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マドンナに花束を 5







 オスカーが思いも寄らぬ人物に歓迎をうけたのは、一学期の中間考査も終わった放課後だ。
 オスカーとリュミエールは相変わらず適度にコミュニケーションをとりながら、なかなかにその間を縮めている。それに比例して加えられるリュミエールに対する陰湿ないじめもエスカレートしていた。
 リュミエールが全くそんなそぶりを見せないのと、学年も校舎も違うおかげで、まるきりオスカーが事実に気づく様子はなかった。
 この日までは。



「あ・・・あの・・・」
「・・・・・何か用か?」
「いえっ・・・全然・・・・・」
 いつものように図書館の学習エリアに向かったオスカーが、ばったりと出くわしたのは、リュミエールの兄であるクラヴィスだった。
 何故この人がここにいるのだろう、というオスカーの困惑はそのまま表情に出てしまっているらしい。彼らしくもなく慌ててしまっている。
 そして、出来ることならこのまま平和に去りたいというオスカーの思惑は、クラヴィスの一言で消し去られてしまった。
「・・・確かお前は・・・」
「はっ、はい。高等部一年のオスカーです。あのっ、弟さんにはお世話になっています。」
 こうなったら兄に良い印象を持ってもらうしか道は無い。
「知っている。」
「そ、そうですか・・・」
 気怠そうなクラヴィスに、オスカーは彼の意図がよくわからず困惑したままだった。クラヴィスがここに来るのは、自分に用があって以外にあり得ない。階下ならともかくだ。
「オスカー・・・と言ったな・・・。お前はリュミエールを何だと思っている?」
「え?」
 いきなりの質問に何のことか一瞬戸惑う。
「リュミエールは・・・良い友達です。学年は違いますが、一緒にいてとても楽しいし。」
「良い友達・・・か。お前はリュミエールがその友達とやらと一緒にいる事によって、いわれのない嫌がらせを受けているのを承知しているのか?」
「え・・・?」
 初耳だ。
 オスカーの顔に思い切り出ていたのだろう、クラヴィスは口元を僅かに歪めた。
「その様な浮ついた人間に、あれに近づいて貰いたくはない。あれはお前とは違う。」
「いやがらせとは一体何のことですか!?」
 オスカーはクラヴィスに詰め寄ったが、言うべき事は言い終えたとばかりに彼は黙って立ち去ろうとした。
「クラヴィス先輩、俺のせいでリュミエールに何かするなどという奴は、俺が見つけだしてはり倒します。」
「・・・・・・・・」
 クラヴィスは一瞬だけオスカーの方を見たが、やはり何も言わずに静かに立ち去ってしまった。
 後に残されたオスカーは、クラヴィスの言葉に唖然としたまましばらく立ちつくしていた。

 リュミエールが嫌がらせを受けている?
 しかも自分が原因で・・・・。
 そして俺は全く気が付かなかった。

 自分と親しくする事によって彼にいやがらせをしなければならないというのは、一体どういうことだろう。オスカーは必死で考える。
「オリヴィエなら・・・」
 彼は学園内の様子にとても詳しい。きっと何かわかるかもしれない。
 そう思った途端、オスカーはオリヴィエを探しにその場を急いで立ち去ったのだった。



「ああ、それならきっと中等部の女子じゃないかな。」
 彼を見つけた途端に真剣な顔で詰め寄ったオスカーに対して、オリヴィエはあっさりとそう言った。 
「女子・・・?ちょっと待て、リュミエールは男だぞ。何で女子に嫌がらせを受けるんだ?」
「あのねえ、あんた自分がものすごく極端にリュミエールに近づいてるのを分かってる?あわよくばオスカー先輩と親しくなりたい彼女たちにとって、リュミエールはものすごく邪魔なわけ。」
「だからって嫌がらせしなくても、俺に直接言えばいいじゃないか。」
「・・・・・毎日リュミエールに会う為にがんばってるオスカー君にどうやってアタックするのさ。」
「うっ・・・」
 オリヴィエの厳しい一言は、オスカーにぐさっと刺さる。
「しかし、あのクラヴィスがねえ・・・・流石に溺愛しているリュミエールの事となると黙っていられなかったか。」
「怖かったぞものすごく・・・」
「ほんっとに珍しいんだけどね、あの人が自分から動くのは。会話だって滅多なことじゃ成立しないし。」
 その滅多に話さない人物と思い切り怖い会話を交わしてしまったからには、どうにかしなければならないだろう。
「その中等部の女子ってのを片づければいいんだよな。」
「そんなに簡単に行くのかねえ・・・」
「下手に刺激するより、適当に仲良くしておいたら良いと思うが?」
「だから色男って言われるんだよあんたって。」
 五月蠅いとばかりにオリヴィエを睨み付けるが、嘘ではないので反論は出来ない。リュミエールがいなければ、中学校の時のように手当たり次第だったかもしれないのだ。個人的に、女性というものは区別なく好きだったりする。
「悪いが、即実行に移させて貰うからな。お前、俺の代わりに図書館に行って、今日は遅くなるってあいつに伝えてくれるか?」
「それは良いけど・・・」
 どことなく不信そうなオリヴィエの視線を無視して、オスカーはさっさと中等部の校舎へと足を向ける。
 オリヴィエもため息をつきつつ、言われた通りに行きたくもない図書館へと向かうのだった。



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