担任雑記No,50「2つの交通事故」

 その晩は、少しでも早く家に帰りたかった。予定より少々仕事が伸びたので、車に飛び乗り急いで家路につく。少しスピードを速めにして。

 校門を右に出るのに時間がかかる。右方向からの車は一台も道を護ってくれないので、すべて去ってしまうまで待つしかない。いつものことだ。やっとのことで道路に出て、フラフラと揺れる自転車通中学生を慎重に追い越す。今日は2列で走っていないな。ホッとしつつ自動車学校の交差点を右に曲がる。今日は、案外スムーズに曲がることができた。50メートルも行くと車2台がすれ違うにもやっとの場所になる。ここは難所だ。以前、普通車が溝にはまっていたのを見た。無理にすれ違いでもしたのだろう。ここをスムーズに越えるには、「護り合い」よりも、「先手必勝」だ。対向車がちょっとでもスピードダウンしたところをねらって、縫うように通り抜ける。だが、今日は相手の方が一枚上手だった。そういうときは「護り合い」の一手だ。仕方がない、道を護ろう。

 アップルランドの角まで来る。ここで左に曲がる。つい最近道路整備が終わって、走りやすくなった。情号交差点まで、一気に加遠だ。信号で違よく引っ掛からずに、右へ曲がる。陸橘の手前の信号もO.K.だったが、篠ノ井高校の前は引っ掛かる。どうしてこんなに信号が多いのだろう。運が悪けれぱこの3つの信号全部に引っ掛かることだってある。ストレスがたまる。

 18号線の交差点前にたどりついた。いつも通り信号待ちの車が15台ほどで渋滞している。もちろん信号は赤。この信号がまた、長いのだ。だから、私は以前述べたように、この信号での停車時間はエンジンを切っている。どうせ2、3回は待たねぱならない。「チッ」と小さく舌を鳴らしてエンジンを止めた。いつもなら気長に待つところだが、その晩は少々苛々がつのってきた。

 国道18号線を突っ切りバイパスまで行くのがいつものパターンだが、どうした拍子か、気まぐれか、左に曲がって国道を行く。なんとなくその方がいいと思った。自動車学校の前で信号。セブンイレプンの前でも信号。途中、小さな信号に数えるのも馬鹿らしいほど引っ掛かる。無意味な信号が多いように感じる。正直に止まっても、交差点から出てくる自勤車はほとんどいない信号が半分はある。苛々はさらにつのる。

 川中島を過ぎ、更北を越えるころには流れはスムーズになった。犀川を越える。丹波島橋手前辺りから、片側2車線が確保され、無用な信号も少なくなった。割合快適なスピードである。この調子で行けぱ間に合うかも一。

 新幹線工事のため少々狭くなっている陸橋を越え、県庁前通りに入る。やや交通量が増えてきた。このスピードを保つには小まめな車線変更が必要だ。少々のろい車を追い越し、グッとその前に出た。あっ、信号だ、車が停車している!とっさに右足が反応した。左目の隅の方で大きな物体が動いてきたのが微かに見えた一

「キーツ、ドカン」

 音がしたのは右の後ろの方だ。私は衝突していない。されてもいない。振り返る。私のとなりにいた車が追突された音だった。それにしても偶然にしてはタイミングが一。

 次の日、私は柳町中の近くの教育館の2階の一室で会議をしていた。会議は淡々と、何の生産的議論もなく進んでいた。ほぼ演説に近い形で一人が尽きる事なく次々と話しをまぜっ返している。一体いつになったらこの論議は終わるのだろう。つまらん。ぼんやりど窓の外を眺めながら考えていた。

 となりが小学校。ちょうど小学生が下校している。大きい子、小さい子入り交じって、楽しそうに、じゃれあいながら、歓声をあげながら、校門を出ようとしている。平和な一日だったに違いない。いや、きっと楽しく充実感あぷれる一日だっただろう。目がキラキラしている。声に張りがある。体の動きに喜びが満ちている。鳴呼、小学生って、いいな。そんなこと、ぼんやり考えていた。

 学校の前を通る道は通学路なので、一方通行。狭い道だ。車がすれ違いできるかできないか、ギリギリの幅だ。小学生や近くの中学生が歩けぱ一杯になってしまいそうな、住宅街の一角の道である。

 だが、5時を回って、少々薄暗くなってきた。小学生たちの数もまばらになる。みんな、気を付けてお帰り。またあした。

 そろそろこの不毛な会議にもピリオドを打ちたい。進行役を務めていた私が、「そろそろどうですか一」と言おうと口を開けた瞬間、

「キキーツ、ドカン」

 不意をつかれた。一瞬、部屋の人間の動きが凍りつく。「や、やったか!?」の声で、全員がベランダへ飛び出す。隣の部屋で会議をやっていたらしき女性がベランダを駆け抜けて行った。自然と視線が彼女を追う。道路に視線が釘付けになる。ランドセルが転がっていた。灰色の大きなヴァンがゆっくりバックしている。青い幅子が車の下から出てきた。小学校から先生方らしい大人がバラバラと走り出てくる。小学生たちが取り囲む。物珍しげに野次馬たちが騒ぎだす。

 ひかれた人は?視線がさまよう。だれかがつぷやく。「側溝に落ちているよ一」

 彼(カバンの色が黒だったのでそう推測した〉はすっぼりと側溝に落ち、ぐったりしているようだった。「頑張れよっ!!」「しっかりっ!」悲痛な叫び。「オイ、周りの小学生を早く帰しなさいよ!!」私もテラスから叫んでいた。

 2〜3分して胸が締め付けられるような音を立てて救急車が到着した。手際よく被書者を担架に乗せ、去って行く。警察も現れ、現場検証を開始した。彼がどうなったかは分からない。新開にもテレビ報道もされなかったから、多分一命は取り留めたのだと思う。

 

この2つの事故が立て続けに自分の身の回りに起こったことで、しばらく私の心を占拠して消えない言葉があった。

 「2度あることは3度ある」

もし、君たちが学校の前の道で事故に遺ったとしたら一。ぞっどずるが、「絶対に遺わない」と言う、確実な保証はないのだ。

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