日米間のインターネットコミュニケーション
―日米学生会議の電子メール上の協力の場合―

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コーラ ディクソン
修士見込み
国際関係デュアルデグリープログラム
アメリカン大学大学院・立命館大学大学院


要約

 第一章では、アメリカと日本両国でのインターネットや電子メールの普及率が飛躍的に増加していることについて述べた。さらに、アメリカと日本のユーザーの「ネチケット」(ネット上のマナー)のルールが似ているが、分離現象もあることについてふれた。

 しかし、第二章で述べたように、ホールの文化モデルによると、マナーや行動が氷山の一角であり、普通のお人は文化価値観を意識していない。ホールの行為チェーンと高・低コンテクストの概念、及び林のデジタル・アナログ知覚の概念をまとめてみた。簡単と言えてみれば、どのようにコミュニケーションが文化からの影響を受けるかという原理である。

 CMC(Computer-mediated communication, コンピュータを介したコミュニケーション)は新しい分野であり、オンライン行動を研究するものである。例えば、ワルサーは要素によって3つのCMC特徴を指摘した。ワルサーは「バーチャルチーム」を研究対象としてグループ・個人アイデンティティの影響も調べたが、異文化コミュニケーションの次元をほとんど考察しなかった。若林は「メディアリチネス」を通して日本企業におけるCMCの限界を検討した。マは異文化コミュニケーションとCMCの原理を結合し、チャット上の北米人と東アジア人の交流を研究した。本文において、マが指摘した「直接性」に対しての見解では、筆者の研究の重要な出発点である。

 本文の日米学生会議(JASC)の実行委員会(EC) のケーススタディには、先行研究によって指摘されたパターンも表面化してきた。例えば、JEC(日本側)とAEC(米国側)それぞれの仕事分担は企業組織と似ていた。決定過程でも、JECメンバーが「総意」を好んだが、AECメンバーが個人的に権限があり、たまに議題について投票した。

 第三章では、収集したメールから2つの事例に焦点を当てた。第一のコンフリクトには、本議のテーマ(フォーカス)の日本語訳について分裂が生じ、発展してきた。第二のコンフリクトには、JECが日程を変更し、メキシコの観光を取り止めてほしかったという事態を例としてあげた。また、第三章に事前調査の結果も報告し、AEC・JECにおけるコミュニケーション方法として電子メールの利用を比較した。さらにJECとAEC双方メール上の「直接性」について評価したとき、「見解ギャップ」が表われた。そして、本議でインタービューしたとき、このキャップについて調べることができた。

 第四章の分析によると、コンフリクトがあったとき、文化差異とコミュニケーション経路は分裂を補強してしまった。フォーカスの場合、相互理解ができず、AEC側が諦めたが、メキシコの場合、最も効果的な和解ができた。特に、テレビ会議ではお互いに画面を通じて顔が見ることが可能であったため、相互目的が再び感じられ、協力的な態度に貢献したものであった。やはり、電子メールでコンフリクトを完全に解決するのは難しい。最後に、第五章で日米の「バーチャルチーム」における推測を挙げた。

 本文のケーススタディが示したように、ネット上でに日米間の協力ができるが、いろいろな要素(異文化、メールの特徴、グループダイナミックなど)を意識しないと、うまく行けない。JASCの場合、ECメンバーを仲間とみなすが、コンフリクトがあったとき、障害を越えにくかった。会ったことがない相手だったら、相互理解がもっと難しくなるかもしれない。  今後、国際的な「バーチャルチーム」1 が増えるに伴い、異文化コミュニケーションの可能性も高くなると予想される。この視点から国際関係を考えることは将来大変重要な研究となるに違いない。



修士論文のアウトライン

第一章 問題提起

第一節:米国と日本における現在のインターネット状況

    世界中のインターネットの普及率
    ユーザーにおけるインタネットの活動
    「ネチケット」:日本風とアメリカ風の分離現象

第二節: 日米学生会議の実行委員会の電子メールやりとり:ケーススタディ

    日米学生会議(JASC)の背景
    研究計画
    研究対象としての学生被験者の有意性について


第二章 先行研究

第一節:異文化コミュニケーションの先行研究

    エドワード・ホールの文化パラダイム
     ● 氷山の文化モデル
     ● 高・低コンテクストの概念
     ● 行動チェーン (action chain) の概念

    デジタル・アナログの概念 (林吉郎)
     ● O型・M型の経営
     ● 高・低コンテクストとの関連づけ
     ● デジタル・アナログの概念

第二節:CMC (コンピュータを介したコミュニケーション)の先行研究

    CMCの特徴:Impersonal, Interpersonal, Hyperpersonal
     ● ジョセフ・ワルサーの原理(1996年)
     ● 米英学生のメール上共同研究 (前著1997年)

    日本における「情報化と企業内コミュニケーション」
     ● 若林 直樹(1993年)ー メディアリチネス など

    東アジア人と北米人の間の異文化CMC
     ● リンゴ・マ(1996年):二つの現象

    その他
     ● ケッテンジャー(1997年)
     ● ボルディア(1997年)


第三章 ケーススタディの結果

第一節:電子メールの収集
    ● データ量と取り方について
    ● AEC と JEC の職務分担 (メールからの例)
    ● コンフリクト焦点

第二節:事前調査(7月)の結果

第三節:ECのインタビュー(8月)のハイライト


第四章 結果の分析

第一節:コンフリクトの原因と解決

第二節:直接性に対して見解ギャップ


第五章 結論:日米間のインターネットコミュニケーションにおける推測

■ 分裂の理由は、原因として完全に「文化の差異」を挙げることができないだろう。AECの中でアメリカの大学で在学していた日本人も一人のAECのメンバーであった。その人もフォーカスの日本語訳に反対した。このケーススタディーが示したように、仕事分担とコミュニケーション経路または地理的な距離を通して、グループの属性が付与され、グループアイデンティティが作成されたものとなった。

■ 従って、プロジェクトチームの結合は文化差異より優先させるべきであろう。

■ できるだけ、バーチャルチームは面と向かって話し合い、接触を重視するべきである。

■ 特に日米間の場合、デジタル・アナログ知覚のギャップを越えるメンバーが必要である。つまり、お互いに尊重できるように両側にもコンセプトを「論理的に説明できる」人。

■ 異文化間のネチケットの原則として、第一に相手側から返事が遅れることがあっても、我慢するべきである。第二に、メール上の相手に直接的に批判を述べながらも、失礼な言い方を避けること。

■ 日本人とアメリカ人両者にとって、意見を述べる際、電子メールはいい手段であり、総意のために意見交換ができる第一段階であるが、結論を遂げる際に電子メールはあまり効果的な方法ではない。

■ 文化影響のため、議論の目的として日本人はCMCを好まない傾向であるが、アメリカ人とネットワークを通して協力する場合、もっとネット上で議論に参加する努力が必要である。相手側から日本人の議論が隠されたと誤解されるような事態が起こったならば、分裂の生じるであるう。結合のためには全員が個人的に意見を述べたほうがいい。

■ アメリカ人は、CMC上で相手の英語能力の限界を認めなければならない。例えば、「厳しいな言い方」を気にしないこと。


ご意見を聞かせて下さい:Cora Dickson
Last modified - February 13,1999
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