雨月奇譚〜『転』の章〜




4時半をまわり、太陽も少し傾き始めた。



 浩 之「よし、暗くなる前に夕飯の準備をしよう」



遊び疲れた俺は、暫くあかり達とのんびりしながら皆が戻って来るのを待ってそう言った。

今日の夕飯はバーベキューと並ぶキャンプの定番メニュー、カレーだ。

それと現地調達の山菜入りお吸い物と焼き魚という豪華メニュー。



 浩 之「それじゃ役割分担な。・・・って、志保とマルチは?それにセリオも」



 あかり「そういえば志保、途中でどこかに行ったままだよね?」



 雅 史「志保ならこっちにも来たよ。マルチは僕達と一緒にいたんだけど

     手伝って欲しいことがあるからって志保が連れて行ったけど。

     1時間程前かなぁ」



 浩 之「ホントか?どこに行くって?」



 雅 史「いや、そこまでは・・・」



 浩 之「葵ちゃん達、知らない?」



ふるふると首を振る葵ちゃんと琴音ちゃん。



 雅 史「あ、あそこにいるのセリオじゃないかな。こっちに来てるよ」



振り向くと丘から降りてきているセリオがいた。



 綾 香「セリオ、あなた今までどこにいたの?」



 セリオ「向こうの丘の上の木陰で景色を眺めていました。

     皆さんが集まっているのが見えたので降りてきました」



 浩 之「それよりセリオ、志保とマルチ見なかったか?」



 セリオ「山を降りていくところを見ました」



 綾 香「長岡さんなら買い出しに行ってるわよ。大切なモノ忘れたとか言ってたけど」



 浩 之「知ってたなら早く言えよ!」



 綾 香「あら、私には聞かなかったじゃない」



 浩 之「なっ・・・」



 綾 香「ジョーダンよ、ジョーダン☆

     今思い出したのよ。私も、今まで忘れてたの」



 あかり「でも、それじゃもう暫く帰ってこないね」



 浩 之「一体何を買いに行ったんだ?

     ・・・仕方が無い、あいつは帰って来たら罰として全部の後片付けと便所掃除1週間な」



 雅 史「べ、便所掃除って・・・?」



 浩 之「じゃ、準備の受け持ちを言うぞ。まず・・・」



 レミィ「ハーイ!私ハンティングしてくるヨ!」



 浩 之「ダメ!!動物愛護団体から捕まるぞ!お前は魚釣りな」



 レミィ「ブーーー!」



 浩 之「俺と雅史は手ごろな石を集めてかまどを作る」



 雅 史「オッケー」



 浩 之「委員長と葵ちゃんと綾香は薪拾い。怪我しない様にな」



 智 子「任しとき」



 浩 之「残りは山菜取りだ。食べられるかどうかは先輩とセリオが判断してくれ。」



 芹 香(コク)



 浩 之「じゃあ各員行動開始!1時間後にここに集合だ。

     レミィは戻ってこなくていいから釣りを続けてろよ」



 レミィ「ブーーーーー!!」





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  (ゴトッ)



 雅 史「よし、こんなもんだね」



 浩 之「そうだな」



  葵 「よいしょ、っと」



 浩 之「あ、葵ちゃん。薪はもうこれくらいでいいよ。

     こっちも終わったから山菜取りを手伝おう」



  葵 「はい、分かりました」





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 琴 音「藤田先輩、こんなにいっぱい取れました」



 浩 之「おっ、大漁だな!俺もこれだけ取れたぞ」



 芹 香「・・・・・・・・・」



 あかり「・・・浩之ちゃん、それ全部毒が有るやつだって・・・」



 浩 之「・・・・・・・・・」



 志 保「あっはっはっはっは!さすがはヒロね〜」



 浩 之「あっ、テメー!志保!今までどこに行ってやがった!

     お前は皆の分の後片付けと便所掃除1週間の刑だ!!」



 志 保「・・・何よ、便所掃除って?

     いいのかな、ヒロ。そんなこと言って〜。ジャーン!」



 雅 史「あっ、これビールじゃないか」



 志 保「それだけじゃないわよ。マルチが持ってきてる袋の中には
     日本酒に焼酎、ワインに梅酒なんかもあるわよ!」



 マルチ「た、ただいまですゥ〜」



丁度マルチが両手に袋を抱えて重そうにやって来た。



 浩 之「志保、偉い!!酒とは気付かなかったなぁ。よし、罰は免除だ!!」



 志 保「ふふ〜ん、当然よ。この志保ちゃんに抜かりは無いわ!」



 雅 史「でも、2人でここまで運んで来たの?重かったんじゃないの?」



 浩 之「そうだよ、言ってくれれば手伝ったのに」



 志 保「驚かそうと思ってネ!あ、そうそう。これお願いね〜」



 浩 之「ん?何だこれ?」



 志 保「タクシーの領収書。そこで待ってもらってるから」



その紙に書かれているのは深夜料金も真っ青な洒落にならない金額だった。



 志 保「ついでだったから、ちょっとその辺観光しちゃった」



 浩 之「・・・・こ、このバカ志保!!

     お前は全部の後片付けと皆の荷物持ちと便所掃除1カ月だ!!!」



 智 子「せやから、便所掃除って何や?」





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 浩 之「次、料理の分担な。俺、雅史、志保は火を起こす。

     葵ちゃん、理緒ちゃん、綾香と志保は米を研いだ後、炊いてくれ。

     先輩と琴音ちゃん、セリオ、志保はカレーを。

     あかりと委員長、マルチ、それに志保はお吸い物を頼む。

     材料を洗ったり切ったりはカレー班とお吸い物班両班でやってくれ」



 志 保「ちょっと、ヒロ。全部にアタシの名前が入ってるんだけど・・・」



 浩 之「当然だ。タクシー代は働いて返せよ。

     あ、それと火の管理もお前だからな。絶対消すなよ」



 雅 史「浩之、それはやり過ぎだよ」



 あかり「そうよ浩之ちゃん。志保だって皆の為を思ってやったことだし」



 志 保「う〜〜、雅史もあかりも優しいネェ〜〜〜。

     それに引き換え、ヒロのエルクゥのような仕打ち。よよよっ・・・」



 浩 之「・・・エルクゥって何だよ?」



 志 保「あれ、アタシそんな事言った?」



 浩 之「言った言った」



 志 保「・・・・・・・よよよ〜〜〜〜っ!!」



 浩 之「分かった、分かった。お前は火を起こすのと火の管理な」



 志 保「ゲ、結局火を扱うの?熱いし、煙たいし・・・」



 浩 之(ギロッ)



 志 保「が、頑張りマ〜ス;」



 浩 之「それじゃ解散!」



 あかり「ねぇ、浩之ちゃん」



 浩 之「ん、何だあかり?」



 あかり「宮内さん、ずっと一人だけどいいの?」



 浩 之「・・・ゲッ、忘れてた・・・

     悪ィ、雅史。火を起こすの、お前と志保とでやってくれ!」



 志 保「全く、ヒロって酷い奴ねぇ」



 雅史&あかり「・・・・・・」









 レミィ「ひ〜〜〜ん、サビシーヨ〜〜〜〜」





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時刻は7時。

太陽は地平線に近づき、空を灼熱の赤へと染めている。

春や秋ならもうこの時間は暗くなっているのが普通であり、今が真夏であることを強く感じさせる。



俺達は中央の焚き火を囲む様に座った。

それぞれの前にはカレーライスとお吸い物とお茶が配られている。

レミィと俺の釣った魚(ほとんどがレミィ)は焚き火で焼いている最中で、良い匂いを漂わせている。

マルチとセリオは味は分からないが飲み食いしても大丈夫だということなので、

雰囲気を味わう為にも一緒に食べてもらうことにした。



 浩 之「ビールは全員に行き渡ったか?」



 綾 香「いいわよ」



 浩 之「それじゃ始めるか。「To・・・ 」



 志 保「「To Heart」収録、皆お疲れ様!

     暫くしたらPS化の収録も始まるけど、これからも頑張ろうね!

     それじゃあ、乾杯!!」



 全 員「乾杯!!」



志保に持っていかれてしまった・・・

何はともあれ、腹が減っているのでカレーをかき込んだ。



 浩 之「おっ、うまい!!うまいよ、このカレー!」



腹が減っている事を差し引いてもお世辞抜きでおいしかった。

しかも、暗くなっていて気付かなかったが、ご飯もバターライスになっていて、

カレーをより一層おいしいものにしている。



 レミィ「ヒロユキ、魚焼けたヨ! ハイ!!」



カレーの二口目を食べるより早く、レミィが焼けた魚を持ってきた。

でん、と突きつけられた60cmを越す山女(ヤマメ)。

俺が忘れていたレミィの所に行った時、丁度釣り上げている途中だった奴だ。

間違いなくこの川の主だと思う。

これだけ大きければ他の料理にも十分使えたが、レミィがどうしても焼き魚にすると言ったのだ。

まさか俺に持って来るとは思わなかった。



 浩 之「こ、これ俺が食っていいワケ?」



 レミィ「モチロン!」



ジーっと不安そうに見つめるレミィの前で一口ほうばると、香ばしい匂いと熱い肉汁が広がった。



 浩 之「うまいよ、マジで。もっと大味だと思ったんだけど全然そんなこと無いし」



レミィは満面の笑みを浮かべながら他の人達に魚を配りに行った。

レミィが頑張ったお陰で魚の割り当ては一人一匹ずつある。

この3、4匹分はありそうな主は俺のノルマだな・・・

く、食えるかな・・・

気を取り直してカレーの二口目を食べようとすると、



 あかり「浩之ちゃん、このお吸い物もおいしいよ」



 浩 之「だーーーーーーーーーーっっ!!

     少しはゆっくり食わせてくれっ!」



 あかり「ご、ごめん。あったかいうちがおいしいと思って・・・」



 浩 之「す、すまねぇあかり。これあかり達が作ったやつだよな」



2度もお預けを食らったのでつい声を荒げてしまった。

あかりは俺に自分の作った料理を食べて欲しかっただけなのに。

それにコイツの事だ。

俺が食べる迄自分は何も食べずに待ってたに違いない。

ションボリしているあかりの手から慌ててお吸い物を受け取り、口に運ぶ・・・



  (ドン)



突然背中を押され、顔と胸全体で食べる羽目になった。



 浩 之「アチ、アチチ!!」



 志 保「ヤッホー!ヒロ、ちゃんと食べてる?

     お吸い物おいしいでしょう。実はこの中にねぇ・・・・って何してんの?」



 あかり「浩之ちゃん、大丈夫?!」



Tシャツを脱ぎ、それで顔を拭いた後、志保にぶつけてやった。



 志 保「キャッ!何すんのよ?!」



 浩 之「怒る気も失せた。あかり、着替えてくるからもう一度ついでおいてくれ」



 志 保「ちょっと、アタシの説明を聞きなさいよーーーー!!」



叫ぶ志保を無視しつつ、荷物を置いてあるテントへと向かった。





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着替えが終わり、皆がいる場所へと戻って来たが様子が変わっていた。



 あかり「雅史ちゃん、雅史ちゃん!」



あかりの声が聞こえ、急いで戻って見ると人数がかなり減っていた。

そこにいたのは倒れている雅史とその側で心配しているあかり、それとセリオだけだった。



 浩 之「あかり!一体どうしたんだ?!」



 あかり「あっ、浩之ちゃん!分からないの!急に皆変になっちゃったの!」





日は既に沈み、雨月山には夜が訪れていた・・・・



雨月奇譚〜『続』の章〜


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