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難破船 1







穏やかな朝日を浴びながら、その日の彼の心は沈みきっていた。

昨夜全く眠れなかったリュミエールは、青白い顔のまま手元の本を見つめた。行き先の無いため息が、彼の部屋にそのまま留まる。

「オスカー....わたくしは...」

呟きが静かにもれる。

今日は日の曜日ではない。したがって、彼は仕事がある。リュミエールは頭を冷ますため、シャワーを浴びに立ち上がった。




「おはよう御座いますリュミエール様っ」

一番にリュミエールを見つけて元気良く挨拶をしてきたのはマルセルだった。いかにも嬉しそうなマルセルに、思わず笑みがもれる。

「おはよう御座います。今日もお元気ですねマルセル。」

「はいっ。あれ、でも、リュミエール様は少し顔色が悪いですね。お身体の具合でも悪いんですか...?」

あっと言う間に、マルセルが心配そうな表情になる。

「昨夜は本を読んでいて、少し夜更かしをしてしまったのです。寝不足なのでしょう。わたくしは元気ですから、大丈夫ですよ。」

リュミエールはいつもの様に優しい綺麗な微笑みを浮かべた。彼だけが持つ必殺技を使われると、マルセルはいつも幸せな気分になってしまう。
すっかり安心したマルセルは、それでも彼に今夜はきちんと寝るようにと念をおして立ち去った。

「....いけませんね、マルセルに心配をかけてしまう様では。」

軽く頭をふって、リュミエールは自分の執務室へと向かった。





水の中を揺らめいている様な感覚の狭間で、リュミエールは自分の意識が急激に浮上するのを感じた。それは決して不快なものではない。

温かな何かが、触れる。

「.....オスカー....?」

どこか掠れた自分の声。リュミエールは自分が知らないうちに眠ってしまっていた事に気がつく。書類を片づけながら寝てしまったらしい。

「お目覚めかお姫様。仕事中に昼寝とは、お前らしくないな。」

オスカーの声ではっきり目が覚めたリュミエールは、自分がオスカーの腕の中にいることにようやく気がついた。どうやら、机につっぷしていたであろう彼を椅子まで運んだ上、そのまま一緒にいたらしい。
慌てて起き上がるリュミエールに、、オスカーは少しばかり残念そうな表情をする。

「すみませんでした。ついうたたねを...。何か御用だったのではないですかオスカー?」

「用が無いと入れては貰えないのか?今日はいささか暇だったから、何か手伝える事でもあればと思って来たんだが.....」

そう言いながらオスカーは、顔色の悪いリュミエールの頬に手をあてる。その手の温もりが心地よいのか、リュミエールは瞼を閉じて身体の力を抜いた。

「....おい?...リュミエール?」

しばらくして、反応が全く無いのをいぶかしんだオスカーは、彼の顔を覗き込む。彼は静かに寝息を立てていた。

「何か不安な事でもあるのかお前は......?」

オスカーは、穏やかに眠るその人の美しい髪を愛しげに梳きながら呟いた。




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