽古は小手打ちが主で、面打ちは
近間からの引き面が主体になってます。
私はいつも先生方に稽古を付けてもらっているので、やはり豪快な飛び込み面を
警戒してしまうんですが、オバさんは小技で小手の隙を狙ってくるわけです。
それが分かっていれば次はもう少しうまいこと立ち合えると思いますが、それ以
来やはり基本打ちしかやってないのでわかりません。
さて、ここでちょっと、私が本などで勉強した現代剣道について書いてみましょ
うか。
その昔、剣の道は文字通り剣での殺し合いで、負けたら死ぬ事を意味していまし
た。
しかし、実際に刀で練習する訳にも行かないので、防具を付けて竹刀での打ち合
いが生まれるまでは木刀での型稽古みたいな事をやっていたようです。
約束稽古と言ったほうがいいのか? こうきたらこう返すとか、こう応じるとか
を、何度も何度も反復練習する訳です。
木刀はかなり攻撃力の高い凶器ですから、実際に稽古で打ち合うという事は出来
ないです。
形の反復練習をしたり、寸止めの稽古みたいな事をしていたんだと思います。
様々な流派があり、独特の技や応じ方が研究されていたのでしょう。
各流派の奥義みたいなのは、その独特の技とか応じ方の事ですね。
そのころの試合はかなり過激なものだったと想像できます。
時代劇などではよく木刀で打ち合っている場面が出てくるけど、下手すると死ん
でしまいますね。
実際に死んだり、大怪我をした人もたくさんいたようです。
だから、普段の稽古はもっぱら形稽古とか約束稽古になってしまう訳です。
寸止めの試合をやっても、実際には分かりにくいという事もあるし、やはり直接
打ち合う形式の稽古を望む声が多くなるわけです。
そこで生まれたのが防具と竹刀、というわけです。
最初は袋竹刀という、細かく割れ目を入れた竹を皮の袋で包んだものが主体で、
簡単な防具を付けての打ち合いが始まったようです。
それがさらに改良されて今の四つ割りの竹刀や防具に進化してきたのですね。
当然ながら問題になるのは、竹刀は刀の代用品になりうるかどうか、ということ
です。
竹刀での打ち合いが実際に刀を使った切り合いに役に立つのか? という疑問で
す。
本などを読むかぎりでは、昔の剣道は竹刀を刀と同じように扱っていたらしく、
今のような「打ち」ではなく、引き斬りを主体とした斬れる剣道だったようで、
竹刀での打ち合いの他にそれまで通りの形稽古や約束稽古を平行して行なうこと
で足りないものを補っていたみたいなんですね。
いつ頃から変化が起きたのかは分かりませんが、戦後の武道廃止令で一つの転機
が訪れたのははっきりしています。
第二次世界大戦での敗戦後、武道廃止令が出てしばらくの間剣道が禁止されまし
た。柔道とか空手も廃止されたのかな。
数年後に解禁になるんだけど、剣道は武道ではなく、スポーツである、という方
針の元に解禁されたので、その日から剣道はスポーツになりました。
竹刀で打突部を打ち合ってポイントを競うシナイ競技、というわけです。
でも、どう理屈をこねてみても竹刀は刀から生まれたものだし、刀として扱いた
いという精神的なモノはどうにも出来ませんよね。
その辺の複雑なところまでは私も分かりませんが、初心者が教わるときには確か
に、竹刀は刀と同じように扱うよう教わります。
しかし、実際の剣道においてもそうであるかと言えば、かなり違っていると思わ
れるんですよ。
まず最初に、基本で一番大事だとされている大きく踏み込んでの面打ちから違う
気がする。
構えの崩れない先生に迎え突き(相手が出てくるところを迎え撃つようにして突
きを出します)の一つも貰えば実感できます。
真剣で向かい合っていれば、大きく踏み込んでの面打ちなんて恐くてとてもじゃ
ないけど出来ないに決まってる。
大きな振りかぶりからの面よりも、突きの方が絶対に早いですからね〜。
打ちも、剣道のような手首を柔らかくして手の内の冴えでスパーンと打つような
打ちで実際にモノが斬れるかというと疑問です。
やったことがないから分かりませんが、真剣で物を斬るときはしっかりとした立
ち方で、引き斬りが基本みたいなんですよ。
飛び込みざまにスパーンと当てる剣道の打ちでは、絶対に物が斬れるとは思えな
いんですよね。
高段者の先生と、現役バリバリでやっている若い剣道家の間でもこういった見解
の相違みたいなのは有るようです。
剣道がスポーツとして生まれ変わってから始めた若い剣士にしてみれば、剣道は
れっきとしたスポーツで、竹刀で巧いことポイントを取れればいいわけです。
しかし、武道としてとらえている先生からしてみれば、それは違うぞ、となる訳
です。
「あんな打ちで実際に斬れるのか?」という疑問はどうなんでしょう?
私にはよく分かりません。
刀といえば、剣道よりも居合というモノの方がそれらしいかも知れません。
F君の親父さんは居合の高段者ですけど、こちらは剣道とちがって相手と向かい
合う訳ではなくて、敵を仮想して刀を抜くのかな? こちらの敵がこう来るとこ
ろをこう払ってこう斬り付ける。あちらの敵がこう来るのをこうかわしてこう斬
り付ける。
対人競技ではなく、刀の扱い方を極めるモノ、という事でしょうか。
剣道家の中には、平行して居合もやっているという方が多いようです。
居合をやってみれば、刀とはどういうものなのか分かるから、竹刀との違いがよ
く分かるとは思われますね。
刀から発生した竹刀と剣道が、その進化の課程でどんな変化を遂げたのか、興味
深い気がしませんか? 居合をやってみれば理解できるかも知れません。
これに関しては、将来的には、私も考えてはいます。
今はどうあれ、竹刀が刀から発生したもので、剣道が刀での斬り合いから生まれ
たものである事は確かなんですから。
昨年剣道の世界大会なる催しが京都で開かれました。
私も知らなかったのですが、剣道が世界各国36だったか? だかで行なわれて
いて、3年ごとに世界大会も開かれているんですね。
もう13回だかになり、個人戦、団体戦ともに今までは日本が勝っているようで
す。
日本の他には、韓国、ブラジル等が強いようです。アメリカやヨーロッパ各国も
かなり強くなってるのかな?
世界各国で剣道が行なわれているというのも、ちょっと妙な気がしないでもない
ですね。
そして、例に漏れずオリンピック競技にいれたらどうか、という話もあるようで
す。
しかし、これには流石に賛否両論あるようで実現はしていません。
剣道が他のスポーツと比べてちょっと違うというか、分かりにくい事の一つには、
一本の基準が難しくて分かりにくいという事が上げられると思います。
野球やバスケットみたいな競技なら1点入ったというのははっきりしているし分
かりやすいですよね。
ところが剣道の場合は、実に分かりにくい。
ただ当たれば一本になるというものではないんですね。
正しい姿勢で、刃筋正しく竹刀の物打ちで打突部位を打っていて、さらに気剣体
一致した打ちでなければいけません。さらに、相手の体勢が崩れていなければい
けないし、相手の剣先が生きていてはいけません。そして仕上げに充分な残心が
取れてなければいけない。
正しい姿勢というのは分かります。刃筋正しく竹刀の物打ちで打突部位を打つと
いうのは、竹刀を刀と見た場合の刃の部分で、しかも切っ先から少し元の中結の
辺りで正確に相手の面とか小手とか胴を打たないといけないという事です。
気剣体一致というのは、気合いとともに踏み込んで剣と身体の動きが一致した打
ちという事でしょうか。残心は、打ち終わっても気を緩めず、油断なく相手に向
かって構えなくてはいけないという事ですか。
こうして当たったとしても、相手の体勢が崩れなかったり、相手の剣先がこちら
の身体に付けられていたりした場合は一本になりません。
難しいですね。非常に難しい。
その世界大会でも、団体戦で日本と韓国の決勝になったのですが、大将戦で韓国
の選手が小手を出し、日本の石田選手が面に飛び、韓国の選手の小手が先に当たっ
たけれど気迫で勝っていた石田選手の面が一本になるというケースがありました。
あのレベルでの技としてみればこの一本は当然なのでしょうが、韓国の応援席か
らはブーイングが飛んでいました。小手の方が先に当たっていたという事で不満
も有ったのだと思います。
スポーツとしての、ポイントを取り合う競技として見た場合、韓国の応援団の不
満も分からないでもないですよね。
小手が当たっているのにそれが無効になって、その後の面打ちが一本になるので
すから。
こういった問題はいくらでもあるようでして、雑誌などを読んでいると審判に対
する不満とかがよく載っています。中には、審判に対する不信感から剣道そのも
のを止めてしまうようなケースもあるという事でした。
難しいですね、やはり。
試合用の剣道と、剣士の理想とするべき剣道との違いというのも問題になってい
るようです。
先に書いたように、正しい姿勢で、大きな技を出すのが理想なんだろうけど、そ
れではまず当たらないんですよね。
面白いくらいにまるきり当たりません。
基本では大きく早く打つにしても、立合でそのまま実行してもダメ。大きく振り
上げている間に避けられたり、軽く受けられたりしてしまうんです。
それでは、立合で面を打つ場合どうしたらいいかと言うと、しっかりと中段に構
えて剣先を効かせ、中心を取って相手の剣先を外します。そしてすかさず突きを
攻めながら手首を上手に使って鋭く面を打ちます。
突きを攻めるというのは、基本打ちのように大きく振りかぶるのではなく、相手
の喉を突くような積もりで攻め入りながら……という意味です。
でも、これがさらに突き詰められると、それこそ振りかぶりどころではなく、刺
すように剣先を伸ばして相手の面の上に竹刀を乗せるだけのような面打ちになっ
てしまうんですね。
これはやはり、剣士の理想とする剣道とは言えないでしょう。でも、そのくらい
しないと試合には勝てない、というのも事実で、大変に大きなジレンマですよね〜。
これまた雑誌などによく書かれていることですが、今の剣道は試合用と段位取得
用に別れてしまっているというのです。
片方は試合に勝つためのテクニックを研く剣道、もう片方は段位を取るためのしっ
かりして格調の高い剣道。
どちらが本物でどちらが偽物ということではなく、試合がある以上は勝たなくて
はならないのでそのための技術というのが必要になるのは仕方ないことなのかも
しれません。
でも、それが本当の剣道かなのだろうか? という疑問も出てくるわけです。
これについては、必ず引き合いに出されるのが柔道です。
オリンピック競技になってから柔道は変わってしまったというのですね。
武道から、有効とか効果とかのポイントを取り合う競技に変わってしまった、と
いう事なのでしょう。
このままでは剣道も、同じような道をたどってしまうのではないだろうかと懸念
するわけです。
試合に強くて稽古に弱いとか、稽古で強くて試合で弱い、というような話も聞き
ますが、それもこの事と関係がありそうですね。
試合に勝てれば勝てるほうがいいんだろうけど、多くの剣士の目標は、試合に勝
つためのテクニックに長けた選手ではなく、もっと高いところにあるわけです。
たとえば、何かと話題の八段審査ですが、全日本選手権で優勝した選手が受かる
かというと、そう簡単には受からない。
いくら試合で強くても、それだけでは認められないわけです。下手をすると、荒っ
ぽい剣道だとか卑しい剣道だとか言われることすら有るようなんですね。
逆に、修業を続けた高段者の先生が一番強いのなら、全日本選手権だろうが世界
大会だろうがそういった先生方の独壇場になるはずですが、実際はそうではない。
それでは、試合は何のために有るんだ? という話になってしまいますよね。
難しい問題です、実に難しい。
私の場合は、はっきりしています。
特に試合にでるわけでもないから、しっかりした剣道が目標なんですね。
そんなこんなで10月だったか、会長先生から、昇段審査が有るのでもし受けた
ければ受けてもいいがどうするか、と打診されました。
入門して9ヶ月目だったけど、残念ながらその日に町内の役員の仕事と重なって
しまい、受けられませんでした。
審査の少し前から、地元の高校生や中学生が先生方に稽古を付けてもらいに来て
まして、横目で見ながら私はいつもの稽古を続けたものです。
初段を受けられるのは、1級を取得している人で、中学2年生以上なんですね。
1級は、初段の審査の前に受けられるので、もし私も都合が付いたらその日に1
級を取って、続けて初段を受けるという事も可能なわけです。
慌てることはないので、3月に初段を受けることにしたのですが、その日に慌た
だしく1級を受けるのも忙しいと言えば忙しいので、取りあえず11月に1級を
取っておきなさい、ということで、1級をとる事にしました。
昇級審査ですが、その様子を書いてみましょう。
昇段審査は年に二回地方ごとに開催されます。地方全体が対象になり、各団体が
ゾロゾロと集まって審査を受けるわけです。審査するのは七段以上の先生が5人
だったかな?
昇級審査はもう少し規模が小さく、各団体ごとに開催されます。
私なら、私の所属している××剣道協会で受けられるわけです。
審査するのは六段以上の先生が二人だったっけか?
1級は中学生なら受けられます。その下はどうだったか……。
私はもちろん年令的には問題なし。
審査の二週間ほど前から、中学生が何人か(男の子3人に女の子が3人)稽古を
付けてもらいにきてました。
私も連中と一緒に稽古をしました。1級の審査は基本の切り返しと実技のみで、
昇段審査のような筆記試験や日本剣道形はありません。
先生方には、とにかく基本打ちは大きく姿勢よく打つように言われました。本当
にとにかく、何が何でも大きく打つように、という事なんですね。
それさえ出来れば問題なく受かる、と。
で、中学生相手に基本打ちを繰り返し繰り返しやりました。
私は修業を始めて9ヶ月目だったんだけど、中学生の基本打ちを見てみるとあま
りよくないというか、何だか違うように思えるんですよ。
彼らはいつも学校の先生に教わっているわけですから、その先生の基本という事
になりますか。
私はいつも私の先生に教わっているわけですから、私の先生の基本という事にな
る。
だから、私が見ていてよくないなと思うところを、やはり先生方は直していまし
た。
学校の先生は転勤などで移動があります。その中で剣道経験者が顧問になるよう
なので、こちらの道場で修業した方ではなく、よその道場で修業されているので
すね。もちろん同じ剣道は剣道なんだけど、教える先生の方針で少しずつ違いが
でてしまうものなんですよ。だから、基本も少しずつ違うという事なんでしょう
か。
さてさて、そうこうしているうちに昇級審査の当日がきました。
受け付けは日曜の朝の8時で審査開始が8時30分。
時間調度より少し前に行ったら、審査を受ける子供たちがすでに着替えていまし
た。
小学生の子供たちは4級とか3級とかから受けるようです。よく私と稽古をした
小学5年の彼は、2級を持っているので今回私と同じ1級を受けます。
受審料が1000円、受かったら登録料がやはり1000円だったか?
子供たちは日曜の朝稽古で見た子供たちです。
みんな着替えたはいいけど稽古をするでもなくドタバタと走り回ってます。
私も大急ぎで着替えて、目覚めない身体を起こそうと素振りなんぞを始めました。
上座に机と椅子が並べられ、そこに見たことのない先生がお二人。私のとこの会
長先生と談笑されています。
受ける順番は上の級からで、その中でも年令が上の者からになります。
1級を受ける大人は私だけなので、当然のように私の番号が1番。
先生がチョークで垂れに番号を書いて回ってました。
しっかし、こんな子供の中に私のようなオッさんが混じっていていいのかな、と、
ちょっと気恥ずかしかったです。
会長先生がすっと立って私のとこにきて耳打ちしました。
「いいですかカメ山さん、基本は何が何でも大きく。これ以上大きく出来ないと
いうくらいよりさらに大きくやってください。最初の人が大きくやれば、続く子
供達もみんな真似して大きくやりますから」とのことでした。
「カメ山さんはいつものようにやれば大丈夫ですから、とにかく大きくやって子
供達の手本になってください」との事。
う〜ん、子供の手本か〜。まいったな〜これは。って、審査を受ける中で一番の
年上が私。その下は中学生だもんな〜。参った参った、と。
てな調子で審査が始まりました。
上座に座っているお二人の先生は県の剣道連盟の先生でした。お一人は副会長の
先生で七段。
その先生方から見て左右に、審査を受ける人が向かい合って並びます。
1番の私の相手は、中学生の中で一番体格のいい男の子でした。
面を付け、小手を付け、竹刀を持ってさあ始まるぞ〜!
どうってことない基本打ちなんだけど、審査を受ける子供が20人くらいと、そ
の父母や先生方で、なんやかや言っても見ている人が50人くらいいたのかな?
中学生相手に下手な基本打ちやったら恥ずかしいよな〜なんて思いながら、いつ
ものように切り返しをやりました。
いつものように大きくやったんだけど、会長先生の言ったような、これ以上大き
く出来ないというくらいよりさらに大きく……は出来なかったかな〜。
次に私が相手の切り返し受けて、それが終わると実技です。
実技は、互角稽古なんですけど、相手の中学生が遠慮しているのかあまり出てこ
ないので、こっちからバンバンと出て、いつものように大きな面打ちとか小手と
か小手面とかを出しました。
相手はあまり出してこないので、私が出る。とにかく出る。出ては大きく面を打
つ。出ては大きく小手面を打つと。当たったり当たらなかったりしましたけど、
あまり切れのある稽古とは言えなかったですね。
考えてみれば、あの時点でもまだ私は気の利いた技を教わっていなかったんです
よ。
大きく真っすぐに面を打つ。極端に言えばそればかり教わっていたような気がす
るほどです。
今だったらもう少しめりはりのある立合が出来たのにと思うと、いや〜、情けな
いですが、1級の稽古はあれでいいのかもしれません。
しかし、私の実技と違って、5年生の彼の立合は審査員の先生が絶賛されていま
した。
どんな稽古かというと、面打ちを抜いて面を打ったり、面を返して胴を打ったり、
小手から小手面への連続技を出したり……といった稽古です。
あの当時の私にはとても出来ない芸当ですが、彼はキャリアが5年も有ったので
やはり違いますよね。
結果は、受けた人全員がそれぞれの級に合格したのですが、後で5年生の彼のお
母さんが言ってました。
「これで初段を受けるまで2年以上も空くからちょっとね〜〜〜」と。
初段を受けられるのは中学2年からですから、小学5年生で1級を取ると次はか
なり先になってしまうんです。確かにちょっとね〜〜〜〜。
彼のように小さい頃から剣道をやっている子が、中2になって初段を取るとしま
しょう。でも、中学になってから始めた子が同じように審査を受けて受かれば、
同じ初段なんですね。
こんなのは、ちょっと面白くないかもしれません。
年令制限は何のためにあるのかといえば、私も詳しいことは分からないけれど、
その段位に相応しい人間性とか風格とかに必要な年令、というような事らしいで
す。
この辺のことは、次回に昇段審査の事を書くのでその時にもう少し詳しく書いて
みようと思っています。
今回はこの辺で……。 カメ山カメ吉
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