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中世英語では、キャロル(carol)は単に歌謡の一形式を表す語でした。さらに溯ると、中世フランスのダンス曲であるカロル(carole:輪舞)からきていると言われます。宗教に限らず、さまざまな祝い、季節のお祭りなど折にふれて楽しまれていました.それが14世紀前後には、大衆の宗教的な歌として固定化していったそうです。 現代英語の carol にも「楽しく歌を歌う」という動詞の意味があります。また、元気な鳥の囀りも "carol" と呼んでいるように、この語には「楽しい」「賛美する」という意味が残っています。なお、現代フランス語では "carole" という語はあまりお目にかかりません。これとは別に、クリスマス・キャロルをさす「ノエル(noël)」という語がありますが、これはクリスマスを意味する「ノエル(Noël)」から派生したもので、語源的にも carol とは無関係です。 この時代のキャロルは、現在イギリスだけでメロディーが百曲以上、歌詞は五百編以上残っているといいます。形式は、2行の詩がまず繰り返され、それから4行の詩が続き、それが幾度か繰り返される形になっているものが多いらしいです。 |
ほぼこの時代に作られた「コヴェントリー・キャロル」などを聞いてみますと、当時のキャロル雰囲気がよくわかり興味深いものがあります。 この歌は16世紀に書かれましたが、15世紀までのキャロルの節をそのまま取りいれていて、中世の大衆の嗜好を示す格好の資料になっています。(中世ではこうした歌謡は口伝てで受け継がれ、楽譜として残されるのは15世紀以降になってからでした) 聞いてすぐ分かりますが、曲も歌詞も実に素朴な形式で書かれています。当時は、貴賎の隔てなく、もっとも興味があった歌の題材は宗教的なものでした。もちろん、恋や飲酒や戦いの歌もありますが、ほとんどの歌は毎年の宗教的なお祭りの導入歌として歌われていたようです。クリスマスはその中でも際立って大切なものでした。 こうしたキャロルには、すべて印象的な「繰り返し」が用いられています。それは寡黙だった大衆の心を代弁しているかのようで、いかにも味わいがあります。キャロルは当時だれもが口にし歌ったもので、女性達が子どもをあやしながら、"Lully,lullay" と歌っていた様子を想像しても、あまり間違っているとは言えないでしょう。 |
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この頃が丁度キャロルの「黄金時代」で、これより時代が下ると、キャロルは芸術的な叙情歌の重要な形式の一つに洗練されはじめます。音楽的に高度になり、和声やリズムが複雑になると、素朴な味わいは消されてゆきます。教会典礼に関連して使われることが多くなり、詩の内容もキリストの受難や聖書の忠実な描写、瞑想的な内容が多くなり、キャロルはもはや祭りの楽しさを引き立てるものではなくなってきました。同時に、歌詞が音楽の効果を決める重要な要素になったのもこの時代からだといいます。 この流れを大きく変えたのは、1517年から始まった宗教改革です。複雑・形骸化していた典礼が見直され、簡素化が推し進められ、その結果、行列・聖餐式などに用いられていたキャロルは姿を消して行きました。18世紀後半に宗教的なキャロルの復興が企てられましたが、大きな流れにはならず、キャロルは古い時代にそうだったような、クリスマスに結びついた親しみのあるものとして復活することになりました。上質のキャロルを残そうという試みも各地でなされています。 中世の人々が感じた「喜び」や「賛美」は、私たちが慣れ親しんでいる「クリスマス・キャロル」の素朴な節のどこかに、今も息づいているのかも知れません。 <絢> |
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