第一診察室 | ポーランド在住 勝瞬ノ介センセイのご来診です |
ワルシャワ直送、賞味期限無しの新鮮な現地情報 ワルシャワの風からの転載です。
ワルシャワで受信できるテレビの地上波は5局か6局である。....たぶん。
当然、これだけでは視聴者の多様化する要望に応え切ることは出来ない。でも、足りない部分はケーブルテレビがちゃんと補ってくれている。大体40〜50局を映し出し、費用は日本円にして月に1000円程度。なかなかの普及を見せている。
でも消費社会に移行したポーランドでは、市民達の欲求は留まることを知らない。今では、衛星放送用のパラボラもあちこちに見かける。
私の家はと言うと、数ヶ月前にやっとケーブルが見られるようになったばかり。実はこれ、隣の若夫婦の「家(うち)からケーブル、引っ張ってあげるよ、ついでにテレビも貸してあげる」と言う厚意の賜物である。それ以前は地上波4局しか入らなかった。 では、ここの主要地上局はどんな番組を流しているのだろう。ちょっと簡単にみてみよう。
先ず、週日週末を問わずよく見かけるのが、やはりクイズ番組である。賞金の懸かっているものがそのほとんどで、98年に英国で始まり今では何と世界124カ国(2000年1月現在)で人気を博している例の「ミリオネア」と言うクイズ番組も、毎日のように放送されている。
これは、出場権を得た視聴者が四択のクイズに正解する度に賞金が倍に跳ね上がっていくと言うもので、最終的にはタイトル通り100万ズロッチが手に入る。これは一般ポーランド人にとって夢のような額だ。しかもクイズの問題には拍子抜けするほど簡単なものも多く混ざっていて、見ている人が「私だってもしかしたら・・・」と思いたくなるよう、巧みに作られている。射幸心を煽ろうとする意図がやや露骨である。 でも、ポーランド人達がもっとも夢中になっているのはドラマかも知れない。面白いことに、何故か南米製のドラマが多い。ブラジルもの、メキシコもの、ペルーもの・・・。よっぽど放映権が安いのだろうか。
ポーランドものも勿論人気があるけれど、一方でこういった南米産ドラマが毎日、ゴールデンタイムに流される。まあ、筋は日本の「午後のアンコール劇場」みたいなのと大して変わらない。例えばポルシェに乗ったかっこいい御曹司、不幸な翳を持つ美貌のお手伝い、財産を狙う親戚、心優しい老人、計算高い友人達。これだけ揃えば愛憎入り乱れたお話の数本は作れそうでしょ?
私の妻は、ポーランドに移って来た当初、ゴールデンタイムにこんな下らないドラマを流すなんて、何とまあ、ポーランド人達はレベルが低いのだろう、我が祖国ながら失望した、と随分と憤慨していたが、今ではしっかり染まり切っていて、彼女の日課に組み入れられている。あ〜ぁ・・・。 さて、最近、急激に人気がでているのが、日本製のマンガだ。
セーラームーンのような少女マンガ系、みつばちマーヤやタツノコプロ系の幼児向け、日本お得意の宇宙・ロボットもの、スポーツもの、一通りは揃っている。Dr.スランプやドラゴンボールはこっちでも人気だ。日本から直接来ているものもあれば、アメリカ経由で入ってきているものもある。だから、オリジナルが日本のものだと知らずに見ている人も多いようだ。
ポケモンはこちらではまだやっていないけれど、先日、私が日本語を教えている高校生の女の子が例の黄色いマスコット(ピカチューって言ったっけ?)をキオスクで手に入れた、と言って嬉しそうに見せてくれた。
実は今、彼女のようにマンガを通して日本に興味を持つ十代が、増えているのである。 日本語を教えていると、マンガがきっかけで日本語を勉強し始めたという若い人に、意外と多く出会う。彼らは例えば「アキラ」を読んで感激し、このようなマンガを生み出した日本という国に強く魅かれるのである。私が「アキラ」を読んだことがないと言ったら笑われたことさえある。
マンガであれなんであれ、若い人が日本に興味を持ってくれるのは大変に好ましいことである。もしかしたら、そこからもっと日本を深く理解したい、日本の精神文化や歴史を知りたい、という人が出てくるかも知れない。それは、大袈裟に聞こえるかも知れないけれど、両国にとって望ましいことだ。 日本側も、本気で「文化交流」を促進したいのであれば、マンガを前面に押し出す位の大胆な作戦をとってもいいのではないか。要は、マンガだけで終わらなければいいのだ。
だって、いきなり「これが日本の侘び寂びの文化で〜す!」と言ったって日本人以外にはどうしてもバリアが高い。ならば、それとは別にマンガの入り口も同時に用意しておくのも手だ。それならば、茶道や華道に関心のない若い人でも覗いてみたくなるはずだ。 何もそこまでしなくても、という意見も聞こえてきそうだが、私はそこまでしてでも日本を知ってもらうべきだと本気で思っている。互いに「知らない」「接触がない」と言うのが最も恐い。要らぬ誤解や対立を生まぬ為にも、些少でも馴染みがあると言うことは大きな意味を持つ。
たとえそれが到達不可能な目標であったとしても、相互理解を深める努力はなされなければならず、その為には、何でもいい、日本と接触する取っ掛かりを積極的に用意し、提供すべきだ。 私はマンガを否定しない。マンガしか読まないのは大いに問題があるけれど、マンガ自体を程度の低い娯楽だとは思わない。日本の優れたマンガが両国の交流に一役買ってくれるのならば、どんどん利用すべきだ、と言うのが私の考えである。
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