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マドンナに花束を 1







 新学期、新入生の誰しもが新しい生活に不安と期待を抱いているだろう。ここスモルニイ学園も新たなスタートをきっていた。
 スモルニイ学園は幼等部から大学までの一貫教育を施す全寮制のマンモス学園で、ごく少数の生徒を覗けば殆どが幼等部もしくは初等部からの持ち上がりだ。自由な校風にあこがれて中等部や高等部から入学する者は、入学式の日からそのオリジナリティあふれる学園生活に驚く。
 本日入学したオスカーも、高等部からの入学生の一人だった。




「そこの色男。確かオスカーって言ったっけ?」
「ああ、確かに俺の名前はオスカーだが・・・・・」
 入学式兼始業式も無事に終わり昼休みになった途端、逃げる様に校舎から離れた林の中で昼寝をしていたオスカーだった。いきなり声をかけられて不機嫌そうに相手を見ると、見覚えのある顔が自分を覗き込んでいた。
「私は同じクラスのオリヴィエ。持ち上がり組だよ。」
「知ってるさ。で、俺に何か用か?」
「別に、外から来たのに全然馴染んでるから興味が沸いただけ。他の新入生を見てみなよ、皆萎縮しちゃって見てられないよねえ・・・」
「あいにくと俺は俺なんでな。そっちこそ持ち上がり集団の中でも浮きまくってる気がするが?」
「個性派と言って欲しいね。これが私のスタイルなんだ。」
「誰も真似はしたくないんじゃないか?」
「あはは!その分目立って結構じゃないか!」
 どうやらこのオリヴィエという男は根っからの派手好き目立ちたがりやらしい。髪を染めて化粧までしているのに注意されないというこの学園もすごいな、とオスカーは内心で呟く。
   だがオスカーは彼が嫌いでは無かった。ほとんど初対面だというのに、自分とこんなに自然に話が出来る奴はめずらしいからだ。大概は遠巻きに眺めるか、敬遠するかのどちらかである。それ程にオスカーは目立つ。容姿は群を抜いていたし、何よりも彼の持つ雰囲気が普通ではない。今日は朝から、彼を人目見た女生徒達が遠くでキャーキャー騒いでいるのを嫌と言うほど眺めた気がする。
  「クラスの女の子達はともかく中等部の子達が凄かったよ。噂のオスカー先輩を是非見ようと高等部の校舎の外にたむろってたけど、肝心のアンタがいないんじゃあしょうがない。」
「まあ、可愛いお嬢ちゃん達に騒がれるのは嫌いじゃないけどな。」
「あんた程の色男だったら仕方がないか。」
「その色男ってのは何だ・・・」
 そのまんまじゃないかとケタケタ笑うオリヴィエに、オスカーも思わず笑ってしまう。 オリヴィエとは良い友達になれそうだった。




 一貫教育の特性とでも言うのだろうか、授業そのものは他校とはカリキュラムが違う。それ故に外部からの入学生のほうが成績が良いことが多々あるが、この学園に関してはそういうこともないらしい。自由な校風のせいで逆に自主的な競争が促されているのだろう、オスカーは授業初日から勉学に勤しむ羽目になった。
 別に彼の出来が悪いわけでは全くないのだが、やはり最初の学期は追いつくのに時間がかかるかもしれない。だが入試の結果を知っている担任は、素直に君なら問題ないだろうとお墨付きをくれた。
「しかし・・・・随分と進度が早いんだな。まるで進学校じゃないか。」
 ぶつぶつと言いながらオスカーは図書館へと向かっていた。二人部屋の寮の彼の自室には数の関係でルームメイトが存在しないので、オスカーは一人きりで勉強できるのだが、やはり静かな場所と言えば図書館しかない。新学期の寮なんて、騒がしいことこのうえないのだ。
「ここか。流石に立派だな・・・・・。」
 図書館は校舎からは離れた4階建ての建物だ。初等部から高等部までの生徒が使うのだらか当たり前だが、オスカーが通っていた中学とのあまりの差に彼は少し驚いていた。
 入り口のホールでスタディルームの場所を聞き、言われた通りに4階へのエレベーターを使う。4階につくと、流石に新学期の初日からここに詰める生徒はいないのか、オスカー以外の人影は見えなかったので、自分の好きな机を陣取ることができた。
「まずは数学か・・・・あの先生、わかりやすいから助かった・・・」
 夕食が始まる時間までの数時間、この間に明日までの予習を全て終わらせなければならないので、とりあえず集中してみることにした。


 だいぶ長い間教科書とにらめっこしていたが、結局だれ一人として入っては来なかった。やはり邪魔が入らないとはかどるのか、今日のノルマは一応果たしただろう。自然オスカーに笑みがもれる。
「この分で行けば問題無いだろう。流石にこんな事を年中やってられないぞ俺だって。」
 持っていたペンを投げ出して、大きく伸びをする。
 まわりを窓に囲まれた清潔な室内はとても居心地が良かった。
「ん?」
 ふと視線を向けた先に何かが動くのが見える。生徒なのだろうか、何冊も本を持っている様子だが動きが不安定だ。
 訝しく思ったオスカーは、席を離れてその人物のほうへと歩いていったが、少しの差で彼は間に合わなかった。
 ドサドサっと音がして、その人が持っていた本が全て床に散らばる。しゃがみ込んでいるその人に近づいてみると中等部のバッジが見えたので、オスカーは声を掛けた。
「大丈夫か?そんなに持ったら重くてまともに歩けないだろう・・・・」
「あ、すみません。」
「あ・・・いや・・・・・」
 仕方ないなあという思いで声を掛けたオスカーは、その相手が顔をあげて自分を見た一瞬後には呆然とする羽目になった。しばらく惚けていた彼を、相手は不思議そうに見上げてくる。
「あの、どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない。君は中等部の生徒だよな?図書委員なのか?」
 少々慌てた様にオスカーは相手から視線をはずし、とりあえず質問を浴びせかける。
「私は、中等部三年のリュミエールと申します。初等部の頃からずっと図書委員なのです。」
「俺は高等部一年のオスカーだ。この学園に入学したばかりなんで、今日は真面目に勉強していたんだ。」
 馬鹿丁寧なリュミエールの口調に面くらいながらも、オスカーはにこやかな笑顔を向けた。
「それでは邪魔してしまったのですね私は。申し訳ありませんでした。」
「邪魔なんてされてないさ。もう帰ろうかと思っていたところだったからな。気にしないでくれ・・・・・えっと・・・リュミエールと呼んでも良いか?」
「はい、オスカー先輩。」
「呼び捨てでいいぞ、先輩なんて呼ばれるのは柄じゃないからな。」
「でも、先輩ですから。」
 にっこりと笑顔を向けるリュミエールに、オスカーはいつになく心臓が高鳴るを感じる。
「これはどこに運ぶんだ?ついでだから手伝うよ。良かったら夕食を一緒にしないか?」
「・・・本はそちらの書庫ですが・・・お夕食を私などがご一緒させていただいて宜しいのですか?」
「良いも何も、俺はまだ友達も少ないし、学年に関係なく君と友人になれたら嬉しいんだが・・・・」
 リュミエールはオスカーの言葉に少し驚いた様な表情をしていたが、しばらくすると嬉しそうに頷いた。
 その返事に満足したオスカーは、リュミエールが取り落とした本を全て拾い上げる。そして申し訳なさそうな彼をなだめつつ、一緒に書庫へと向かった。
 後でよくよく考えるとまるでナンパのようなシチュエーションだったのだが、この時のオスカーは思い切り舞い上がっていた。



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