担任雑記No,47 「勉強って何だろう…」 このごろ、よく「つまんねえ」とか、「ああ、ムカツク」とか、「具合悪い」などと言って、保健室で休んだり、授業に出にくくなったり、時にはサボったり、山越先生に話を聞いていただいたりして、お世話になっている生徒が我が西中2学年に増えてきている。我がDANDY’sにもしばらく前、あった。
そんな彼らに話を聞くと、「授業がおもしろくない」「集中できない」など、ぽつり、ぽつりと語ってくれる。そのうちだんだんと、いろいろと彼らは深刻に考え、深みに嵌まり、悩んでいるんだなと、思い知らされることがたくさん出て来た。
ある男子生徒はこう言った。部活。勉強。友達関係。生活の全般にわたってなんとなく「うまくいかない」。小学校、或いは中学校1年の頃のように、無邪気に笑っていられた自分から「自我」の目覚めによる、もがき、苦しみ。思考力が増せば増すほどより深みにはまり、それに疲れていく。そして、安易な方、楽な方へ流れざるを得ない。
また、ある女子生徒は非常にイライラしている。私とは必要最少限の事だけしか話さない。また、私が話しかけても振り向きもしなくなってしまった生徒もいる。反応が素っ気ない。だから私もついつい、苛々して(巨人が6連敗もその原因の一つ?)、語気が強くなっている。訳もなくムカついている。ムカつく理由もはっきりしないが、苛々している。人間関係?勉強?それとも、家庭…?
「ホワイト・キック」って知っていますか。「白ける・白=ホワイト、ける=キック」と言うことらしい。都会の子ギャルの間でははやっているみたいだが、いまのところ西中の生徒からその言葉を聞いていない。でも、なんとなく彼らは「白けて」いるように見える。一生懸命やる。この言葉に反応が良くない。とても疲れているようにみえる。 その反面、「テスト」に関しては異常なほど関心をもっている。テストのことが話題に出ると、異常に興奮する。だが、その興奮は妙なプレッシャーを含んだ、歪んだもののように私には感じられて、どこかいつも不自然である。
こんなことを言う生徒がいた。「塾の先生に怒られる!!」テストの問題用紙を塾にもって行くのが義務づけられているらしい。そして、細かいところまで、チェックが入り、弱点を徹底的に追及され、克服(というよりも訓練)させられるらしいのだ。
一刻も早く学校から帰りたいので、「部活をやめさせてください」と小声で力なく、私に言って来た生徒もいた。勉強が全く解らない。だから学校は面白くない。「よし、じゃあ、私のところに来ればいろいろと教えてあげるからいつでも来なさい」と誘っても、首を横に振った。
入学式のときあんなにきらきらと目が輝いていた彼らとは思えないほど…。
彼らの話を聞いているうち、生徒と親の間で、お互いが納得するまでいつも話し合っているのだろうか、と思うときがある。マシンガンのようにしゃべりまくり、次から次へといろんなことが話題に出てくる生徒がいる。家庭のこと、学校のこと、勉強のこと、友達のこと、恋のこと、などなど。屁理屈、我が儘、不満がほとんどであるが、時には大人よりも合理的に考えているなぁと、感心させられることも飛び出てきて、驚かされることがある。彼らは彼らなりに考えているし、悩みを多くもっている生徒ほど、自分の意見をきちんと持っている。彼らがある程度納得した所まで付き合うが彼らは心の奥からすっきりしたわけではない。表情が物語っている。それは、一番聞いてほしい人に話したわけではないからだ。
小学校のころは、親は忙しい中、それでも話を聞いてくれていたと言う。しかし、中学生になってから、口を開くと「勉強しなさい」「勉強は済ませたの」「それでも勉強したつもりなの」とまくし立てられるのだと言う。それが一番、いやなことだと言う。勉強をやろうと思っている矢先、「やりなさい」と言われるとやる気を無くす、とも言った。話したいことは山ほどあるのに、「勉強」という鬼門を潜らなければ、道は開かれないのだ。そして、その鬼門はいつまで立っても出口が見えない。受験戦争終結の日まで…。いつしか、親と話したい気持ちは諦めに換わり、ますます親と生徒の間の会話は途絶えて彼らの表情は暗くなって行く。
時には、わが子の不甲斐なさや、我がままめいた言動にひどく叱ってしまうこともある。「もう大人なんだからそれくらい分からないでどうするの!!」それはしばしば生徒にとって、理不尽な叱り方になってしまう。感情の任せるままに怒りを爆発させると、ためを思ってやったことが、全く無意味なことになってしまうのだ。
親は「わが子は大人だ」と勝手に考え、生徒は「親は私に何もしてくれない。きっと私のこと嫌いになったんだ」と追い込まれてゆく。腫れ物に触るような付き合いしかできなくなり、本音で語り合うことをやめてしまう。末期状態である。
学校教育の問題も物凄くある。例えば校則。ガチガチに彼らを縛る。彼らはそれに対し不満をもっているが、「自分たちが生活しやすいように変えてみればいいじゃないか」と話を持ちかけると「そんなこと無理だよ、許してくれる分けがない」と最初から諦めている。全く無気力だ。パワーが感じられない。ホワイト・キックである。
勉強って何だろう。今の教育って何のためにあるのだろう。受験のため、よい大学に入るため?結果がすべてなのか?グレて、周りの者に迷惑をかけるのもよくないけど、テストで点を取ることだけに真剣になる人は私は大嫌いだ。勉強って、教科書に載っていること以外にも沢山あるはずなのに、どうして、それに目が向かないのだろう。今の教育通念や制度を変える勇気も気力も、疲れ切った日本人には残っていないように思えて、教師をやっていながら、時々ひどく無気力になります。あ〜あ。(ため息)