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オレの一日







12月21日。
聖地で時間もへったくれも無いもんだが、今日は俺の誕生日だ。朝からひっきりなしにお嬢ちゃん達がプレゼントと言って、イロイロ持ってきてくれる。
しかし、まったく俺ってば罪なオトコだぜ....とか言っている場合じゃない。
恐ろしいことに、本命も本命、愛しの水の守護聖殿が全く顔を出してくれないのだ。
いつもなら、この時間は執務室で何かしら仕事をしているはずだった。なのに今日に限ってどこにも見当たらない。
いちおう表面上は普段と変わらない様に、だがしかし内面は苛立ちを押さえながら廊下を勢い良く歩く。
しかし、あっさりと、何かを一生懸命探しているような俺を見た通りすがりのオリヴィエが、痛恨の一撃を食らわせてくれた。
「誕生日だっていうのに、景気悪い顔してるわねえ。あんたリュミちゃん探してるんでしょー?」
「........」
「.....クラヴィスとデート中だったの見ちゃったんだけどねえ。」
「...クラヴィス様と何だって...?」
「まあ、がんばんなよっ」
楽しそうに笑いながら、オリヴィエはさっさと立ち去った。



心臓がバクバクいってる気がする。
俺は一生懸命落ち着こうとした。リュミエールがクラヴィス様と一緒にいるのは、別段不思議な事ではない。時々ハープを持って執務室へと行っているし、通りすがりに話をしていくことだってよくある事だし。 そんな事を考えているうちに、自然と俺の足は庭園のほうへ向かっていた。何故そんなトコロかと言うと、リュミエールは庭園にいることが多いからだ。
そして、それは大当たりだった。
「.....クラヴィス様....あの....」
リュミエールの声だ。何だかわからんが、出て行くのが憚られて、俺はつい隠れてしまった。
「それではオスカーに申し訳ないという気がするのです.....」
お、俺か?何かしたか、というか何かされたか俺?
「....まったくそなたは....」
クラヴィス様がリュミエールの頬に手をあてるのを見て、危うく俺は声をあげそうになった。
クラヴィス様は普段俺がみたことが無い様な優しそうな雰囲気でもって、リュミエールを見つめている。当のリュミエールといえば、少し照れた様子が俺からもわかる。
なんだか、個人的に、この展開は全然嬉しくない。
結局、俺はそのままその場を立ち去ってしまった。あんなシーンを見てしまっては、俺も何やら引き下がる他に無いだろう。
途中ランディに何か話し掛けられた気がするがよく覚えていない。俺はそのまま自分の執務室へと戻り、散らばっていた書類を手にした。


夕方、手元の書類がようやくなくなった頃、俺の執務室のドアが静かにノックされた。
「どうぞ。」
「...オスカー?今よろしいですか?」
先程から頭を離れない愛しいその人が生で現れたので、俺はちょっとばかりうろたえた。
「なんだ、リュミエール。何か用か?」
とりあえず、クールに振る舞ってみる。
冷たい態度に、リュミエールは少し悲しそうな顔をしている。俺ははっきり言って....弱いんだソレには。
「お忙しいのでしたら、また後程参りますが....」
「いや、今終わったんで帰ろうとしていたところだ。」
「そうでしたか。では、よろしければ御一緒にお夕食でもいかがでしょうか?」
にっこりと、問答無用な聖母の微笑みを湛えてリュミエールは嬉しそうに言った。これを断るバカがいたら、そいつの顔を拝んでみたいもんだ.....。



リュミエールは最初からそのつもりだったらしい。俺は数十分後には彼の私邸で、大人しく椅子に座っていた。リュミエールは常に使用人を夕方で返してしまうので、今はここに俺達二人っきりだ。 ここでツッコミを入れる必要はないだろう。間違いなく据膳ってやつだ。
しかし、俺の頭に昼間の光景が浮かぶ。リュミエールの奴、クラヴィス様と何を話していたんだ。
あの時の、彼の照れた表情が思い出されて仕方が無い。
「今日はずっと見なかったな。仕事が暇で、散歩でもしていたのか?」
「え?あ、はい...その様なものです....」
何故そこで赤くなるっ!?
リュミエールは、俺から目をそらしながらほんのりと頬を赤く染めていた。
「オスカーは...今日はお誕生日ですし、皆様からいろいろと戴いたのでしょうね?」
「勿論だ。可愛いお嬢ちゃん達が朝からひっきりなしさ。」
お嬢ちゃん達の他に、マルセルやランディ達もいたのだが、んなことはどうだって良い。
「...どっかの誰かさんは、仕事中に楽しくお散歩してたけどな...」
少しトゲがあるセリフだが、リュミエールはそれ程気にした風でもなかった。俺が拗ねてるのがわからんのかっ、と内心で憤っても仕方が無い。
「オスカー、皆様と同じように、わたくしも何かお祝いの品を差し上げるべきでしたか?」
「あ?」
ルヴァ程ではないにしろ、リュミエールも時々わけのわからない事を口にする。誕生日にお祝いをするのは当たり前ではないのだろうか....ましてや、恋人同士であれば尚更だ。
「そりゃ....」
俺は何も言えなかった。リュミエールの表情がものすごく暗かったからだ。俺は自分が何か悪い事を言っただろうかと必死で考えた。
「.....わたくしの他にも、欲しいものがおありになるのですね。わたくしは貴方以上に欲しい物など無いのに....」
先程よりも更に暗い顔で、リュミエールは俯いてしまった。
「えっ....?」
「私は必要ないのですね....」
ちょっと待て。
「リュミエール!俺はそんな事は言ってないぞ」
俺は焦るままに、俯くリュミエールを抱き寄せた。憂い顔もまた美しい、とか思ってる場合じゃない。
「俺はお前以上に欲しいものなんか無いっ!」 必死に弁解する俺を、リュミエールは潤んだ瞳で見上げる。
「.....本当ですか?」
「お前以外に惹かれたりするものか。俺が悪かったよ....」
「オスカー....」
なんだか今日のリュミエールはいつもよりもずっと色っぽい気がする。というか、可愛いという表現をすべきだろうか。
「愛してるリュミエール.....」
そして、今日のキスは更に甘かった。
リュミエールの身体がこれからの長い夜を思って震える。俺は今日の事なんかすっかり忘れて、彼に溺れていった。
とりあえず、これ以上はお嬢ちゃん達には見せられないぜ。ははは。




「.....上手くいった様だな.....」
今日も庭園ではクラヴィスとリュミエールが穏やかな午後を楽しんでいた。
「あの、でも、とてもおっしゃる通りにはいきませんでしたけれど.....つじつまの合わない事を言ってオスカーを困らせた気がします。」
「その様なこと、あれは気にはしていまい?」
「...そうですね。」
クラヴィスは、ふっと笑うとリュミエールの柔らかな髪に触れる。それは恋人というよりも、むしろ父親の様な仕種だった。
「あの様な性格の者には、多少我が侭を言った方が良いだろう。上手くやる事だ....」
「わかりましたクラヴィス様。わたくし、精進いたします。」
どこかズレたリュミエールにも、クラヴィスは常と変わらない静かな表情で肯いた。



とりあえず、今日も聖地は平和だ。



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