担任雑No,29 「ヨーロッパ旅行記16」

ホテルの印象がよいと、またその土地へ行きたくなるものだ。その土地の人情に触れ、温かい気持ちになるとまたその人に会いたくなる。

ギリシア・サントリーニ島のホテルにまた泊まりに行きたいし、スイスのハイジとマーティンにもまた会いに行きたい。このドイツでも、そんなホテルをひとつ見つけることができた。

ローテングルグは“中世の宝石”と言われるくらい美しく、当時の町並みがそのまま残っている街である。城壁に囲まれた小さな街で、中はおとぎの国そのまま。ロマンチック街道のハイライトでもあるので、ぜひとも一度は寄ってみたい街である。

そこで泊まったホテルもまた、親切で物腰の低いご主人がいて、実に気分のよい街だった。実はローテンブルグに着いたのは9:30ごろだったのだが、ホテルの位置が分からず、城壁の回りをぐるぐると30分もさまよい回ってやっと見つけたのである。一軒家のこぢんまりとした宿である。そんな我々にも、暖かく笑顔で、丁寧な英語で接してくれたホテルのご主人。夕食が摂れる場所や、部屋の最新式アメリカ製トイレの使い方、街の観光案内まで、懇切丁寧という言葉は貴方のためにあるものだよと言いたくなる位、親切にしてくれた。通された部屋はレセプションから丸見えの場所だったが、内装がきれいで清潔、ベッドもふかふかで、幸せな一夜を送ることができた。もっともそのとき我々にとっての一番幸せは、「睡眠時間の確保」であったため、読者諸君の期待するロマンチックに情熱的な夜など存在し得なかったのである。

余談であるが、ローテンブルグでの宿は、実は前日に電話で予約を入れて取っておいたのである。今回の旅では宿泊場所を日本で予約しておかない所が何カ所かある。現地で調達するのである。ヨーロッパは宿泊場所に事欠かない。目的地に到着し、その日の内にホテルを探しても、ほぼ100%宿泊できる。それだけ安くて質のよい宿が沢山あるということだ。だから、足の向くまま気の向くままの旅でも、ホテル捜しのコツさえ知っていれば何の心配も要らないのである。

とにかく精神的にも肉体的にも疲れのピークにあったため、このホテルの環境は最高だった。翌朝の目覚めのよさと爽快感と言ったら、今までの旅の中で一番であった。私は現金が底をついて来たこともあり、旅行小切手を銀行で両替したついでに、この街の城壁をスケッチする。中世都市の特徴そのままの重厚な雰囲気を描き出すのに苦労した。街行く人が時々覗いてはにこにこして激励してくれる。ヨーロッパ人達の芸術に対する関心の高さと、擁護する気持ちを示して要る。

さて、朝食を終えた我々に大きな問題があった。それは、洗濯物である。下着はもちろん、妻のワンピースなどに至るまで、使い回すには限界があった。誤解を避けるために今までどうして来たかというと、こつこつと洗濯はやっていた。私はパンツを4日分しかもって行かなかったので、4日経つとホテルの部屋にある洗面所で流しに水を溜め、あらかじめ持って行った洗剤でごしごし手洗いをし、部屋の中に紐を渡しつるしておいた。こちらは空気が乾燥しているので、一晩つるしておけば朝にはバリッと乾いているので心配ない。洗濯をした晩の部屋は、洗濯物が寝ている我々の頭の上をパンツやTシャツが縦横無尽にひらめいている、何とも恥ずかしい光景だ。しかし、あの私がポーターに成り下がったあのベネツィアの夜から一度も洗濯をしてなかったのである。と言うよりも洗濯するのを今日まで忘れていた。

勇気を出して、チェックアウトのときにご主人に聞いてみた。すると何と、コインランドリーがあるというではないか。しかも、経営者の奥さんは日本人と言う。ていねいに地図に書いてもらって、何度もお礼を述べてホテルを後にした。

地図どおりにコインランドリーがあった。しかも、「コインランドリー」とカタカナで看板があった。このときばかりは日本語に出会えて涙が出るほどうれしかった。

さて、溜まりに溜まっていた洗濯物をあらいざらいほうり込み、機械にコインをいれる。ところが、ウンともスンとも反応がない。コインを返却してもう一度トライするが、同じことだ。洗濯機を目の前にして、神は我々夫婦にまた新たな試練を与え賜うたのかとオロオロしていた。おかしな日本人夫婦がオロオロしている様子を見ていたドイツ人のにいちゃんが、見かねて手伝ってくれた。すると、その機械を壊れるんじゃないかというほどバンバン叩く。目が点になりぼうぜんと眺めているのにもかまわず、エライ見幕で機械にヤキを入れた。ここまでやられればさすがに機械も観念したと見えて、やっと機械が反応し動き出してくれたのである。その親切なにいちゃんと、思わず苦笑いしてしまった。やっと待ちに待った洗濯。こんなに洗濯が楽しくてうれしいものだとは知らなかった。

こうして洗濯物も一気に片付けてしまい、全てすっきりしてこの街を後にし、古城街道をひた走って今日の宿泊場所である“古城ホテル”ヒルシュホーンへ向かった。

ドイツ人と日本人が共通することは、大勢集まって酒を飲み、大声で歌を歌うということだと言う。また、海外旅行の最中、ドイツ人が一緒になった日本人に「今度はイタリア人抜きでやろうな」と片目をつぶったという話は有名である。私はホテルのご主人やコインランドリーのにいちゃんがとても親切だったのは、そんな親近感が働いていたからではないかとかいかぶっている。もちろんその人自信の人柄も否定できないが、外の国では味わえなかった安心感と親近感をドイツで感じることができたのだ。今度行くときはドイツワインの生産地巡りをして、酒浸りでも安心かなと企んでいる。ドイツはビールもうまいが、気取ったフランスワインよりうまいワインの宝庫であるのだ。

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