世界には色々な国があるがその中には、「習慣的に誕生日を気にしない」と言う国も結構ある。 少年時代からアフリカが好きで、それが高じてウガンダに移り住んでしまったアフリカ大好き少年さんのHome Page に「ウガンダ人には誕生日がない」という記事がある。現地で雇ったウガンダ人に誕生日を聞くと「自分が生まれた 時、庭から1本の木が生えてきた。その木と同じ歳だ」と答える・・・と言う内容である。 初めてこれを読んだとき、私はあまりの呑気さに思わず笑ってしまった。 バカにするとかそう言うことではなくて、このホノボノとしたおおらかな返事がとてもほほえましく感じられたのだ。 その晩私は、夫にこの話をした。このおもしろさを是非とも夫と分かち合いたいと思ったのだ。ところが夫は、 「ウガンダの人ってのんびりしてるんだねぇ」 という私に向かって、至極まじめな顔で、 「何を言っているんだ、何を。ナイジェリアだって一緒じゃないか」 と言った。えっ・・・。不意をつかれて、私は一瞬言葉を失ってしまった。 夫が言うには、多くのアフリカ諸国では誕生日というのは大した意味を持たないらしい。だから、自分の誕生日 をいちいち覚えている人はあまりない。それで木と同じ年齢だ・・・なんて言うのんびりした答えが出るのだとか。 この「自分が生まれたとき、庭から一本の木が生えてきた」というのは、別に自然に映えてきたと言うことでは なくて、「子供が生まれるとへその緒と一緒に記念植樹をする」という風習からきている。しかし、そもそも記念 植樹したのがいつだったか覚えていないのだから、これはあまり意味がないような気がする。 ウガンダの人はパスポートを作る際に適当な誕生日を自己申告する(しかもウガンダのパスポートには生年月まで しかないらしい)という話だが、ナイジェリアも似たようなものだ。何か書類が必要だったら、役所へ行って適当な 誕生日を書く。故意に適当に書くわけではなくて、実際本人もはっきり覚えていないのである。役所は役所で名前さ え正しければ問題なく書類を発行してくれる。 パスポートについては、「期限が切れて更新したら、生年月日が変わっていた」なんてのもしょっちゅうらしい。 窓口で申請書類をもらったら既に勝手な生年月日が書き込んであるなんてのも、決して珍しくはない。それくらい、 生年月日が持つ意味は薄いと言うことだ。 これは、住所・氏名・生年月日によって厳重に戸籍管理されている日本人にはちょっと想像のつかない世界である。 そう言えば夫と出会ったばかりの頃、免許証、病院の診察券、ビデオレンタルの会員証、どれを見ても誕生日が違う ため、ちょっとしたパニックに陥ったことがあった。「ななななんだ、この人は。もしや名前を偽って入国した人身 売買組織の一員で、私を騙してナイジェリアで売り飛ばすつもりなのではないだろうか!?」と、今から思うと大変 ばかばかしい疑惑を抱いて夫に詰め寄った。 取り乱し、口からアワを飛ばしながらほえまくる私に、夫は冷ややかに言った。 「そんな・・・だれが買うんだよ、だれが」 コンピューター管理されている日本では、「同姓同名でも誕生日が違えば別の人」というのが常識だ。だから保険 証の生年月日の欄を書き換えてサラ金を騙すようなことまで行われたりする。「誕生日なんてどうだっていいじゃん」 的なアフリカの人の思考は、日本人の常識では考えられない。 結婚しようと思って国から出生証明書を取り寄せたら、なんと生年月日がパスポートと違っていてエライ目にあっ た・・・と言うような話もたまに聞く。パスポートの誕生日と出生証明書の誕生日が違えば、日本のお役所ではゼッ タイにすんなり認めてもらえないからだ。こういう場合、あれこれ難癖を付けられた挙げ句、しょうがないからもう 一度本国に連絡して、パスポートと同じ生年月日で再度書類を作ってもらうことになる。 そもそもこんなイージーに書類が出来てしまうあたりが、日本人には信じられない。だから最近入国管理局では、 「アフリカの公正証書に対する信頼」が暴落の一途をたどっているらしい。 さて、生年月日が意味を持たないアフリカで、では何が大切なのかというとそれは名前である。アフリカ(と言 っても私はナイジェリアのことしか知らないが)では、家族・一族の結束が伝統的に重視される。だからいわゆる ファミリーネーム、及び出身地から個人個人の身元を割り出す方式をとるわけだ。 しかし、大きな一族になると、だれも彼もが同じ名前になってしまうのでその辺が厄介だ。たとえばうちの夫も 割と大きな一族の出身だから、彼の生地に行くとだれもがみんな同じファミリーネームを名乗っていて、わかりに くいことこの上ない。日本の田舎にも加藤さんばっかり集まって住んでいるような所がたまにあるが、ああいう感 覚だと思ってもらえばいい。 ところで、夫とその家族はアメリカ暮らしが長かったため、比較的欧米の文化に染まっている。だから夫は、実 は自分の誕生日をちゃんと覚えている。その日が近づくと通販のカタログを広げて、さりげなく「あっ、このジャ ケット、かっこいいなあ」とか「そう言えばトラウザにアナがあいちゃったんだよな・・・」などと言い出す。 覚えているなら書類もきちんと作ればいいのに、それはそれで、また別の問題らしい。 [10月4日]
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