新世代ターボトレイン

 

新世代ターボトレインに要求されるものはなにか。 エンジン自体の最大熱効率はディーゼルに肩を並べるにいたった今、鉄道利用という面で残された課題は391の試験結果を参考にすると、

(1)低速回転、部分負荷での効率低下

(2)アイトリングの燃料消費

(3)全力起動時の高騒音

(4)トンネル内勾配起動時の排気ガス吸入

(5)高価格

という点があります。 どうすればよいのでしょうか。 

1.機械式での対策

 ガスタービンを常に最大出力付近の回転数で使用する必要があります。 機械式の場合、1速では最高速度付近が最大効率となりますので、連続高速走行する新幹線のような車両では比較的問題は少ないようですが、加減速の多い線区では重要な問題となります。 機械式での解決策は多段式の変速機をつけること。 最近のディーゼル動車が液体変速機に加えて3速から4速の直結段の変速機を持つように、ガスタービン動車でも2速から3速程度の変速機を採用すれば良いのです。 段数はガスタービンの低速高トルク特性のため、ディーゼルの半分で充分です。 アメリカ陸軍のガスタービン戦車でも4速しかありません。 ディーゼル戦車は10速もあるのです。 これは高ノッチ起動を不要とし、(1)、(3)、(4)を同時に解決します。 日本の在来線走行をシミュレートすると、直結1段に対して3段変速にすると10〜20%程度の省エネが実現可能です。 機械式は伝達効率もよく、構造が単純なため価格面でも有利で、(5)を低減可能です。  (2)に関してはエンジン停止しか方法がありません。 長い停車中なら停止可能ですが、惰行や下り勾配の度に停止していたのでは停止運転の繰り返し頻度が増え、熱疲労によるエンジン寿命短縮につながります。 

2.電気式での対策

 電気式の場合は状況は変わります。 発電機の制御で回転数は常に最適に保てます。 フライホイールと組み合わせると、電力過剰時にはガスタービンを停止できますので部分負荷でのガスタービン使用をなくせます。 しかも計画的にエンジンを運転すると、停止運転の繰り返し頻度を減らせます。 電気式の問題点は重量と価格でしょう。 いくら高周波発電セットや駆動用誘導電動機が軽いといっても機械式と比べれば不利です。 しかも構造が複雑な分、価格も上昇するでしょう。 しかし、フライホイールとの組み合わせは内燃車では夢であったエネルギー回生を実現します。 しかもピークロード的な使用が可能となりますので最大出力を大きくとれ、加減速の多い線区では電気車のように短時間過大出力を発生でき、ガスタービン自体の出力を低く設計できますので部分負荷はさらに減少します。 これらによる更なる低燃費化とその社会的意義を加味して検討する必要があります。 

3.世紀末に登場するアメリカの試作車

 これは米FRAFederal Railroad Administrationが国防機関、企業、大学と共同開発しているAdvanced Locomotive Propulsion System (ALPS)と呼ばれるプロジェクトの最初の試作車です。  フライホイール電力蓄積装置を併用した世界初の意欲的な機関車です。 レーシングカーでの試作例はありますが、これほど大規模なものは前例がありません。 

 まず誕生するのは、4000馬力の電気式ガスタービン機関車。 使用するガスタービンはTF40という形式で、航空機用ジェットエンジンから派生した機種だけに4000馬力という大出力にもかかわらず、重量わずか600kg、体積1立方m少々と非常にコンパクトです。 2軸式フリーの出力タービンには減速歯車を介さずに高周波発電機が直結されます。 なにぶん4000馬力ですから減速歯車だけで3トン近くにもなりますので、高速回転の軽量高周波発電機の直結は軽量化に絶大な威力を発揮します。 これは2000年までに完成し、性能試験が行われます。 ガスタービン自体はすでに小型艦船や船舶用に実績のある製品で、熱効率30%前後とそれほど先端的な高効率タイプではありませんが、その後、順調に進めば開発中の160KWh程度のエネルギー蓄積能力のあるフライホイールシステムを搭載し、ピーク出力8000馬力に達する機関車となる予定で、加減速時に威力を発揮します。 

 車体長は20m弱、総重量100トンという軽量機関車で、ピーク出力とはいえ、JRのEF200クラスに相当します。 最高運転速度は240km/h、やっとHSTの内燃車記録を破る営業速度となります。 無論、加速性能は2000馬力足らずのディーゼル機関車2両が牽引するHSTの比ではありません。 中間に振子式付随車をはさみ、両端にこの動力車を配してプッシュプル方式で運転される計画です。 

 これにより、1km当たり7000万円から1億4000万円するといわれる電化コストを削減可能で、列車密度の比較的少ない、長距離の高速鉄道実現への大きな推進力になるとされています。 

 このシリーズのガスタービンは上位に5000馬力、13000馬力と用意されており、サイズもあまり変わらないことから、給排気スペース及び発電機と駆動用電動機さえ対応すれば300km/h超の高速列車へもそのまま応用可能でしょう。 オーストラリアの4000kmに及ぶ高速線を300km/hで疾走するガスタービン列車こと”ターボトレイン”の勇姿を見る日が訪れるかもしれません。 

4.SDIのひとつの産物

 フライホイールシステムの開発にはアメリカの軍事技術開発が深く関与しています。 ここにひとつ、急に応用の宛てのなくなった軍事技術があります。 それはレールガン。 SDI計画のミサイル迎撃用のエネルギー兵器として、レーザーなどの高エネルギー光、プラズマや陽子線のような高エネルギー粒子、超高速の高運動エネルギー弾子がありました。 この最後のものが衛星打ち上げ用”電磁ライフル”と超高速列車へ応用される可能性があるのです。 

 Seraphim(segmented-rail phased-induction motor)と呼ばれるこのシステムは高運動エネルギー弾加速用に開発されたリニア誘導モーター技術を利用したものです。 地下鉄など一部でリニアモーター推進の軌道鉄道の例はありますが、リニアモーターは通常は磁気浮上システムと組み合わせた超高速鉄道の推進力として利用されるものです。  一方、Sandia 国立研究所が開発したこのシステムは、通常の線路を使用し、それに沿ったアルミの構造物と車両側との間でリニアモーターを構成して推進します。 動力源は超高速集電の困難からガスタービン発電方式とします。 日本やドイツの磁気浮上リニアと異なり、特殊な軌道を作る費用が約1/4と安上がりで、車輪そのものが推進力を伝達しないため、磨耗が少なく、速度、加減速ともに粘着力による制約を受けません。 精密な軌道と車輪を作れば500km/h程度の運転が可能とされています。 実用化の目処はついているとしており、後は社会的ニーズと資金の問題のみとされています。 日本やドイツのような狭い国土なら現在開発中の磁気浮上方式を実用化できるでしょう。 レールの発する騒音など不利な面があり、この方式の重要性は少ないでしょう。 しかし広大な国土を持つ国で莫大な軌道投資の必要な磁気浮上式超高速鉄道を作ることはまず不可能です。 やや遠い将来、こういった国々でこの方式が評価される可能性はあるでしょう。 

 

.入替作業の低公害化

 首都圏から勇ましく煙を吹き上げながら発車するディーゼル列車が姿を消してもう長い時間が過ぎました。近年ではディーゼル自動車までも規制あるいは排除されようかという時代となりましたが、入替作業は数十年前の設計のディーゼル機関車がもうもうと黒煙を噴出しながら大都市圏でいまだに元気に活躍しています。

 この問題に注目する企業がカナダにありました。Railpower Technologies Inc.です。
この機関車は特許の関係でまだ詳細が公表されていませんが、ガスタービンを電源とした直列式ハイブリッド電気自動車とほぼ同一構造となっています。green goatというニックネームを与えられ、来年早々にバンクーバーで試験を開始する予定です。
 入替作業というのはちょうど信号待ちや渋滞で発進停止を繰り返す都市部の自動車の走行とよく似ており、しかも機関車の場合は全力で発進しようとしますから、一番有害汚染物質を吐き出す状態でディーゼルエンジンを使うことになります。
 現在、全力運転をなくしてディーゼルエンジンを低出力、定常状態で運転して発電させ、走行は蓄電池にためた電気で
電動機を回すというハイブリッドバスやトラックが研究されています。
 この方法なら黒煙、窒素酸化物を抑制し、燃費も向上しますが、ただでさえ重いディーゼルエンジンを定格の6〜7割で使わねばならず、しかも重い低速回転発電機にますます重い蓄電池、さらには電動機まで加わるという、重量面では救いようのない欠点を持っています。
 入替え用とはいえ機関車となると出力もバスやトラックとは一桁違いますからますます深刻です。
そこでこの会社は発電セットを低速ディーゼルからガスタービン発電セットに置き換えました。出力軸に高周波発電機を直結したガスタービン発電セットならディーゼル発電セットの数分の一から十分の一の重さとなり、しかも騒音がかなり低下します。
 ハイブリッド化の低燃費化、低公害化がコスト的に見合う製品となるかどうかが普及のカギとなりますが、この方式は大都市に多くのヤードを抱える日本でも注目してよい方法となるでしょう。

 

6.天然ガス燃焼超低公害内燃機関車

 究極の低公害内燃機関は水素を燃料とするものですが、当面は水素の現実的な供給体制が整いません。そこですでに都市ガスや工業燃料として普及している天然ガスを燃料とする内燃機関が開発され、すでに実用化されているものもあります。
 ところが、液化天然ガスを使うとなると、液化に際して多大なエネルギーを消費してしまい、トータルで見た場合のエネルギー効率に問題が生じます。
 では圧縮天然ガスとなりますが、そうなると貯蔵スペースが大きくなり、車両では航続距離の制限、積載スペースの制限などさまざまな問題が生じてきます。
 ディーゼル機関車を見た場合、車体のほとんどを機関と放熱機、発電機が占めていますが、その部分を天然ガスタンクとして利用したらどうなるでしょうか。発電セットはどこに積むのかという問題が生じますが、高速ガスタービン発電セットならこの問題を比較的簡単にクリアーしてしまうのです。

 Railpower Technologies Inc.はディーゼル機関車からディーゼル発電セットをまるまる取り除き、そこに天然ガスボンベを並べ、余ったスペースには5500馬力のガスタービン発電セットを搭載したのです。
 天然ガスはメタン(CH
4)が主成分であり、燃えても水分子2つと二酸化炭素1つの割合でしか生じません。水素のように水だけというわけにはいきませんが、他の石油系燃料と比較したら炭素の構成比率が最も少ない炭化水素燃料ですから、二酸化炭素の発生は大幅に少なくなります。しかも窒素酸化物の排出は劇的に少なくなり、現在のディーゼル排気と比較すると画期的なクリーンさを実現できます。
 ガスタービンはすでに天然ガス燃焼で実績があり、他の機関と異なり、ほとんど改造なく利用できます。
 海底のハイドロメタンの採掘が実現すれば埋蔵量は事実上無尽蔵に近いとされ、石油資源枯渇後の将来の重要な燃料のひとつとして注目されています。

 同社が試作した機関車は5500馬力で、使用したガスタービンはアリソン 、再生装置(熱交換器)付で最大出力時の効率は40%に達するもので、車両用ディーゼルを最大効率とはいえ大きく凌駕するものです。
 さすがにアメリカのALPSのような回生システムは搭載していませんが、使用するガスタービンの効率はこちらのほうが30%よく、低価格の天然ガス使用とあいまって、運転コストは安くなるかもしれません。
 この方式で10000馬力程度まで対応できるため、世界のどのような需要でもまかなえる(ヨーロッパのような超強力電機の代替でもとしています。

 

 

 

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