マドンナに花束を 2
中等部と高等部の寮は同じ場所にあるため、当然ながらカフェテリアも同じところにある。入れ違いに食事に来るとはいえ、男子と女子の生徒数を考えるとものすごい混雑が予想されるのだが、初日からオスカーは比較的すんなりと席を確保することができていた。
なんにせよ、その夜オスカーとリュミエールは、一緒に夕飯を食べるという約束を果たしたのだった。
「見ちゃったよ・・・・・」
「何を」
「あんたがあのリュミエールと食事をしてるのをだよ。」
「何か問題があるのか?」
リュミエールとの楽しい夕食の後に、オスカーは自室に戻っていた。
すぐさま部屋へとあらわれた迫力ある化粧のままのオリヴィエに詰め寄られても、とりあえずオスカーは平然と返した。彼が何を言いたいのかはわかっている。自分だって後から、すごい事をしたのかもしれないと本気で思ったくらいなのだから。
「明日から上級生にも睨まれるの覚悟しなよオスカー。」
「上級生?」
「・・・・いずれわかるよ・・・・」
入学したばかりで学園の人間関係に全く詳しくないオスカーには後でゆっくり説明しないといけないな、とオリヴィエはため息をつく。
ただでさえ縦の関係が厳しいこの学園で、よりによってあのリュミエールに手を出すとは。
「ちょっとまてオリヴィエ。あいつは男なんだから、手を出すっていうのは不適切じゃないのか?」
「あんたリュミエールと初めて会った時に、何も下心が無かったとでも?」
「うっ・・・・」
そう。何も無いわけがない。
図書館で初めて彼を見た時、普段から言い寄られる側のせいで相手の事をあまり気にしないオスカーが、逆に動きを止めてしまう羽目になったのだ。
オスカーでなくともそうなるとは思うのだが、自分を見上げてきたリュミエールは、奇跡としか言いようがない程の容貌の持ち主だった。美人という言葉を当てはめるには清楚すぎる。かと言って綺麗という言葉はあまりにも俗物的に思えた。
ともかく、これだけははっきりしている。
ずばりリュミエールはオスカーの好みだった。
「一体どうやって知り合いになったのさ・・・・」
「あいつ図書委員だろ?たまたま図書館で出くわしたんだが、大変そうだったからちょっと手伝っただけだ。俺はまだここに来たばかりで友人が少ないから、是非とも友達になりたいとは言ったけどな。嬉しそうに笑ってたから別に悪いことはしてないぞ。」
「それってナンパじゃないのかな?」
「男だろうが女だろうが、お近づきになりたいと思えばそうするさ俺は。」
「・・・まあ、確かにね。だけどね、リュミエールを泣かせることだけはしないほうが良いよ。学園にいられなくなるかもしれないからね。」
今度ばかりはオスカーも素直にうなずいた。
リュミエールと食事をしている最中、まわりの視線が痛かったのも事実だが、遠巻きに見ていたクラスメート達が誰ひとりとして話しかけてこなかったのだ。理由はわからないが、オスカーにわかったのは、彼と一緒に食事をしているというその行動が驚きの対象なのだということだけだ。
今夜はオリヴィエに、詳しく話しをきかないといけないかもしれない、とオスカーはため息をついた。
同じ頃、リュミエールは大学部の寮の一室にいた。
初等部から高等部までは全寮制だが、大学部は希望者だけに限られている。そのために大学部の寮は規模は小さいが、設備も良くなかなかに静かで居心地の良いところだ。
「それで、お前はその男が気に入ったというのか?」
リュミエールは部屋に備えられているソファに座っている。こういうのは大学部の寮にしか置けない代物だった。
「はい。中等部の間では入学式の日から噂になっていたのですよ彼は。顔が良くて、喧嘩も強いし、おまけに大変頭も良い。入学試験ではトップだったのだそうです。」
「それは優秀なのだな。」
「はい。」
リュミエールは嬉しそうに笑っている。彼と話をしているこの部屋の主は、長い黒髪の男だった。名をクラヴィスという。何を隠そう、彼はリュミエールの異母兄だったりするのだが、リュミエールは非常に彼に良く懐いていた。
兄が弟を溺愛しているのか、弟が兄離れしていないのかは誰にもわからないが、リュミエールは食事も兄と一緒に大学部の寮でとっている。オスカーと一緒に中高等部のカフェテリアで食事をしていた時に皆が驚いていたのはその為だった。
「お前にしては珍しいことだが、悪いことではない。」
「オスカー先輩は本当に楽しい方ですよ。お兄様もお話になればきっとそう思われます。今日は、先輩の通っていた中学校のお話などを聞かせていただきました。」
「そうか。」
クラヴィスは一見たいした感慨もなさそうにリュミエールの話をきいていたが、この弟がこれほど楽しそうに誰かの話をするのは珍しいせいか彼の口元に僅かな笑みが浮かんでいる。
「で、今夜はどうするのだ?」
「こちらに泊まって行きます。よろしいでしょう?」
「ああ・・・・」
リュミエールがここに泊まっていくのはほとんど習慣なので別段不思議なことではない。今夜もいつもと同じように二人で話をして、早々にベッドに入るのだった。
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