キハ391性能試験データ資料
昭和47年に試作されたキハ391は伯備線、山陽線で走行試験が行われました。 このときの珍しい資料をご紹介します。 パソコンなど姿形もなかった時代の、手書きのレポートというなつかしいものです。
動輪周引張力実測値 ノッチ別の速度ー引張力実測値です。 実線は計算上の計画値。 ノッチは181系と同じ7ノッチありました。 (なお、181系は6ノッチと7ノッチの燃料噴射量は同一でした。 7ノッチはキックダウン用に使用)
フルノッチ以外は計画値よりよい値が出ていますが、1ノッチや2ノッチでは起動抵抗に打ち勝てず、じっとしたままだったようです。 起動抵抗を減らすため、減速機構などに加圧して油を強制潤滑させるジャッキアップ機能があり、低ノッチで有効でした。 4ノッチ時、250kg改善されているのがわかります。
7ノッチでは計画値並かややそれを下回っています。 計画値でのガスタービン自体の出力設定は1100馬力程度と推定されます。 この車両のガスタービンは航空機用のため、出力表記は航空機での使用が前提となっています。 これに吸気クリーナーや吸排気サイレンサーをつけて、さらに20:1ほどの複雑な減速歯車を介して車輪に動力を伝えるため、動輪で発揮できる有効な出力はもとの87%程度に落ち、130km/hで900馬力程度となるはずです。
このときの測定値からするとおそらくガスタービンは連続定格の1050馬力に設定してあったと想像されます。 また、夏前ですので外気温は30度近くあり、それによる低下かもしれません。 このガスタービンは外気温15度で30分定格出力1250馬力を発生する性能がありましたので慎重に出力を設定していたようです。
燃料消費率 ノッチ別速度ー燃料消費率の実測値です。 グラフが上にあるほど燃料消費率が大きく、つまり燃費が悪いことになります。 縦軸の単位はg/PS・hで、馬力当たり何グラムの燃料を1時間で消費するかを意味します。 つまり燃料消費率300g/PS・hの1000馬力のエンジンなら一時間に300000g、つまり300kg燃料を食うことになります。
使用ノッチ別では、低ノッチほど悪くなっています。 そして速度に大きな影響を受け、低速になるほど急激に悪くなります。 つまりガスタービン車は低速運転するほど燃費が急に悪くなるわけです。 これは機械式1速直結駆動方式の宿命です。
なぜこのようなことになるかというと、ガスタービンはディーゼルなどと異なり、回転数に無関係に一定の燃料を食うからです。 回転数が半分になったら回転力が2倍になればそれでも問題ないのですが、現実には1.5倍弱にしかならず、その差がロスとなってしまうのです。 ディーゼルでは基本的に回転数と燃料消費量が比例関係にありますから低速でも液体変速機を使わずに直結されている限りこんなに燃費が悪くなりません。 そのかわり回転力も増えませんので加速が悪く、変速機が不可欠になるのです。
181系のエンジンは車両搭載状態で約200g/PS・h程度ですから、391は高速運転時で181系の1.6倍程度大食いだったようです。
現在のガスタービンは当時のものより30〜40%燃費が改善されたものが多くなっていますが、フルノッチ低速回転での低燃費は変わっていません。 低ノッチでの悪化は若干改善されています。
一方、ディーゼルは直噴化で181系の時代より20%近く改善しています。
加速性能試験 実際の加速性能の測定値です。 ただし、これは6ノッチのものです。 ノッチ投入から起動するまで12秒もかかっています。 ガスタービンやジェットエンジンなどあの仕組みのエンジンはレスポンスが悪いことで有名ですが、12秒は異常です。 結局その後の燃料噴射装置の改良で4秒程度になり許容できる程度に改善したようです。
起動後60秒で63km/h、90秒で85km/hの性能は当時の気動車の感覚からは特に悪い成績ではありません。 しかし、181系の「つばさ」編成(11M1T)が60秒で73キロ、90秒で91km/hと計算されますので少し物足りない感じがします。
見方を変えて、地方幹線でよくある45km/hの分岐器制限速度から最高速度の95km/hまでの加速という点で見てみます。 391の6ノッチで約60秒、181系では66秒程度となり逆転しています。 つまり391は起動直後が苦手なわけで、ある程度動き出すと相対的によい加速を示すわけです。 変速機のない直結1段駆動ですから、いくらタービンの低速回転力が強いといっても起動直後の加速が悪いのは致し方ない結果でしょう。 当時、181系「やくも」の運転士から選抜されて実際に391のマスコンを握って試運転を担当された運転士さんは、「そりゃあタービンは走り出したら181より大分加速がええ」と感想を述べられました。
もっとも391はこのときの設定(1050馬力)で7ノッチで起動すると、起動後60秒で73km/h、90秒で99km/hとなり一応面目を保っていました。 仮にタービンの出力設定を30分定格の1250馬力で計算すると、それぞれ85km/h、112km/hとなり、当時の気動車を圧倒する加速となります。
運転曲線 山陽線での試験のために作成された運転曲線です。 これは下り瀬戸ー東岡山間のものです。
ちょうど中央付近でR800mの曲線がいくつかあり、それの通過制限を105km/hから130km/hまで変えているのがわかります。 しかも最高速度は135km/hまで計画していたようです。 120km/h以上の目盛りが途切れていますが、当時の作図用紙は120km/hまでしか対応していないからです。 140km/hからまた目盛りが出ていますがこれは上り列車の作図用の欄なのです。 391のランカーブはここまではみ出して作図されたのです。
東岡山の手前で高速から一気に600mほどで急停車していますが、ここで非常ブレーキ試験が行われたようです。
通達 これは当時の米子鉄道管理局から出された391試運転に関する通達です。
当時のキハ391
最近、国土交通省が古い時代の航空写真をウェブ上に公開しました。 貴重なキハ391の雄姿(?)が映っているようですので引用させていただきます。 実際は昭和51年夏前後の撮影と思われ、すでにガスタービン車計画は頓挫、スピードアップの夢が破れた後の末期症状の国鉄時代で、野ざらしで放置されている姿です。
駅の左上と右下に留置車両が多数あります。 屋根上のラジエータが特徴的な181系の米子-岡山間増結編成が待機している姿や、駅を通過中のDD51重連と思われる貨物列車の姿も見受けられます。 左上の留置線の一番左下に位置するところにいる車両に注目してみましょう。 下の図がその部分を拡大したものです。 図の青丸の車両がまさにキハ391高速運転用試験気動車です。 その後部にはキハ180とキハ181の姿(赤丸)も読み取れます。 「日本のターボトレイン」のページにあるキハ391の写真の後方にキハ180、右隅に旧型客車が写っているのがわかると思いますが、まさにその配列のまま車両が配置されています。 キハ391は田沢湖線での耐雪性能試験終了後ここに留置され、高速ガスタービン動車計画の挫折後も大宮工場に回送されるまで色あせたまま放置されていました。 |