雨月奇譚〜『承』の章〜



 浩 之「うーーーーーーーんっ!!」

電車から降り、一歩駅から出ると陽気な日差しが差し込んできた。

思わず伸びをし、新鮮な空気をおもいっきり吸い込んだ。

 あかり「浩之ちゃん、いい天気だね。」

 浩 之「ああ、晴れてよかったよ。これも日頃の行いだな。」

 志 保「誰の?間違ってもヒロのじゃないよね〜。」

ここぞとばかりに志保がつっこんでくる。

しかし、このバカのせいで折角の計画を不快なものにするのは勿体ない。

 浩 之「もちろん、ここにいる皆のさ。」

ここは俺が大人になってやらないと。

 浩 之(当然、お前は数に入ってないけどな。)

心の中で付け足しておく。



 志 保「はいはーい、皆注目!!あそこに見えるのが鶴来屋グループの経営し
     いる旅館で〜す。15階建ての本館のまわりに別館が5つもあるのよ!
     な、なんと!あそこには天皇陛下も宿泊したというお墨付!!
     それに、大浴場と露天風呂が男女それぞれ3つずつもあるんだから!!」

商店街を歩きながら志保が皆に得意げに説明を始める。

  葵 「へぇ〜、すごいですねぇ。」

 あかり「ねぇ、浩之ちゃん。帰りに、皆でそこのお風呂に入っていこうよ。」

 浩 之「おっ、それいいな!」

 志 保「私も賛成!でも残念ね、ヒロ。鶴来屋には混浴のお風呂はないのよ〜。」

絶妙のタイミングで志保が突っ込んでくる。

 浩 之「ばーか。最初からそんなつもりはねーよ!」

(ちっ。)

 志 保「あらそう。でも覗きにも注意しないとね〜。前科もあるし〜。」

 浩 之「だ、誰が!!それにあれは覗くつもりじゃなかったって、何回も・・・」

(くそ、これで覗きに行きにくくなったじゃねーか。志保、覚えてろよ!)

志保の観光案内はまだ続く。

 志 保「・・・そして前に見えるあの山、私たちが向かってる場所ね。
     あそこには昔から伝わる鬼の伝説があるの!!詳しいことは、今夜の
     お楽しみね。」

観光案内のパンフにもあるとおり、これから向かう雨月山には鬼伝説がある。

目的地が決まってすぐ、志保の奴がいろいろと調べていたらしい。

こんな時だけには役に立つんだな。

今夜の胆試しは面白いことになりそうだ。



皆でワイワイやりながら歩いていると、やがて山道に差し掛かった。

暖かな日差しに木々の香り。

涼しい風にのって聞こえてくる小鳥のさえずり。

 レミィ「うーん、山って最高ネ!!アタシ、大好き!!」

レミィほど全身で喜んではいないが、皆楽しそうだった。

マルチなんか、めずらしそうにキョロキョロし、鳥の声がする度に忙しげに顔を

巡らせていた。

暫く歩くと、開けた場所にでた。目的の場所だ。見晴らしがよく、隆山を一望で

きる。近くに川も流れていて、遊び場びも持ってこいの場所だ。ここのすぐ上に

キャンプ場があるため、ここがよく食事の場に使わているようだ。

 浩 之「よし、荷物を置いてここで昼飯にしよう。」

 全 員「賛成!!」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 浩 之「ほらっ!琴音ちゃん!!」(バシャ!)

 琴 音「キャッ、冷たい!」

きらめく水飛沫の向こうで琴音ちゃんが笑う。

 琴 音「藤田先輩、やりましたね。」(バシャバシャ!!)

琴音ちゃんが負けじと応戦してくる。俺も更に琴音ちゃんに水をかける。


昼飯を食べ終わった後は自由時間で、みな思い思いのことをやっている。

俺達は水着に着替えて川で遊んでいた。


  葵 「先輩、隙あり!!」(バシャ!!)

 浩 之「うわっ?!つめて!!」

いつのまにか背後に周り込んだ葵ちゃんの奇襲をくらった。

  葵 「先輩、油断大敵ですよ!」

 浩 之「やったな、葵ちゃ・・・うわ?!」

振り返ろうとすると、今度は横から琴音ちゃんにかけられた。

 琴 音「藤田先輩、油断大敵です。」

  葵 「先輩、まだまだ修行が必要ですね〜。」

声をそろえて笑う二人。

 浩 之「オマエら、やったな〜〜!」

 琴音&葵「きゃー、先輩が怒った〜〜〜〜。」

(バシャバシャバシャ・・・・・)

鬼ゴッコに変わってしまった。



 志 保「ん、あかり。どうしたの?」

 あかり「あ、志保。別になんでもないの。」

 志 保「はは〜ん。さてはヒロに構ってもらえないんで・・・。」

 あかり「そ、そんなんじゃないよ。別にさみしくなんか・・・。」

 志 保「・・・・ふう。仕方ないね〜、ヒロは。
     ちょっと待ってて。このボールを・・・・えい!」

『 がすっ! 』

 浩 之「痛っ!やい、志保!何しやがる!」

 志 保「ゴメン、ゴメン。手がすべっちゃって〜。
     そうだ、ヒロ達もビーチバレーならぬリバーバレーをやらない?」

  葵 「あ、いいですね。やりましょう、やりましょう!」

 志 保「ほら、あかりも早く!」

 あかり「う、うん!」(ありがとう、志保。)



 雅 史「ほら、あれが『めじろ』だよ。であっちが『うぐいす』。」

 マルチ「へー、すごいですぅ〜〜〜。」

 理 緒「ね、ねっ!あの黒い鳥は何ですか?」

 雅 史「雛山さん、あれはカラスだよ。」

 芹 香「・・・・・・」
 
 雅 史「えっ、何?来栖川先輩。」

 芹 香「・・・・・・・・・」

 雅 史「マンドラゴラを見つけたから来てくれって?
     先輩、マンドラゴラって何?」



 浩 之「ふー、遊んだ遊んだ!」

 智 子「お疲れさん。」

 浩 之「委員長、こんなとこまで来て本を読まなくてもいいだろ?
     もっと楽しめよ。」

 智 子「そんなの、うちの勝手やん。それに、十分楽しんどるよ。
     せっかく自然に包まれて思いっきりリラックスしとるんや。
     したいことせな損やん。」

 綾 香「そうそう、楽しみは人それぞれよ。」

そう言う綾香はパラソルの中、水着でデッキチェアーに座り、サングラスを

してトロピカルジュースを飲んでいる。

 浩 之「・・・・・そのイス、どこから持ってきた?」

 綾 香「ヒ・ミ・ツ。」

 志 保 「何やってんの。ところでレミィの姿が見当たらないけど・・・」

 浩 之「そう言や・・・?」

 智 子「宮内さんなら、藤田君達が着替えて川に入った頃に森の方に行っ
     てたけど。」

 浩 之「かなり前だな。何しに行ったんだろう・・・・!」

志保も同じことを思い当たったらしく、顔を見合わせた。

 浩 之「おい、志保!ここって禁猟区か?」

 志 保「そんなこと、知る訳ないじゃない!!」

あわてて森に入って行く2人を見送る2人。

 綾 香「どういうこと?」

 智 子「さあ?」



30分後、レミィは見つかった。

野兎がまさに射られようとしている瞬間だった。

邪魔されたレミィは腹を立てたが、自慢気に狩りの成果を報告してくれた。

ごねるレミィをなだめつつ、17羽の犠牲鳥を手厚く葬り、冥福を祈った・・・・



雨月奇譚〜『転』の章〜


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