英語ひとつに四苦八苦している人がいる一方、何言語も話せる人もいる。
彼らの脳みそはどうなってるの?
オランダ ロッテルダム在住 蘭学者ひろセンセイがマルチリンガルの謎を解明して下さいます。

HIRO'S HOMEPAGEエッセイ集より転載



Multilingualを考える

多国語生活

私は、現在4ケ国語を話せる。また、必要に迫られてその4つを、毎日使い分けている。

使用している割合は、平日だと、英語40%、ドイツ語30%、日本語20%、オランダ語10%。

休日になると、ドイツ語60%、日本語20%、オランダ語20%となり、英語の出番はない。

何故かというと、ビジネスマンとして英語を、夫としてドイツ語を、父親として日本語を、そして地域社会市民としてオランダ語を、話す必要性に迫られているからです。

最近は仕事でも英語だけでなく、オランダ語も交えて話し、時には妻との会話がオランダ語になったりもする。

子供との会話は、教育上徹底して崩さずに日本語を貫いているが、その外は、すこしずつオランダ語の割合が増えている。
言語というものは、母国語でないかぎり、使わないとすぐ忘れる。そういった意味では今の環境は自分にとっても、語学力に磨きをかける上では最善の環境ではないかと思っています。

現在、一番使用頻度が高くなっている英語は、実は話せるようになったのは、ここ2年くらいの事です。私は英語圏に行ったことは無きに等しい。米国は行ったことない。英国は出張で6回行っただけ。

しかし、仕事で仕方なく使っているうちに、なぜか流暢に話せるようになってきた。

昔勉強した、英語知識がフラッシュバックしてきて、すぐ語彙が整い、文法もちゃんと使えるようになってしまった。その間、英会話教室にも行っていないし、特にレッスンも受けていない。

ドイツにいる間は、殆ど英語を使う機会がなかった。ドイツでは、あまり英語は通じないので、下手でもドイツ語で話した方が便利だったのです。

生活も仕事も、全てドイツ語で済ましていた私には、たまに、ドイツ語が話せない日本人と、日本語が話せないドイツ人(まあ、普通できませんわな)が同席した会議などで、意思疎通手段として、英語を使う事がある程度でした。

これは、英語が話せない私には苦痛でもありました。

言語中枢PC論

では、何故私が何の苦労もせずに、オランダに来た途端、英語が話せるようになったのか?考えたところ結論は、一つしか思い当たりませんでした。

外国語を効率的に習得するには、結局はその国で生活をして、使わざるを得ない環境に自分を追い込む事です。恋人を作れば一番上達が早いというのは、まさにそれです。

相手に自分の意思を伝える、相手を理解する、一緒に時間を過ごす。これが語学習得の近道であることに、間違いありません。

現に、私のドイツ語力は、今の妻と付き合い出してから、飛躍的に向上した経験があります。
とはいっても、ドイツ語の習得に費やした、時間とエネルギーは、並大抵ではありませんでした。

日本の大学で、ドイツ語学科を卒業しても出来るのは、よっぽど真面目に勉強した人意外は、せいぜいレストランで注文するのが、精一杯というのが、悲しい現状です。

人間の言語をつかさどる中枢は、2つに別れるそうです。母国語を司る部分は、左脳にあり、後天的に取得した言語は右脳で司令が出ます。

私は、日本語は左脳、他の三か国語は右脳で、話している事になります。

ここで、導いた仮説は、ドイツ語を習得するために、私の右脳にある言語中枢は徹底的に使いこまれて、鍛えられたのではないだろうか、というものです。

1995年に、英語を習得する必要が出た時に、既に私の右脳の言語中枢CPUはグレードアップ済み、言語RAMも増設され、言語習得O/Sもグレードアップされていたので(これを私は95バージョン32bit環境と呼んでいます、バグが一杯あったので、)、英語アプリケーションをインストールするだけで、すぐに動いたのではないか、と思っています。

でも、人によって個人差はあり、すぐに対応できない人もいます。これを私は、語学のマックユーザーと名づけています。

ヨーロッパ語は、大別するとゲルマン語(ドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデン等)、ラテン語(イタリア、スペイン、フランス、ルーマニア等)、スラブ語(ポーランド、スロバキア等)等ありますが、私の感覚では、英語は独自の構造をもちつつも、ゲルマン語に近い部分も結構あります。すくなくとも、ラテン語、スラブ語よりは近いと思う。

ともかく、日本人の私から見れば、主語、動詞、形容詞、前置詞の組み合わせ、人称変化と、時制変化で組み立てが出来る、ヨーロッパ語は全部同じ言語と(かなり乱暴だが)いって差し支えありません。

だから、英語が習得でき、オランダ語も特に習わずに出来るようになったのでは、と考えています。オランダ語にいたっては、ドイツ語との類似性が強く、文法も同じのため、私にとっては、単語を置き換えるだけの作業です(ExcelのEdit->Replace,表示ボックス[ドイツ語] Tabキー[オランダ語], Enterキーのイメージ)

Native speakerとは

ヨーロッパでは、3カ国語以上を話す、Multilingualは珍しくありません。小国にいけばいくほどこの割合は増えます。歴史的に侵略で国境が動いたり、人の移動により使わざるを得なくなったりして、公用語を複数設けている国も珍しくありません。(私の知っている限りでは、スイスが4カ国語、ベルギーが3カ国語公用語があるのが多い部類ですが、公用2カ国語って国はもっとあります)

私の妻は、ドイツ語とオランダ語をNativeとして、左脳で話し、英語、日本語、フランス語は右脳で話している事になります。私には、Native languageが複数ある感覚が分からないので、いろいろ聞いた結果、意識しないでも相手によって自然に切り替わるそうです。

私の息子は、おそらく3つのNative languageを持って、成長すると思います。母からドイツ語、父から日本語、生活環境からオランダ語を習得していきます。おそらく、学齢期以降には、この順番は、オランダ語、ドイツ語、日本語に逆転するでしょう。日本語にいたっては、会話はできても、漢字の読み書きが出来るようになるかは、私も疑問を持っています。

現在、まだ片言しか話しませんが、既に聴解力はついてきて、全部理解しているようです。もっとも、まだ言語の違いなど、意識せず、同じ事を伝えるのに三通りの表現のどれを使っても良いと思っているようです。

しかしながら、感心すべき事は、発音の正確さ(既に?Uウムラート,?Oウムラートの発音は、私より上手い)と、相手による使い分けを無意識に、行っている事です。

同じ食卓についていて、熱いスープを口にしたときに、息子は、泣きながら、妻に「heiss!」と言い、私には「アッチッチ」と言っているのを聞いて、ああ、やはり左脳のなせるわざだなあと、感心しました。

私には、「アチー」「イテー」などの本能的語彙は、絶対に外国語では出せません。

昨日、隣りのお嬢さんが、家に来て息子と遊んでいましたが、帰り際にオランダ語で「Dag!」と挨拶してました。私や妻にはドイツ語で「Tschuss!」といつも言っています。

これを見ていて、私は所詮こうやって習得できる環境にいた人には、逆立ちしたって勝てる分けないな、と悟りました。

私に出来るのは、やはり右脳を刺激して鍛える事だけです。明日から右半分に念入りにブラッシングしてみようかな?駄目だろうな、抜け毛が激しくなるだけか、、、、

1997年7月15日

(C)1997 copyright Hiroyuki Asakura


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