Clara

眠りにおちるクララ。これまでのことは夢だったのでしょうか?
 

The Nutcracker


バレエと原作について

(表示を終える場合はブラウザを閉じてください)
「くるみ割り人形」は、女の子のためのクリスマスの童話です。
原作は、「黄金の壺」や「牡猫ムルの人生観」などを書いたドイツの作家ホフマンです。
この作品は主人公の少女クララ(Clara、ホフマンの原作ではマリーMarie)がクリスマスに見た夢、として親しまれていますが、原作とバレエとでは内容や雰囲気が大きく違っています。
 
 
 


〜 バレエのあらすじ 〜


クリスマス・イヴ、スタフルバウム博士夫妻のお屋敷では、毎年恒例のクリスマス・パーティが催されていました。夫妻の子供たちクララとフリッツ(Fritz)は、毎年この日が来るのをとても楽しみにしていました。古くからの家族の友人や親戚の人が次々に訪れて、一家はこぞって歓迎しています。

やがて、クララの名付け親であるドロッセルマイヤー(Drosselmeier)さんが到着します。この人はどこかしら謎に満ちた人物で、マジックが得意で、いつもみんなを驚かせます。マジックではなくてホンモノの魔法だという噂まであります。ドロッセルマイヤーさんは発明家でさまざまなオモチャを作ることでも有名でした。子供たちはみんなこの人が大好きでした。


ドロッセルマイヤーさんはさっそく子供たちのリクエストに応え、等身大の踊る人形をプレゼントします。子供たちは大きなクリスマスツリーの下のプレゼントがとても気になります。いっせいに包みが開かれると、広間は嬉しそうな声でいっぱいになります。女の子は新しい人形を胸に抱きしめ、男の子はおもちゃのラッパを吹き鳴らしはじめました。

ドロッセルマイヤーさんはフリッツにねずみの王様の人形をプレゼントしました。他の子供たちはこの人形がちょっと恐かったのですが、フリッツは気に入りました。それから、クララには美しい「くるみ割り人形」を手渡しました。この人形はパーティのどの人形よりも輝いて、美しいものだったので、子供たちは感嘆の溜息をもらしました。フリッツはクララを嫉妬して、クララの手からくるみ割り人形をもぎとると床に叩き付けて壊してしまいます。

クララはとてつもなく悲しみますが、ドロッセルマイヤーさんがすぐやってきて人形を直し、クララに手渡します。


お客様が帰り、家中が寝静まりました。しかし、クララは壊れたくるみ割り人形が心配で、ベッドから抜け出すと、広間のクリスマスツリーの下のくるみ割り人形を覗き込みます。

このとき、不思議なことが起こりました。


クララはおかしな物音に、はっと振り返ります。暗闇に何かがいます!それは何百匹というねずみたちでした!壁のあらゆる裂け目から、ぞくぞく出て来てクララを取り囲みます。それを指揮しているのは、ねずみの王様でした。クララを捕まえて、自分達の国へ連れて行こうというのです。

あわや、というとき、どこからかドロッセルマイヤーさんが現れました。そして、くるみ割り人形を手にとると、なにやら呪文を唱えます。するとくるみ割り人形はみるみる人間の背丈になり、クララを守ってねずみの王様に堂々と立ち向かいました。


ドロッセルマイヤーさんがふたたび呪文を唱えると、部屋にあったクリスマスツリーやおもちゃたちが大きくなり、さっそくおもちゃの兵隊が駆けつけてきました。指揮をとるのは、あのくるみ割り人形です。

兵隊達がねずみ達と、そして、くるみ割り人形は、ねずみの王様と戦い始めました。しかし、ねずみの数は兵隊たちよりずいぶん多く、おもちゃ軍はじりじりと追いつめられてきました。くるみ割り人形も昼間の傷のため、思うように剣がふるえないようです。すさまじい戦いの途中、くるみ割り人形が少し目を離したすきに、ねずみの王様はクララを捕まえてしまいました。

クララを楯にされたのでは手が出せません。くるみ割り人形は剣を捨てました。ねずみの王様は、ゆっくり剣を構え、くるみ割り人形を一突きに殺してしまおうと身構えました。それを見たクララは、満身の力で自分の靴をねずみの王様めがけて投げつけます。それが効きました。靴は王様の頭にあたり、王様はそこにうずくまって動かなくなりました。どうやら死んでしまったようです。ねずみたちは倒れた王様を抱えてそこから逃げ出します。

ねずみの王様が死んでしまうと、くるみ割り人形はりりしい王子さまの姿に変わりました。くるみ割り人形はずっと以前にねずみの王様の呪いで人形の姿にされた王子さまだったのです。

勇敢なクララに感謝し、王子さまはクララを自分の国へ招待します。



二人はまず「雪の国」を訪問し、雪の精たちの歓迎を受けます。

それから「魔法の森」を通って「キャンディーの王国」へ到着しました。

「キャンディーの王国」に二人達が入ると、次々にファンファーレが鳴り響きます。世界中からキャンディーの精たちがクララ達のためにやってきたのです。キャンディーの精たちはそれぞれ自分の国の踊りを披露し、その場の雰囲気はどんどん高まって行きます。そして、会が最高潮に達したとき、こんぺい糖の精が優美なグラン・パ・ド・ドゥをクララのために踊ります。

やがて楽しいイヴは終わり、クリスマスの朝が明け始めます。クララとしばしの別れを告げ、キャンディーの精たちは目覚め始めたクリスマスの空に消えて行きます。

翌朝、家族の人が大広間に入ると、クララは大きなクリスマスツリーの下で、かわいい寝息をたてていました。もちろん、大好きなくるみ割り人形を腕にしっかり抱きしめて。

ああ、あれはみんな夢だったのでしょうか・・・。




〜 ホフマンの原作について 〜

今日、少女のための童話として親しまれているこのお話も、ホフマンの原作では暗い病的な調子で始まります。ホフマンはこれを子供のために書いたのではありません。ホフマンの言によると、「人間性や人間関係の崩壊が裏側にある」といいます。(実際ホフマンの原作は内容が暗く、少なからず残酷な場面もあるので、ここでは詳しくご紹介しないことにします)

後にこの物語は、「三銃士」や「モンテクリスト伯」で有名なデュマ(Alexander Dumas:1802-1970)によって、子供達が楽しめるような童話に書きかえられました。それに注目したのは、ロシア帝国劇場バレエのプティパ(Marius Petipa)でした。さっそくバレエ化の計画が始まり、チャイコフスキーに作曲を依頼します。物語はデュマのものよりさらに単純化されましたが、音楽はそのままにされました。そして、この物語とバレエ曲は、クリスマスの休暇にはなくてはならない作品となったのです。



〜 くるみ割り人形の由来 〜

この物語に登場する「くるみ割り人形」とはどういう人形でしょうか。本物をごらんになったことがおありかと思いますが、おおざっぱにご紹介します。

どのくるみ割り人形も、大体前のページの写真のような姿をしています。つまり、口は大きくて金属で補強され、下アゴは大きく開いて、上アゴとの間にくるみを挟むことが出来るようになっています。人形の背中には、ペンチの取っ手のようなレバーが出ていて、それを握ることにより、下アゴが上に動いて間にあるくるみを砕くことが出来るわけです。



いろいろなくるみ割り人形たち
 
こういう人形がいつごろから作られ始めたのか、はっきりしたことは分かっていません。中世時代からあったとさえ言われています。ある説によると、硬いくるみを割ることに不自由を感じた裕福な農民が、「くるみを簡単に割る工夫」に懸賞をかけたところ、この人形が応募された、といわれています。

顔はいろんな表情のものがありますが、伝統的に口髭のあるこわそうな兵隊さんの姿をしています。(一般には、本当にくるみを歯で噛み砕いた兵隊さんがいたとか、庶民的な兵士のイメージがくるみ割りにマッチしたとか、威張り散らす隊長をからかった皮肉であったとか、いろいろ言われています)。どう見ても、小さな女の子が夢中になるようなかわいい姿ではありません。なぜクララはこんなお人形に心惹かれたのでしょうか。

じつは、「くるみ割り人形」には、裏の意味があります。

簡単に壊れない「硬いくるみ」は、時として、「打ち破ることが出来ない人生の悩み、問題」を意味することがあります。そして、「くるみ割り人形」は、その問題を解決するような助け、解決策などを表すことがあります。苦境に立ったときの言い回しには、「私にはくるみ割り(人形)が必要だ」というものまで残っています。クララの夢は、この「くるみ割り人形」の意味をそのまま物語にしたものでした。

現在のバレエ化された物語では削除されていますが、クララは家族との間で「容易に乗り越えることが出来ない苦しみ」を味わっていました。それは、両親の無関心、愛情の欠乏です。クララは、その状況を噛み砕き、幸せになるための「くるみ割り人形」を必要としていたのです。ドロッセルマイヤーさんは、そんなクララの状況を察して、クララを助けるための「くるみ割り人形」をプレゼントしたのでした。

また、原作では「世界でもっとも硬いくるみ」を砕くことが、クララとドロッセルマイヤーさんの甥にとって大切なポイントになりますが、それは「もっとも解決が困難なことを解決する」という意味に読みかえることも出来ます。

興味をもたれた方は、ぜひホフマンの原作もお読みになってみて下さい。


絢/1998年9月


11MB FREE 11MB Free Web Hosting at XOOM. Web Hosting...
1