担任雑記No,9「ヨーロッパ旅行記1」 「ヨーロッパ」.この言葉の響き、なんともいい響きである。なにか心を躍らせる響きである。憧れの地、ヨーロッパ。芸術の香り高きヨーロッパ。この地に訪れることを何度夢見たことか。が、それを現実のものにしてしまった。
それは、猛暑に泣いた1994年の夏のことである。
夜中の2時に長野発の夜行列車に乗るため、妻と二人で長野駅のホームに立つ。偶然にも、長谷川先生夫妻も新婚旅行に出掛けるところで、彼等もヨーロッパ旅行だという。長谷川先生の奥さんはとっても美人である。う〜む。え、ま、まぁ、それはそれとして、大きい荷物とふくらむを期待を列車に乗せ出発した。6時間掛けて東京に到着する。−眠りすれば、そこは憧れの世界への入り口だ。
成田空港で出発の時間を待つ。この日本の玄関口は期待と不安、静寂、喧騒の混ざった独特な空気で包まれている。受付けロビーで受付けをすまして、出発ロビーへ向かう。私たち夫婦が利用する航空会社はアリタリア航空。乗る予定のジャンボジェツト機はもう横付けされており、出発の案内を待つばかりだ。と、なにか、観光客らしからぬ、カメラや手帳、テレビカメラを待った人が大勢私たちの待つロビーでうろうろしている。「幾らこの私が有名だからつて、プライベートまで着いてこられちやあ困るなあ」と妻にいったら無視された。どうやら、だれか私以外の有名人がこのロビーにくるらしい。人の話から、どうやら、何と、あの、Kazuこと三浦和義選手と設楽りさ子夫妻が私たち夫婦と同じ飛行機に乗るらしいのだ。有名人をみて騒ぐほどミーハーではないが、今をときめく人達だけに、一目見てやろうという気持ちは無きにしも非ずだったが、私がいくことでロビーでの混乱を煽るようなことはしたくなかったので、ぐっと我慢して、飛行機の搭乗案内に従いさっさと搭乗してしまった。ロビーでは案の定パニックだったらしく、出発時間が20分ほどのびてしまった。
飛行機の座席は全部指定席である。妻は大の嫌煙家なので、当然の如く禁煙席を希望した。チケットに書いてある番号に従い自分の座る席を探していくと、何と一番後ろの末席だった。かって日航ジャンボ機が雄鷹山に墜落したとき女子中学生がたった一人だけ助かったのは、飛行機の一番後ろの席に座っていたからだという。だから、妻と、「墜落しても生き残る可能性は高いから安心だ」と冗談とも本気とも着かぬ事を話して笑った。後ろにはトイレがあるだけ。これは助かった。そして、背もたれを後ろに気兼ねせずにリクライニングできると言う利点もあった。お陰で、14時間飛行機の中に缶詰だったが、充分眠ることができた。ただし、ジェットエンジンの轟音は大きいと言うより凄まじい。なにせ、隣に座る妻との会話にも難儀した程である。だが、気持ちを切り替え、これは川のせせらぎが何千倍にもなったのだ、と心に念じていくうち、不思議と意識はふかあい眠りの世界に落ちて行く。時たま、私の席の後ろでこつそり煙草を吸う不届き者がいた。「すみません、禁煙席なんですけど」と言うと済まなそうに去っていった。その他は至って快適だった。
飛行機での過ごし方の楽しみの一つに、「機内食」がある。アリタリア航空の機内食はコンテストで優秀な成績をとるほどの実績だと言う噂を聞いていた。さてどんな物か。待ちに待ったディナーである。機内食は、自分の座席の狭い空間で食べるため、縦25センチ、横30センチほどのコンパクトな容器に料理を入れている。お味は、さすがであった。是非、お試し在れ、小さいながら、鳥肉のクリームソース和えは絶品であった。また、食後の飲み物のサービスも気が利いていた。珈琲紅茶のほか、緑茶のサービスがあるのだ。金髪のスチュワーデスやパーサーが大きな急須を持って「オチャ、コーチャ」と回って歩く姿がなんとも滑稽だが、外国資本でありながら、サービスの向上を計っている企業努力に拍手を送りたくなった。
乗客は日本人がほとんどであった。したがって、会話は日本語が中心であった。だが、乗務員(スチュワーデス)は我々から見るとみな外国人である。だから、彼女等と会話を楽しむには、英語を喋れないといけないと日本人は思い込んでいる。例えば、ちょっと飲み物を員いにスチュワーデスの詰め所にいく。すると、どういう訳かしなくても良い緊張感を覚えながら額に汗し、一生懸命英語を考える。そして、漸く絞りだして出てきた言葉が「ぷ、プリーズ・ギブミー・ビール。」の一言。すると、「はい、ビールでございますね。暫くお待ちください」とニコツとしながら金髪の彼女に日本語で言われ、暫くあっけにとられしまうことが多い。彼女らは少なくとも数か国語は話せるのが常識だ。ここに、日本人の外国人コンプレックスを見ることができる。そして思い込みの激しい人種だと言う事も。私もその一人であった。
後3時間ほどでイタリア・ミラノ郊外に在るマルペンサ空港に到着する。すると、前のほうから薄暗い機内にあって良く目立ち、やたら頭の小さくスタイルの良い、目鼻立ちのキリツとした女性が歩いてくる。暫くぼ一つと見ていると、設楽りさ子ではないか。やつばり本物は違います。美しい!!Kazuが羨ましい!何人かのミーハーが私の席の後ろでフラッシュたいて彼女と写真を撮っていた。人の迷惑も考えてほしかったが、私と30センチの距離まで近付き、ちょっと洋服の裾が腕に触ったことで、そんな感情は宇宙の彼方にいってしまった。私もミーハーの一人のようだ。
飛行機は予定よりも5分早く無事イタリアに到着。いよいよ21日間の旅の幕開けである。この後様々なハプニングが二人にふりかかるが、それは、また別のお話し。