担任雑記No,12 「ヨーロッパ旅行記4」

今日から3泊3日(4日目は朝6時に下船なので。)のエーゲ海クルージングである。今回の旅のメイン・イベントの一つだ。寝不足の目をこすりながら朝食を済ませ、チェックアウト。チャーターしたタクシーは猛烈な勢いでピレウス港に向かう。港には大小さまざまなクルーズ船やフェリーが所狭しと接岸されていた。山育ちの人間にとってはこれは壮観である。乗船手続きは飛行機の搭乗と同じように、身体検査を受け、荷物はX線でスキャンし、拳銃をもった物々しい警官の警備の中、船の乗り場へ行く。

目の前に聳える巨大な船がわたしたちを出迎えてくれた。船の名前は、「TORITON号」。この正式名「EPIROTIKI LINES・TORITON号」のプロフィールをざっと紹介をしよう。

総トン数:14,110トン 全長:150m 最大幅:21.5m 高さ:38.7m 喫水:6.10m

エンジン:4つ、合計、26,000馬力(プロペラ2本)

船首用推進:1,000馬力、エレクトリックモーター 燃料:950トン

最高速度:22ノット 平均速度:15〜20ノット

最高乗客数:700人 最高乗員数:270人

乗客はほとんどが白人、まれに黒人、日本人は私の見た限りでは私達くらいである。最終的には15人程度だったようだ。狭いタラップを上るとき、パスポートのチェック。そして、記念写真をセーラー服の船員が撮ってくれる。船の入り口で、乗員(クルー)が極上の笑顔で出迎えてくれる。“Hello,Wellcome to TORITON!”とにこやかに声をかけてくれた。気分が盛り上がる。これからの楽しくなるであろうクルージングの夢がますます広がる。わたしもウキウキした気分で“Hello. Thank you.”。すると、「日本の方ですか?」と尋ねられた。始め、何を言っているのか理解できず、2、3秒考えた後、思わず「YES、…あ、はい。」と答えて、乗員に笑われてしまった。日本語で語りかけてくれたのは、日本人乗務員の女性、「NORIKO」さんであった。と、言うことは結構日本人が利用しているということだ。船内アナウンスはイギリス人女性クルーが見事なまでに8カ国語を駆使し専門に行うのだが、日本語は彼女の範疇にないらしい。そこで、Norikoさんが日本語のアナウンスをする。彼女はつまり、日本人対策要員として乗船勤務しているらしいのだ。私達夫婦は言葉の問題はそれほど苦にならないが(疑っているね?)、外の日本人乗客にとってどれほど有り難いことか。日本語で書かれたスケジュール表や、船内案内、イベント情報など、かなり役立った。

さて、乗船して出航までに1時間ほどあるので、与えられた船室でゴロゴロしていた。30センチ平方の窓二つ、シングルベッドより一回り小ぶりのベッドが2つ、シャワールーム兼トイレで目一杯という広さだが、小奇麗でなかなか快適。スチールが剥き出しのロッカーが船らしくて雰囲気を盛り上げる。出航の時間、上部甲板デッキに出て、山育ちの私達にとって感動的な出港。意外な程速度があり、どんどん港が小さくなって、目の前に広がる大海原に吸い込まれそうになる。山猿には異次元体験だった。カモメがよって来ては去って行く。♪二人のぉ〜ゆうぅ〜やみがぁ〜♪海の男、加山雄三にでもなった気分である。出港して間もなく、避難訓練。船室にあるライフジャケットを着て、指定されたデッキに集まる。非常事態のことだから、白いのも黒いのも黄色いのもみんな真剣そのものだった。本当に遭難する事態になったら、ライフジャケットを取りに船室に戻っている時間なんてあるのかなと思ってしまった私は不謹慎でしょうか。

続けて夕食会場になるホールでクルー全員の紹介があった。いろんな国から働きに来ている。それぞれのクルーの出身国を言う度、同じ国の乗客が「イェーイ!!」で盛り上げる所なんざぁ、それぞれのお国柄がでて、おもしろかった。日本人のクルーの紹介のとき、もっと盛り上げればよかったが、シャイな国民性がもろにでてしまった。

初めの寄港地ミコノス島に到着するまでは船の中でのんびりと過ごす。バイキングスタイルの昼食を甲板デッキの一番いいところで海を見ながら食べる気分は最高。ギリシア特有の強い日差し、強い風がなぜか心地よかった。そして、この日に備えて新調した水着に着替えて上部甲板デッキで日光浴兼、昼寝。実に気持ちいい。老若男女、思い思いにデッキに上がり、それぞれのプライベートな時間の過ごし方をしていた。何と優雅な時間の使い方だろう。目の前では親子であろう白人さんが、卓球に燃えている。でもちっとも邪魔にならない。プールではオリエンタルムード漂うグラマラスなピチピチギャルと胸毛モジャモジャ、筋肉隆々のイタリアーノがいちゃついている。全く気にならない。隣ではよほど疲れたのか静かに寝息を立て、ピクリとも動かず眠る妻。あぁ〜幸せ。青い空、白いカモメ。つくづく思うが、このような時間は人間には絶対に必要である。ヨーロッパの人々は休暇はドーンと3カ月取り、国境を越えて自然に親しみ、体をリフレッシュするそうだ。だから、このようなスケールのデカいクルージングツアーなどが発達しているのである。休暇を取るなら元をとらなきゃ損した気分になってしまう自分のスケールの小ささに、カツを入れたくなった。もっと人生を楽しもう。

さて、ミコノス島についたのが午後5時。寄港した島々のことは後述するとして、7時に船に戻り、正装してディナーへ。出される料理は侮れない、今まで食べたこともないうまいものばかり。ちょっと贅沢したくなり、スウィートなホワイトワインを頼む。が、悲劇は突然やって来た。それはデザートの最中唐突に。はっと気づくと料理の皿がひとつ減っている。次に気づいたときはワインのグラスをもっている。また次に気づいたときは、ウエイターが顔をのぞき込んでいる。妻が笑っている。どうも私はひどい睡魔に襲われ居眠りしていたようなのである。必死でこらえようとする顔が、非常に滑稽だったらしく、ウエイターと妻で指をさして笑っていたらしい。よくグラスを落とさなかったと、非常に感心されてしまったが、あまりうれしくはない。これはむしろ喜劇というべきか。笑っていたウエイターに顔を覚えられ、次の日のディナーでもまた次の日のディナーでも“Are you sleepy?”とニヤニヤして目配せされる羽目になった。

こうしてクルージング第1日目は無事終了。妻は二日酔いの兆しを見せつつベッドに潜ることになった。これがこの後2人に降りかかる事件となるが、それは、また別の話。

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