ガスタービンとは何か

 

では、ガスタービンとは何でしょう。 ガスタービンは内燃エンジンの一種で、内燃エンジンとは燃料を燃やした火で直接力を得るエンジンです。 外燃エンジンというものもありますが、これは燃やした火で何らかの媒体にエネルギーを与え、それから間接的に力を取り出すエンジンで、まわりくどい説明をしましたが蒸気エンジンが代表です。 

ガスタービンの身近な例としてほとんどの飛行機やヘリコプターに使われているエンジンがそうです。 最近はジェットフォイルのような超高速船、軍艦、非常用発電装置など利用範囲が広がっています。 

(1)しくみは? たいへん精密な加工が必要なエンジンですが、その基本構造は単純です。 

ガスタービン

図のように空気を圧縮する羽根車と、その空気と燃料を混合して燃やす燃焼室、できた高温高圧ガスを吹き付けるタービン、その力を取り出す駆動軸からできています。 駆動軸で圧縮機とタービンはつながっており、タービンの力で空気を圧縮します。 そして余った力がジェット推進やプロペラの駆動、発電などに利用されるわけです。 

図のように圧縮機を回すタービンを2つに分離したらどうなるでしょうか。 圧縮機は前段のタービンで回るので勝手に回ってくれます。 後段のタービンは圧縮機とは無関係に回ることができます。 つまり回転数0から最大回転まで自由にできるのです。 圧縮機といっしょにすべてのタービンが回る場合、ある一定の回転数以下では必要な圧縮空気が得られずエンジンはまわることができません。 しかし、分離するとこの制限はなくなります。 速度が0からスタートするもの、もちろん列車も自動車も、飛行機のプロペラもそうです。 これらを動かすのはたいへん便利です。 クラッチや変速機もいらないことになります。 

もうひとつの恩恵はタービンを分けることで低速回転で大きな力を出せるようになることです。 車のエンジンではよく最大トルクは4000回転でとか言う話を聞きますが、この方法のガスタービンなら最大トルクは0回転か、数回転でといったことになります。 加速するときに大きな力の必要な列車にとっては実に有能なエンジンになります。 ディーゼルのような液体変速機も要らないし、クラッチもなくしてかまわない。 欠点は部品が増える分、複雑になってわずかとは言え重くなることでしょうか。 発電やポンプのように一定回転で運転されるものはタービンと圧縮機だけの方式が主体で、それ以外は別のタービンを持つ方式のガスタービンが利用されています。 前者を一軸式といいます。 後者は二軸式です。 もちろんさらに複雑なものもありますので多軸式といっておいたほうがよいでしょうか。 

(2)特徴は? 飛行機のエンジンですからすぐ思いつくのが軽くて大きな力を出せることです。 これが最大の特徴といえるでしょう。 数百kgほどのエンジンが連続して数千馬力も出せるなど想像できますか。 最新の新幹線用の誘導電動機でさえも数百KWです。 空からガソリンエンジンがあっという間に追い出されたのも無理のない話です。 最近の高速回転の交流モーターなどはガスタービンに近づいたものもありますが、少なくとも自分で火を炊いてエネルギーを発生する動力装置で、まともなものでは、ガスタービンのそばにもよれないでしょう。 もしあるのならとっくに飛行機に使われているはずです。 「まともなもの」という断りが入りましたが、異端的なものならあります。 ロケットはさらに強力ですし、特殊燃料を使うレース用のエンジンは多少なりとも迫るものがあるかもしれません。 しかし、これらはあっという間に寿命が尽きてしまう、いわば使い捨てエンジンです。 

左の図は25000KW、つまり33500馬力に達するエンジンの例です。 右下に人が立っていますが、大きさを比べてもいかに小型かわかるでしょう。 この出力は規定の環境での連続定格で、瞬間最大出力ではないのです。 出力を一桁間違えたのではと思う人のためにもう一度確認しておきます。 二千五百ではありません、二万五千です。 500系新幹線電車一編成よりはるかに強力なのです。 ほかのエンジンだったら大きな建物ほどの大きさが必要です。 

ジャンボジェットのエンジンがこれと同じくらいです。 ジャンボのエンジンというと大きいと思うかもしれませんが、あれは大きなダクトの中に一種のプロペラであるファンをいっしょに組み込んでいるから大きく見えるのです。 ファンを回しているエンジンはあの大きなダクトの中の芯のような小さなものです。 

 次の特徴は燃えるものなら何でも燃料になるという点です。 何でもといっても低質の重油など適さないものもありますが、基本的には液体か気体の燃料なら大丈夫です。 ジェット燃料というとすごい燃料のように聞こえますが、灯油とほぼ同じ成分です。 小型のガスタービンはこれを使いますし、軽油やガソリンはもちろん、アルコールや天然ガス、水素まで利用できます。 これらは石油がなくなっても生物資源や太陽から作れるものです。 

 騒音と振動が小さいのも長所です。 騒音は意外に思うでしょうが、高速回転しているガスタービンはディーゼルよりずっと静かで防音しやすいのです。 実際に体験できるのはジェットフォイルとディーゼル駆動の高速船を乗り比べることです。 ガスタービン船の静かさに驚くでしょう。 もちろんディーゼル船独特の振動はまったくありません。 

そのほか、エンジンを冷やすしくみが非常に単純です。 ディーゼル動車のような大げさなラジエータは不要で、ちょっとした換気扇くらいですみます。 面白いのは寒いほどエンジンの性能がよくなること。 しかも少々の寒さなら一発始動であっという間に最大出力に持っていけます。 ガソリンやディーゼルのように長いことガラガラアイドリングしたりフォーミングアップする必要もありません。 排気ガスがきれいなのも長所です。 気動車の発車というと、もうもうと白煙や黒煙を吹き上げて独特の香りが漂い、あたりに霞がかかるのが常ですが、ガスタービンではこんなことはありません。 旅客機のエンジンがもしディーゼルだったら空港の視界は利かなくなり公害問題は大変なことになるでしょう。 何しろ離陸時には十万馬力以上でふかしているわけですから。 

(3)欠点は? 一番の問題は燃料を大食いすること。 特にエンジンが怠けているときにはとんでもない大食いになります。 全力でやっているときなら下手なディーゼルより燃費がよいのもありますが、手を抜いた状態で仕事をさせるとたいへん効率が悪くなります。 1000馬力のエンジンを一時間アイドリングするだけで30kgも40kgも燃料を食ってしまいます。 おそらくディーゼルの何倍も食うのではないでしょうか。 1000馬力目いっぱいで使っていても200kgから250kgしか食わないのにアイドリングでこんなに食われては鉄道では困りもんです。 発車や急勾配を力行するときはよいのですが、低ノッチでゆっくり走るとたいへんです。 条件が悪かったらディーゼル動車の倍くらい無駄遣いするかもしれません。 

 そのほか、エンジンが高価、高速回転過ぎる(小型のものは毎分十万回転を超える!)、吸気口や煙突を広くしないといけない、ごみのないきれいな空気を吸わせないといけない、出力軸停止か超低速回転の状態でフルにするとものすごい騒音を発生する、など欠点も多くあります。 

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