なぜ再び?
地球温暖化、大気汚染が騒がれる今、省エネ時代に見捨てられたターボトレインがなぜ再び注目されるのでしょう。
(1)自動車社会の見なおし 自動車王国アメリカでは相変わらず輸送の主体は自動車。 省エネ化、クリーン化が進んだとはいえ圧倒的な数の自動車ではエネルギー消費も汚染も大変なもの。 太陽光発電の普及商用化とその電気を使用する純粋な高性能電気自動車や高性能燃料電池がもう少し先の技術である現状。 都市間の高速輸送に再び鉄道が注目され、high speed railというプロジェクトを政府が音頭をとって推進。 電化区間は特に技術的課題はないものの、電化が採算に合わない路線用に高速内燃車の開発が必要となってきました。 目標とする速度は250km/h以上。 ディーゼルではちょっと苦しく、排気ガスの問題もあって高効率のガスタービン車の開発へと進みました。
(2)第3次高速鉄道ブーム? 高速鉄道の火付け役となった新幹線成功のころを第1次、フランスTGVの高速化に刺激され各国が再び高速鉄道に注目し高速電気運転の実用化が普及したのを第2次とすると、今は第3次高速鉄道ブームとでもいった時期でしょうか。
第2次はヨーロッパ、日本を主体とし、電気車のみで高速化が達成されました。 しかし、第3次ではアメリカやオーストラリアなど広大な国土を持つ国が参加するようになり、電化に伴う地上設備が経費的に困難な状況になってきたのです。 オーストラリアにいたっては距離的にも人口密度面でも採算性面で現実味は薄いものの、DarwinからMelbourneまでの4000kmに及ぶ夢物語のような途方もない高速鉄道計画が議論され、300km/hの高速旅客列車と200km/hの高速貨物列車をガスタービン機関車で牽引する案まで出ています。 現在、高速鉄道として計画されているほとんどの線区が150mph〜200mph、つまり240km/h〜320km/hの速度を要求しており、電気運転以外、ガスタービンしかこの要求にこたえることはできない状況となっているのです。
もしこれらが成功すると、中国、インド、ロシアといった従来高速鉄道とあまり縁のなかった国まで興味を示すようになるかもしれません。 国土が広いほど電化が現実的でない以上、ますます高速内燃列車の必要性が高まるでしょう。
(3)技術革新 列車用動力としてのガスタービンの致命的な欠点は部分負荷での効率の低下。 大半が部分負荷で運転される列車ではトータルのエネルギー効率がたいへん悪くなります。 しかし、ここに革新的な技術が実用段階を迎えました。 それはエネルギー回生と超小型軽量発電機です。
迫り来る技術革新
高速回転のガスタービンと高周波交流発電機、そしてフライホイールエネルギー貯蔵装置の融合が新世代ターボトレインを実現しようとしています。
トヨタのプリウスのような方法もガソリンエンジンやディーゼルとの組み合わせの場合優れた方法ですが、市内で排気ガスをまったく出さない(ゼロエミッション)ことを要求されているアメリカの規制ではより積極的に電気動力を主体とした車が必要です。 そこで電気モーターだけで駆動され、エンジンは発電専用とし、電気が十分なときはエンジンは完全に停止できる必要があります。 以前は発電セットと化学2次電池、走行用モーターまでそろえると大きく重くなり充放電の損失も大きく満足な性能が出ませんでした。
しかし、エレクトロニクスの進歩は大電力の周波数と電圧を自在に制御可能としました、小型軽量の高速回転誘導(同期)電動機を車両用として利用できるようにしてしまったのです。 そしてフライホイールの実用化。 これは化学電池なみかそれ以上にエネルギー密度が高く、大電力の貯蔵、急速放電が得意で高効率、長寿命という優れものです。
後は超小型の発電装置が必要。 発電機は回転数が高いほど小型にできます。 普通の発電機では商用電源との関係で3600回転/分、ディーゼル発電機はエンジン常用回転数の関係で1800回転/分で、結構大型になります。 ここで注目されたのがガスタービンの高速回転。 毎分数万回転はざら。 小型なら十万回転以上。 この回転数で交流発電機を回すと通常の発電機と比べると非常に小型になります。 ガスタービンの出力軸に直結された高速発電セットはディーゼル発電セットの数分の一から十分の一の大きさ、重さとなってしまいます。 これならハイブリッドにしても重量的な不利は少なく、純粋な化学電池式電気自動車と比べると非常に強力になります。 アメリカではこの方式によるハイブリッド車の高性能をアピールするため、試作車はなんと最大出力1300馬力、320km/hのスピードが出るレーシングマシンとして登場しました。
化学2次電池では完全な充放電を繰り返せるのは実用上、数百回しかありません。 車両用を考えると、制動毎に充電され、加速ごとに放電されるわけです。 部分的にしろ充放電頻度は大変なものになります。 これでは維持コストも馬鹿にならず、厄介な廃棄物が大量に出ますから環境汚染も危惧されます。 フライホイールで寿命が問題となるのは基本的にベアリング部分しかありません。 そのため磨耗のない超伝導ベアリングまで研究されています。
貯蔵できるエネルギーは回転する円盤の重さと半径および回転数の2乗に比例します。 半径1.2m、重さ2トンほどの円盤を毎分一万回転にしておくと、6分間4000馬力程度の力を取り出せることになります。 2000馬力でよければ12分間持ちます。 これは恐るべき量で、リチウムイオン電池でも短時間にこれだけの出力を取り出せるものはありません。
フライホイールの効率はほとんど発電機兼加速用電動機の効率で決まります。 これらは95%を超えますので、蓄電装置としての効率は85%〜95%に達します。 これは化学2次電池の70%前後を大きく越えています。
現在電気自動車が期待されていますが、意外と蓄電池の効率についての議論が出ません。 電気が太陽エネルギーから得られたものなら多少効率が悪くても問題ありませんが、現在のように火力発電や原子力発電から得た電気を使う場合は問題です。 せっかくの電気を30%も捨ててしまうのです。 火力発電の効率が60%に迫りつつあるとはいえ、その70%も有効利用できないとなると高効率ディーゼルやガスタービンのハイブリッド自動車に対する化学2次電池式電気自動車の優位性が薄れてしまいます。 化学2次電池式電気自動車が優位に立つには太陽エネルギー発電との組み合わせが不可欠なのです。
欠点は効率を上げるために摩擦の少ない耐久性のある軸受けが必要な点や真空を保つ面と、事故などで破損したとき高速回転する円盤が飛び出さないように、しっかりしたケースに収めないと行けない点、ジャイロ効果によって方向転換に余分な力が生じる場合がある点などです。
小型のガスタービンを効率のよい最大出力状態で回してせっせと電気を作らせ、仕事に使った余分な電気はフライホイールにため、タービン発電機の力を超えるような電力が必要なときは必要に応じて一気にフライホイールから取り出す、電気があまればガスタービンは停止して効率の悪い部分負荷状態をゼロにするというシステムが浮かびます。 そうです、ガスタービンを苦手なだらだら運転、つまり部分負荷から開放し、電気モーターの得意な短時間大出力を利用した電気式の車両を作れば、ちょうど架線から必要時に存分に電力の供給を受け、強力なパワーを発揮している電気車と同じ振る舞いを内燃車もできることになります。 8000馬力必要な列車に3000〜4000馬力の発電セットをつんで、加速や勾配登坂時に不足する部分をフライホイールから取り出せるようになるのです。 ちょうど最近の在来線用高性能電車が定格の2倍くらいの性能を発揮して走っているようなことを気動車でもできるようになるのです。 フライホイールまで積むと車両が重くなりすぎないか? おそらくフライホイール搭載による重量増加は発電セットの小出力化、小型化で帳消しになるはずです。