*HOME* ROSMARIN TOP* TROOPERS NOVELS*

毛利伸くんの'99お誕生日記念







3月12日。仕事で忙しい伸と遼だったが、この日は伸のマンションで夕食を食べていた。14日の夜には柳生邸でささやかなバースデーパーティを皆でする予定である。伸もうれしそうだった。

元凶は昨日遼が夕食後に見ていた雑誌だった。
伸がなにげなく覗いたそのページには、なんとも可愛らしい黄色の物体の写真があったのだ。どう見てもそれは目覚し時計だったが、とにかくも伸のツボをついたらしい。
「へえ...可愛いねコレ。僕も欲しいなあ.....」
遼はその言葉を聴いた途端に、ひとつの決心をした。
明後日は伸の誕生日だ。プレゼントはこれしかない。それが伸を除くトルーパー達の悪夢の始まりだった。

「何だって?俺にだってわからんよ。お前の方がくわしいだろうそういう物は。」
電話の向こうから空しく帰って来た返事に遼はため息をつくが、遼だって当麻が詳しいとは思ってなかったので気をとりなおす。
ともかくも、明日中に見つけなければいけない。今日の遼はいつも以上に気合が入っていた。
「明日、新宿に皆で出るからな。当麻も来いよ絶対!」
「....お前、俺が大阪だって知って言ってるんだろうな?」
「当り前だろっ!」
すぐさま返った遼の返事に、当麻はため息をひとつついて、出かける用意をするのだった。

午前10時。伸と秀を除くメンバーは新宿で勢揃いした。
「秀はどうした?」
当麻が訝しそうに言った。
「今日はお店が忙しいから無理だって。」
それはそうだろう。中華街の中華料理屋がヒマなわけがない。
結局遼と当麻と征士の3人で、新宿をウロつくわけである。
まず時計屋を片っ端から見て歩く。しかし、キティちゃんやらミフィちゃんはちゃんとあるのに、彼の黄色い物体は影も形もなかった。
「遼....その物の名前は何というのだ?店で尋ねればすぐにわかるだろう」
征士がうんざりとした顔で言う。
それに対して返ってきた遼の返事はあまりにもあっけなかった。
「俺もしらない。とにかく黄色くて、人気があって、目覚し時計なんだ!」
雑誌にはもちろん名前が書いてあったのだが、あまりに勢いよく決心してしまった為、遼はすっかり名前など頭になかった。まあ、人気商品ならばそこらへんにゴロゴロしてるだろう、と高を括っていた彼の失策であった。
「...それでは、どうやって探すのだ遼.....」
呆れ返った表情で征士はつぶやいた。当麻もやれやれといった顔をしている。
「まあ..見ればわかるんだろう遼?とにかく心あたりのある店を廻って聞くしかないな。」
「そ...そうだな!見ればわかるし、人気商品だから、聞けばきっと分かるよなっ」
当麻の言葉に遼がうなずくと、3人はまたウロウロし始めるのだった。




新宿といえどかなり広い。3人はあちこちの店を廻って疲れきっていた。
「大体なあ...大人の男3人が、そんなもの探して歩くってのが間違いなんだよなあ。」
店で店員に探し物の説明をする事をパスした当麻がぼやいた。常識破りな彼でも、やはり抵抗があるらしい。
「当麻っ、伸の誕生日プレゼントだぞ。欲しいって言ったのは伸なんだから、絶対に見つけてやる。」
妙に気合を入れてる遼はなかなか微笑ましいのだが、やはり誰だって齢25にして、男3人で”可愛い黄色い目覚し時計”など探して歩きたくは無い。
ふと、当麻はさっきから黙っている征士に、ん?とした目を向ける。
「征士?どうかしたか?」
そう言って、当麻も征士の目線の先へと目を向けた。
そこには女子高校生らしい数人がプリクラとやらで写真を撮っている姿があった。
「....征士....何見てるんだよ...」
征士らしからぬ行動に、当麻と遼は少々面食らっていた。征士は何かそのまま考えていたが
「いや...彼女達であれば、その目覚し時計の正体がわかるのではないだろうか...」
なかなか鋭い一言だった。

なにやら楽しそうに溜まっている女子高生達は、なかなか良いセン行ってる男3人が近寄って来るのに気づき、きゃあきゃあいい始めた。
「ちょっとお...来るよこっちに!」
うれしそうに中の一人が言う。
「...大変失礼するが...」
征士がいかめしい口調で言うのを見て、あわてて遼がそれを遮る。そんな口調では皆逃げてしまうだろう。
「あのっ...ちょっと探し物をしてるんだけど、皆なら知ってるかなと思って...」
ナンパかと思って期待してた彼女たちは少し落胆の表情を見せたが、それでも何だろう、と顔を彼らへ向けている。
「あのさ..黄色くて、すごく人気がある目覚し時計って知ってる?」
遼がそう言ってしばらく、彼女たちはあ然としていたが、急に皆笑い出した。
「やあだ~~~」
「変なのお!があっかりー」
「お兄さん達何?」
「もう行こうよー」
何やらガヤガヤ言っていたが、彼女たちは答えを授けずに去っていってしまった。こうなると、やはり自力で探さなければならない。
「......遼.....怨むぞ」
征士の、地をはうような声が遼に発せられた。
「変なの....って.....そんなに変なのか!?」
既に午後3時を廻っているのだ。昼ご飯も食べずに歩き回っていた当麻はかなり不機嫌だった。
「意地でも見付けてやるっ!!」
当麻の性格の一端であった。






気合を入れたは良いが、5時を廻っても結局成果はあがらなかった。
「説明が悪いのかもなあ。黄色いのってだけじゃわからんだろう。」
「俺が悪かったよ...名前位確認すれば良かったんだよな...」
さすがに疲れを見せる遼の暗い顔を見て、当麻が少し慌てる。
「なあ、別にそれじゃなくたって伸はよろこぶだろう?何か他のプレゼントを探そう。店だってずっと開いてるわけじゃないし。」
遼はやはり諦めきれない表情だ。しかし、二人に迷惑をかけてしまった手前、強くは出れない自分が悲しい。
そうして征士の方をむいて、彼の意見を促す。
「....そうだな。私もそれが良いと思う。」
征士の言葉に、遼はようやく”黄色い時計”をあきらめる事にしたのだった。

「やれやれ....一日無駄になったな...」
当麻がぼそっと言うのに、征士がしかめつらをする。
これ以上遼を落ち込ませてはどうしようもない。当麻は肩をすくめた。
と、その時、当麻の持っていた携帯電話が鳴り出した。
「ん?誰だよ.....もしもし?....ああ秀か。」
相手が秀とわかって、当麻の声が和らぐ。
実の所、仕事を投げてきてるので、電話は少し恐いのだ。
「...ああ...そうだよ...いや...みつからなかった。」
どうやら秀は3人の成果を尋ねている様子だ。
「あ?いや、目覚し時計だよ。黄色い奴....違うって、なんか人気らしいが......ああああ?」
いきなり当麻が素っ頓狂な声を出した。
「...遼、お前、秀に探し物が何か言ってなかったのか!?」
突然荒い口調で遼に言う。遼はあわててうなずいた。
当麻は短くため息をつくと、電話の先の秀に向かって何やら話をして、すぐに切った。何だかわけの解ってない遼と征士はじっと当麻を見ている。
「....遼...その黄色い物体は、名を”ピカチュウ”と言って、最近人気なんだそうだ。なんでもなあ、ゲームやアニメのキャラクターらしい。玩具屋へ行けばどこかに在庫があるだろうって秀が言っていた。」
「...へえ....」
「最初から秀に聞いてれば、すぐにわかったのにな遼....」
当麻と征士の視線が少し痛かった。

「これですね?」
何軒めかの店で店員に見せられた時計は、正に遼が探していた物体であった。定価千円、実にキュートなピカチュウの時計である。
「お買い上げありがとうございます」
男3人がピカチュウの時計を買って行くという妙な光景の中で、店員はつとめて冷静に言った。
「これなのか遼...伸はこれがほしかったのか....?」
征士は疲れた表情でつぶやいた。

「あれ?これって!遼、君が思い付いたのかい?」
3人の戦利品を見た伸は驚いた様に言った。
「ああ、伸が欲しいなあって言ってたから、当麻と征士とでみつけてきたんだ。」
「へえ.....3人で玩具屋にはいったの?それはすごいね...とにかく嬉しいよ。どうも有り難う。」
伸が嬉しそうに礼を言うのを見て、3人はようやく一仕事が終わったような表情で、秀に目で感謝する。 秀が電話をしてこなかったら、この時計は見つからなかったに違いない。

「一日探して歩いたってのは、伸には内緒だな」
こっそりとつぶやいた当麻の言葉に、遼も征士も賛同する。
その夜の柳生邸は、久しぶりの集まりで遅くまで、賑やかな声がしていたのだった。




* End *



*HOME* ROSMARIN TOP* TROOPERS NOVELS*


1