教師:「みなさ〜ん、お得な中古車と言えば?」
生徒達:「〇産中古車センター!!」(声をそろえて)
教師:「県下35店舗、安心と信頼のネットワーク!」
生徒達:「(同上)」
教師:「中古車買うなら?」
生徒達:「(同上)」
生徒A「中古車なんてどこも一緒じゃないの?」(と、左のほうでボソッとつぶやく) 教師:「うむぅ〜、チミは廊下に立ってなさい!!」(ちょっと声が裏返って)
(気を取り直し、続けて)「はい、もう一度!、中古車と言えば?」
生徒達:「〇産中古車センター!!」
教師:「はぁ〜い、よくできましたね〜ぇ」(満足げに)
♪〇産〇産中古車センター〜♪ジャーンジャン
1年半くらい前から、このラジオCMは流れている。これを耳にする度、おふざけにしては出来がいいじゃないか、と言う気持ちと裏腹に、よもや学校教育に対する強烈な皮肉じゃなかろうか、という危機感を感じていた。以前、〇産社のCMはダサイと酷評しただけに、痛烈なアッパーカットを食らったような気分でもある。やるときはやるもんだと妙な関心をしてしまった。
それにしても、今は影がすっかり薄くなってしまった「シュプレヒコール」の手法。このCMの制作者の年代がよく分かる。きっとこの制作者は青春時代、ゲバ棒とヘルメット、手ぬぐいで完全装備し、日々戦いの中に生きていたのであろう。一人対大勢の掛け合いの気持ち良さを知っている所からして、そのくらいは容易に想像できる。もしかしたら、新宿の地下街でフォークギター片手に大合唱のさなかにいた一人だったかもしれない。ちょうどわたしの父が大学生のころ、日米安保闘争の最中だったというから、同じ年頃であろうか。白髪交じりのちょっと草臥れたおじさんが、この勢いのあるCMを製作する姿を連想してみよう。何か哀愁を帯びた人生の黄昏を迎える彼に、高度成長期の日本を支えて来た歯車の一つに過ぎなかった侘しさを窺い知ることはできないか。
前振りが長すぎた、これは失敬失敬。あ・さて、渋滞の苛立つ車内でラジオCMに耳を傾け、一人ニヤつく季節がやって来た。今年もなかなか秀作が何本か輩出されている。私の気に入ったものを思いつくまま紹介しよう。
…教訓シリーズその1…
女:ガチャ「待った?あっ、カーナビ付けたんだ。」
男:待ってましたとばかり(やっぱり来た、来た:心の声)「今日は地上1万2千
メートルにある星達とのドライブ…」
女:遮るように(どっかで聞いたことある台詞ね)「あれ、設定がアルプス公園に
なってる…」
男:かなり慌てて「あっ、いやぁ、ソノぉ、今日は星たちとのドライブだから…」
女:(魂胆ミエミエっ)「これだったら、一方通行や駐車場も分かるんだから今日は ショッピングにしよっ!!」
ナレーション:妙に落ち着いた声で
「過ぎ足るは及ばざるがごとし、〇ヨタ・カ〇ーラ南信」
…教訓シリーズその2…
男1:「スキー場の駐車場っていつも混むなあ、あっ、動いた、動いた」
男2:「おっ、オイ、このエクシヴ、割り込みかよっ」
男1:「いいじゃない、向こうは女の子3人組みだぜ、入れてやれよ」
若い女の子3人の声で:「ありがとうございまぁ〜すっ」
男1:「おぉっ、ねぇねぇ、彼女たちっ、僕たちと“いっしょ”しようぜっ」
駐車場のバイト:「すいませーん、ここで満車でーす」
男2:「えぇっ、彼女たちの車までなんてぇ…」
ナレーション:「見返りを求めない親切ほど美しい。〇ヨタ・カ〇ーラ南信」
この会社は教訓シリーズで攻めている。以前に紹介したものも、教訓めいた後づけがあったし、私はこのシリーズが気に入っている。
次に紹介するCMは、ぜひ一度お耳にするがよい。「簡潔にして、繊細」。この作品はまさに、苛酷とまで言える時間制限の中で、芸術的とも言えるまとめかたをしている、100年に1本の傑作である。
少女の声:「おねがい 、野麦峠スキー場に来てください」
(同上):「野麦峠スキー場に来てください」
(同上):「役場に務めているお父さんも喜びます」
(同上):「だから、野麦峠スキー場に来てください」
(同上):「待ってます 」
この、アンダーラインの部分に、すべてが込められている。これがなければただの物乞い的なCMと成り下がってしまう。少女の純粋な祈りのこもった語り口が、このCMに詩的な空気を与える。耳にしたリスナーは思わず涙腺が熱くなること請けあいだ。
最後に、前回朧な記憶のまま紹介した、幻のCMを紹介しよう。化粧品のCMだ。
♪シミシミソバカス大嫌い、シミシミソバカス大嫌い、そばは好きだけどぉ〜♪
お後がよろしいようで…。♪ジャンジャン。