独立記念日 |
---|
人種・宗教・貧富のバラエティに富むアメリカ人にとって、独立記念日は、唯一共通の立場で祝える祝日かもしれない。日本の建国記念日は、日本人にとって祝日の一つに過ぎない感じがあるが、アメリカでは、独立記念日は重要な日である。特にボストンは、その歴史の舞台となった場所であるから、独立記念日を祝うイベントは盛大だ。ボストンでは、独立記念日を含む一週間で、「ハーバー・フェスト」が開催される、毎日何処かしらでイベントがあるが、私が行ったことがあるのは、「クラムチャウダー・コンテスト」。クラムチャウダーは、アサリや野菜がはいったポタージュの様なスープ。特にボストンだけの名物という訳ではないが、シーフードが美味しいボストンでは、クラムチャウダーをメニューに置いているレストランが多い。味付けや具やとろみ加減は、そのレストラン独自のものなので、そのお味を競うのが「クラムチャウダー・コンテスト」なのだ。
会場はダウンタウンの広場。数ドル払って中に入ると、周りを囲むようにして並ぶ白いテントの、どのお店からいくら飲んでもいい。お店によって、容器もスプーンもクラッカー等の付け合わせもまちまちで、頭にアサリの被り物をした人を立たせて客寄せをしているレストランもあった(これは受けた)。優勝は、入場者の投票で決まるらしく、優勝したことのあるレストランは、199X年度クラムチャウダー・コンテスト優勝と謳うことができるのである。
しかし、同じクラムチャウダーで、よくこれだ差があるなあと思うほど違うものから、同じもの?と思うものまであって、絶対これが美味しいと自信を持って言えるものが無い。そのうち、全部を周りきる前にお腹が一杯になってしまった。もうしばらくクラムチャウダーはいいや、というのが正直な感想だった。
さて、独立記念日当日は、イベントが目白押しだ。
まず、お昼前に、独立戦争当時の扮装をした人達によるパレードがある。このパレードは、Old State House(旧州会議事堂)という、ボストンで一番古い建造物に到着する。そのあと、やはり当時の扮装(軍服?)を来たひとが、Old State Houseの二階の広場に張り出したバルコニーから、当時を再現して独立宣言を読み上げる。後ろにそびえ立つビル群を見ないようにして、そのバルコニーを見上げると、まるで本当に時が遡って、興奮の中でこの宣言を聞いていた当時の人達の中に紛れ込んでしまったかのような錯覚を覚える。
それが済むと、今度は、やはり当時の軍服を来た鼓笛隊がマーチを演奏しながらクインシー・マーケットという広場にあるファニュエル・ホール(やはり、アメリカ独立の際に重要な建物)ヘ行進してゆく。ここが鼓笛隊の終点である。
そして、ボストンにおける独立記念日最大の呼び物は、夕方からチャールズ・リバーのほとりに建つハッチシェルという野外音楽堂で行なわれるボストン・ポップスのコンサートと、それに引き続いて行なわれるチャールズ・リバーの花火大会だろう。去年はゲストで、昔ネスカフフェ・コーヒーかなにかのCMソングに使われていた曲を唄う歌手が来ていた。
『ボストンの一年』のところでも書いたが、このコンサートのラスト・ナンバーはチャイコフスキーの『1812年』と決まっている。この曲のラストの方で、大砲音が入るのであるが、この音とシンクロナイズして花火が上がるようになっているのだ。そして、曲が終わると供に花火大会が幕開けする。日本の大きな花火大会と比べたら物足りないが、それでもかなり盛大な花火大会である。見事な尺玉が上がると、思わず小声で「た〜まや〜。」「か〜ぎや〜。」と合いの手を入れてしまう私であった。この日、ボートを持っている人は特等席で花火が見物できる。日本だったら屋形船でも出ているところである。これまでに見た傑作は、オールドディズのオープンカーの形をしたボート(浮かんでたんだから、多分車じゃなくてボートだったんだろうと思う)で、乗っている人は花火そっちのけで注目を集めて喜々としていた。
花火大会が終わるともう時刻はかなり遅い。こうして独立記念日の夜はふけていくのであった。
さて、ここからは実用編。
ハッチシェルで行なわれるボストン・ポップスのコンサートは無料で、座席と言うものは無く、敷物や椅子を持参するのが普通だ。ハッチシェルの正面は、もうお昼前には隙間無く場所が取られている。日本のお花見の陣取り合戦を想像して貰うとピッタリくる。実際にコンサートが始まるまでは6〜7時間もあるわけだから、飲食物はもちろんのこと、時間が潰せるようなものも必要である。去年は異常にいいお天気で、日除けが何もないところに座っているのは堪えた。始まるまではテントを張っている人達もいたほどで、そこまでしないまでも、帽子や日焼け止めクリーム等の予防策は必要だろう。
演奏はスピーカーで、エスプラネードと呼ばれるチャールズ・リバー沿いの長い中州のように伸びた公園にも聞こえるので、多くの人は、コンサートの後の花火に照準を合わせて、エスプラネードの花火の良く見える場所に初めから陣取っている。こっちで見る分には、午後の遅くから来ても何とか座る所は見つかるはずだ。但し、歩道の川から遠い側のすぐ脇に場所を取ると、遅れて来た人達が道に立って花火を見物するので、結局座っていては見えない事になり得策ではない。