ARK番外: 春の双璧 1
偉大なるアルクスライヒにもこの上ない春が来る。
その日、国中が若い夫婦を祝福していた。
皇女アンネローゼとジークフリート大公家の長男ジークフリートの結婚の儀が今日行われるからだ。
ジークフリート大公と皇太子ラインハルトの二人は子供の頃から親しく、いずれ姉アンネローゼが大公妃になることは皆が予測していたことだが、改めて喜びに沸いていた。
この結婚を期に、ジークフリート大公はキルヒアイス大公家を持つことになる。
アルクスライヒの大公家は代々長男の名に親の姓をつける。キルヒアイスは長男である彼に与えられた新たな姓だ。子供の頃、ラインハルトはジークフリートという名をありふれていてつまらないと言い、それ以来ずっと彼はラインハルトからキルヒアイスと呼ばれ続けていた。
「おめでとうございますキルヒアイス大公様、アンネローゼ様。」
「この様な麗しいお二人が王家にいらっしゃって、この国がますます栄えることと存じますよ。」
口々に賞賛を述べる側近達に、ラインハルトは満足そうな笑みを向けながら頷く。
当の二人は隣で少しばかり恥ずかしそうに俯いていた。
「その様に仰々しくすると姉上が困るではないか。あくまでも儀礼上のことだ、今日は気軽に楽しんで行って貰いたい。」
ラインハルトはそう言うと、今日の主役二人を連れて立ち去った。これから仕度やら何やらで忙しいのだろう。
残された皆は、国家の最大のイベントの一つが今夜行われることに落ち着かない様子だった。
アルクスライヒの誇る二人の若き使い手は、喜びに溢れる城の一室で何やら険しい表情で論議をかましていた。
室外は召使いやら何やらとにかく皆が忙しく働いていて喧しいくらいだが、ロイエンタールとミッターマイヤーは気にもせずに部屋の隅っこで眉根を寄せている。
「・・・・それでは無理だろう。」
「良いと思ったんだけどなあ。」
「長老はいったい何を考えてるのか・・・・」
「本当だなまったく!」
げんなりとしたミッターマイヤーに、ロイエンタールも頷く。
「メテオでドカンと行ったらどうかな?」
「俺を黒コゲにするつもりか?」
冗談だよと言いながらミッターマイヤーは相棒の冷たい視線に苦笑いした。
「くそっ!何としてもエヴァと結婚するぞ俺はっ!!!!」
「・・・・・・・」
皇女と大公の婚儀が決定する少し前、ミッターマイヤーと彼の幼なじみであるエヴァは婚約した。
だが、公式に神殿に所属する人間は全て、神殿から許可を貰わないと正式に結婚が出来なかった。ミッターマイヤーも例に洩れず長老に許可を求めたが、何を思ったか長老が厳しい試験を言い渡してくれたのだった。
試験の課題とは。
とりあえず持てるだけの魔法を得たロイエンタールとは違い、ミッターマイヤーはまだお友達になっていない召喚獣がいた。長老が出した課題は至極シンプルである。彼がその召喚獣と見事仲良くなれたら、正式に許可を出そうと言うのだ。
ミッターマイヤーが長い間それを手に入れようとする度に軽くあしらわれていることを勿論知った上でだが、本人にとっては人生の一大事であった。
「それで何故俺がこうして手伝わなければならない?」
思わずロイエンタールがしかめっつらで言ったのを聞いていたのは神殿の壁だけだっただろう。
「・・・おとなしくお願いするしかないだろうな。」
「それが出来れば苦労はしないぞ。」
普通に召喚しようとしても顔すら出さない。
強制的に召喚しようとすれば怒って水を浴びせてきた。
いっそ他の魔法であぶり出そうかとまで思ったが、そんなことをしたら一生手に入らないだろうとロイエンタールに宥められてやめた。
相性が悪いのかと思えばそうでもないらしい。
ミッターマイヤーが最後まで手こずっている相手は、白系召喚魔法の中では最悪に扱いづらいものだ。
四大エレメンツの全ての力を持つという精霊獣シルフ。
ロイエンタール曰く、ミッターマイヤーは女の扱いが下手だった。
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