担任雑記No,5 「王様のレストラン考」

 毎週水曜日は楽しみなテレビ番組が多い。挙げると「スター・トレック The Next Generation」(ケーブルテレビ33チャンネル午後6時〜放映)、「劇空間プロ野球:巨人・〇〇戦」(日本テレビ系TSB午後7時〜放映)、「王様のレストラン」(フジテレビ系NBS午後9時〜放映)、「タモリのSuperボキャブラ天国」(フジテレビ系NBS午後10時〜放映)、「筑紫哲也ニュース23」(TBS系SBC午後11時〜放映)などである。

 その中でも夫婦で特に楽しみに、わたしが個人的に最も注目している番組がある。それは、「王様のレストラン」である。

 高級フランス料理レストラン「ベル・エキップ」で巻き起こるさまざまな人間模様とそのレストランのサクセスストーリーが、この物語の大きな流れである。

 主演はNHK大河ドラマ「黄金の日々」で好演をした松本幸四郎。そして、ちょっと頼り無い若きオーナーとして筒井道隆、豊かな才能に気づいていないシェフに山口智子、その他、鈴木京香、西村雅彦など、脇役も個性、演技力、ユーモアセンスが抜群の充実した布陣でドラマを盛り上げている。

 このドラマに注目したのは、ただ単に山口智子、鈴木京香のファンだったからと言うだけではない。食堂や飲み屋を舞台にしたドラマは数々あれど、「高級フランス料理店」を舞台にしている点が興味を誘った。また、予告編をちらっと見たとき、松本幸四郎のキャラクターが実にはまっていると思った事と、山口智子が、今まで演じて来たトレンディードラマと違う「シェフ」という役柄をどんなふうに演じ切るのかという点も挙げられる。さらに、鈴木京香という役者にも注目している。彼女は以前TBS系列で夜中10時から放映していたドラマ「我慢できない」で、やたら厳しい姑と同居するできの悪いがちょっとエッチな新婦の役を見事余すところなく演じて見せた。その、ユーモアセンス、臭い演技を臭く見せない、時には見るものの心をぐっとつかんで離さないほど情熱的に、また時にはほろりと涙を誘う事も忘れない、七色の演技力に魅せられてしまったのである。

 今のところ、これら役者たちの演技はわたしを裏切っていない。特に筒井道隆が、何となくシロートっぽいいい味で「頼り無い若造が一流のオーナーに成長してゆく様」を好演している。これは堀り出し物であると思っている。

 このドラマは高級レストランを舞台にしたドタバタ喜劇ではない。高級レストランという場を踏まえた映像も見るべきものがある。本物の料理、本物のワインを登場させ、安っぽいまがい物のドラマでないことを力強く訴えかけている。ここで気をつけないと、ただ単なるグルメ番組、「美味しんぼ」のようなドラマになってしまいがちだが、料理はストーリーの中の一つの小道具に徹し切っている。だから、グルメにしか分からない難解で嫌みな所は全くなく、「料理というのは楽しんで食べればそれでいいのだ」というスタンスが実に気持ちよいのだ。

 余談になるが、わたしは食べることが大好きなので、妻とよくいろんな料理店に行く。気に入る店は、やはりわたしにとって気楽で、形式張らない、「どうぞ貴方流に料理を楽しんでください」と言う雰囲気の店だ。長野市で言えば、市内のダイエーの向かい、三井ガーデンホテルの地下にある、「MO≒T(モエ)」である。こぢんまりとした店だが、ちゃんとワインセラーがあり、客が自由に入って見てもよい。ワインの種類も豊富でフランスのボルドーものからドイツのフランケン地方ものまで、目移りしてしまう。また、料理も値段が安いのにしっかりとしたフランス料理であり、日本人好みの味付けだ。さらに気に入っていることは店のインテリアである。地下であるので、もちろん外からの光は入って来ない。したがって、照明のみで明かりを採らざるをえない。この店はそこを割り切ってむやみにわざとらしい架空の窓をつけてみたりしてはいない。レベルの高い鋳造彫刻作品を要所要所におき、それらを照らし出してあふれた光が間接的に店の雰囲気を暖かく、和やかな空気にさせている。また、変わった形や、かわいい色をした陶器をおき、客の目を飽きさせない努力をしている。さらに、ABNの深夜番組に出演している美人女性が、たまにアルバイトでギャルソン(ウエイトレス)をやっていたりしている点も気に入っている。

 外食産業における料理というのはこのように、「料理、従業員、店の雰囲気」が混然一体となって創造する総合芸術のようなものであると言っても過言ではない。我々はその店のイスという客席に座り、テーブルという舞台の、次から次へと繰り広げられる料理という芝居を心から楽しめばいいのだ。そのためには、いい料理、いい従業員、いい店の雰囲気は欠かせない。

 そんな訳で、この「MO≒T」とテレビの「ベル・エキップ」がオーバーラップし、自分が「ベル・エキップ」の客になったような錯覚に陥りそうになるほどのめり込んでしまい、ますます「王様のレストラン」の今後の展開が気になるのだ。

 ひとついい忘れるところであったが、このドラマのとても重要な位置にあるナレーションを担当しているのは、あの、森本レオである。彼の声はどうしてこんなにふんわりとした、それでいて、真はしっかりとあり、でもなんとなく飄々としていて嫌みの無いナレーションになるのだろうと常々思っていた。FM長野の金曜日放送「バラ金」で大岩アナウンサーが彼に挑戦と銘打っているコーナーがあったが、それほど注目されているナレーションは「すばらしい世界旅行」の久米明や「ジェットストリーム」の城達也に匹敵するのではないだろうか。彼の声をを聞くだけでも価値のあるドラマである。

ホームページへ 担任雑記No.6へ

1