店主の読書日記 AUG2003 タイトルリスト 作家別リスト

2003/8/31

 週末、寝込む。
 1日19時間くらい寝たかな。ペネロペ・クルズもびっくりだわ。
 テレビはうるさくてつけられないけど、本は読める程度だったので、軽いものを何冊か。

 『女王陛下の薔薇1――夢見る蕾たち』(三浦真奈美/中央公論新社C★ファンタジアノベルズ)読了。
 あまりにインパクトのあるタイトルゆえ、書店に並んでいるのを見た時から気になっていた1冊。
 私が予想した内容は、宮廷版伊賀忍法帖デシタ。女王陛下の密偵達が陰謀渦巻く貴族社会の悪をバッタバッタと……って、時代劇の見過ぎですかそうですか。

 読み始めると、当然私の予想と違って(当たり前だ!)いたのだが……むむむ、面白いっ。
 物語をひとことで説明すると架空歴史小説。
 ブレニム帝国の富裕な商人の娘・エスティを主人公に据え、寄宿学校時代の友人で大方の予想をひっくりかえして史上初の女王になったセシリア、帝国の植民地・パガンの藩主の娘・ブランカなど少女達の成長物語(になるんだろう、たぶん)。
 ちなみに出版社提供のあらすじは以下の通り。

 獅子と薔薇の紋章の下、帝国に史上初の女王が誕生した。しかし女は「家庭の天使」である時代、その統治は困難を極めた。古き慣習に昂然と立ち向かう若き女王、彼女を助けたいと真摯に願う、平凡な一人の少女。夢を諦めずひたむきに生き、精一杯咲き誇ろうとする薔薇たちが、時代を、世界を動かし始める。

 私は海外ロマンスが好きなのだけど、それはバーバラ・T・ブラッドフォード他、ものすごく高品質な波乱万丈の大河ロマンが読めるせいだ。(BTBは当たりハズレがあるけどさ) 日本のどんなベストセラー作家より初版を売る作家のロマンス小説は、バカに出来ないほどスケールが大きかったりする。
 この物語は、そういう日本には存在しない種類のロマンス小説になる可能性が、ちょっとある……気がする。まあ、まだシリーズ1冊目を読んだだけだし、結論は保留にしよう(笑)。
 ブレニムはブリテン、パガンはインド。少し歴史を知っていれば簡単にモデルの予想はつく。
 セシリアはずばり、エリザベス1世だ。
 でも、単純にエリザベス調を読みかえられるかというと、ちと違う。パガン(インド)への定期航路が出来てプレニム人(英国人)が家族を伴って赴任しているあたりは、同じ女王でもヴィクトリアの時代あたりのことだろう。婦人は「家庭の天使」であるべき、という社会通念もヴィクトリア時代の堅苦しい考えだ。
 だから、架空歴史小説。
 実在の歴史を舞台にしたら、どんなに読者層が広がるだろう。と、夢想しても仕方ないか。
 ヴィクトリア時代にもしもエリザベス1世のような女王が現われたら、という、楽しい空想世界(だと思うんだけど、違うかな)を楽しむことにしよう。

cover


2003/8/25

 最近、移動が多いので、なんだか読了本が多いぞ。
 その分、その他のことがないがしろだけど。(シワヨセは食事に来てるかも)
 『竜の黙示録――東日流妖異変』(篠田真由美/祥伝社)読了。著者初の伝奇ノベルシリーズの2冊目。

 東日流で「つがる」と読む。
 この作品の中にもちらっと出てくる、『東日流外三郡誌』という本がある。昭和23年頃、自宅改装の際に天井裏から古文書が落ちてきた(!)という振れ込みで、和田喜八郎という人「発見」した。古代、津軽の地に大和朝廷に対抗する東北王朝があったという内容で、もちろん正式な国史である日本書紀にはこれっぽっちもそんな記述は出て来ない。
 結局、偽書と決まったのだが、中央の文献しか残っていない現在、中央の言い分だけ鵜呑みにしちゃっていいのかなー、なんていう気も私はするのだ。これは、『東日流外三郡誌』をホンモノと信じるとかそいうことでは全然なくて、例えば、物事は語られないから存在しないワケではないということ。
 A新聞ならA新聞の報道だけ読んでると、見方が歪むというのはわかるでしょ? 文献は基本的に勝者のものしか残らないことを私達はもっと考えるべきなのだ。

 おっと、大幅に感想から逸れちゃったよ。ここいら、東北出身の高橋克彦が自作に色々書いているので、興味がある人にはオススメ。
 『竜の黙示録――東日流妖異変』はスーパーナチュラルな伝奇ロマンなので、あんまり難しいこと考えずに読めばオッケー。

cover


2003/8/24

 『妖霊星』(瀬川ことび/徳間 ノベルス)読了。

 物語の舞台は室町時代。
 幕府管領・細川勝元寵愛の遊女は、地獄絵図の打掛を纏うことから地獄太夫と呼ばれている。太夫は怪しげな術を使い、世を乱していく。彼女目的は何なのか。そして、事件に巻き込まれる若き能楽師・鷹矢の運命は。

 瀬川ことびは瀬川貴次の別名義。今回はプラットフォーム(とはいわんか、小説の場合)もあって、ちょっとえっちな大人テイストになっている。まあね。やっぱりノベルズで伝奇と来たら、「若い娘が読むんじゃない!」と、お父さんが血相を変えるのが王道でしょう!
 瀬川テイストって、スピード感とお笑いだと思うのだが、これはそういう作品ではない。だから、瀬川貴次ファンといえども、うかつにオススメはできない。
 大人向けとしてはこんなものなのでしょうけど、うーん、ちょっと寂しいわ。

 妖霊星というのは『太平記』に出てきて、NHK大河ドラマ「太平記」のエピソードタイトルにもなったので、ご存知の方も多いかもしれない。(私が初めて知ったのは、澁澤龍彦の『世界不思議物語』での引用)
 「天王寺のや、妖霊星を見ばや」と、不思議な節回しと言葉の歌が聞こえて、声の主を見ると数人の天狗が囃していた。実はそれは、北条氏滅亡の時が来たことを歌っていた、という。(……話だったはず、たぶん)
 まあ、なんていうことのないエピソードなんだけど、そういうのを知ってたりすると伝奇ものはおもしろく読めるんじゃないかなあ。

cover


2003/8/23

 マンションの補修工事で人が入るので、早起きして部屋の片付け。なんだかなー、土曜日ってこんなんばっかだなー。一人暮らしって面倒くさい。嫁さん欲しい。(←欲望の垂れ流し)
 予定を聞いたら「午前中に終わります」ってことだったので、午後から出かけるつもりでNo冷房で待機していた。
 が。
 それぞれ担当業者が違うそうで、第一弾は午前10時前に来たが、すべてが終わったのは午後3時。
 こんなにかかるなら腰を据えて冷房をガンガン効かせて原稿でも書いてたよ! まったくもう、お願いしますよ!
 この暑さと憤りを利用して、部屋をちょっとアジアンテイストに模様替え。(今さら変えてももう夏は終わりだぞ、と、いうツッコミは却下する) 多少涼しげになった……か?

 『なみだ研究所へようこそ!――サイコセラピスト探偵波田煌子』(鯨統一郎/祥伝社ノン・ノベル)を読む。
 こう、表紙に書かれた「本格推理小説」の文字の上をひゅるりらと風が吹くくらいのバカミス。ここまで来るといっそ清々しいくらいのバカっぷりだ。(探偵役の名前が波田煌子(なみだきらこ)というあたりで、バカっぷりが大体想像いただけると思う)
 でも、続けて読んでると、そのバカバカしさが快感になってくるような。ここまで突きぬけたバカミスを書ける才能も、ある意味、貴重なんだろうな。

cover


2003/8/22

 招待状をいただいたので、「サザンファンの勝手に25周年『真夏の秘宝館!inお台場』」に行ってみた。
 サザンオールスターズがデビュー25周年で、もともとは

「例えばファンの人達が持っている、デビューから今までの様々なお宝グッズを持ち寄って一同に会して展示したら楽しそう。観てみたい!」というファンの皆さんのリクエストが今回のイベントの原案

だったらしい。
 サザンのデビューからのシングル47曲をモチーフにしたイベントで、入場すると、もうかなりうるさい。なにしろ47以上のモニターが会場に設置されていて、そのひとつひとつがプロモとお宝映像を上映してるのだから。
 でも、育ってきた場面場面でサザンを聞いていた人間には、それぞれのモニターが嬉しくて楽しいわけ。ちゃんと聞こうと思って、前にずれたり後ろに下がったり、立ち位置を探してしまう。(ビクターの指向性スピーカーを使用していて、立ち位置によってクリアに聞こえる) 
 たとえば1曲3分として、47x3=141。約2時間21分。
 ミニ・ゲームなんかも途中にあるので、全部聞かなくても、2時間半かかりましたよ、私は(笑)。最後に物販コーナーがあるので、まんまと策にはまり、レコードも購入。
 ええ、CDじゃなくて、レコード。(プレーヤー、あったっけ?(笑))
 他にも桑田さん発案の「じゃこの海岸物語」(ちりめんじゃこ)、「愛しのカリー」(レトルトカレー)、「思い過ごしも恋のもち」(餅)と素敵な商品の並ぶさざん商店であった。
 月末までやっているので、興味がある方はぜひ。


2003/8/21

阿修羅城の瞳  新橋演舞場で、「阿修羅城の瞳」を見る。  開演18:30にして、終了22:20。途中に30分の幕間があるにしても、疲れた……。なにしろ、芝居の大部分がほとんどクライマックスなのだわ。
 テンションが高いままずーっと行くってえのは、身も心も消耗する。
 今回は2000年度の再演で、ただし主役の市川染五郎を残してキャスト総入れ替えだとか。2000年度の『阿修羅城…』を見てないので比べてどうこう言えないが、つばき役・天海、邪空役・伊原と、大型な人が活躍していた。
 新感線の劇団員と比べると違う世界の人みたいだ。特に天海祐希の頭が小ささときたら、脇の人によっては遠近感が狂うくらい(笑)。染五郎でさえ頭が大きく見えるもんな。
 しかし、最近、新感線の芝居には宝塚とジャニーズの人が出てるが、実際に見るとその底力を思い知る。伊達に1日3ステージやってたり、専用の学校から育てられたりしてないのね。

「阿修羅城の瞳」 新橋演舞場 2003年8月8日(金)→30日(土)
作 中島かずき/演出 いのうえひでのり
キャスト/市川染五郎(病葉出門)、天海祐希(闇のつばき)、伊原剛志(阿部邪空)、夏木マリ(美惨)、高田聖子(桜姫)、橋本じゅん(抜刀斎)、小市漫太郎(四世鶴屋南北)、近藤芳正(一三代目阿部清明)

 時に文化文政、江戸。病葉出門(わくらばいづも)は、魔を祓うための特務機関“鬼御門(おにみかど)”で“鬼殺し”と怖れられる腕利きの魔事師だったが、5年前のある事件を境にそれまでの一切を捨て、今では鶴屋南北一座に弟子入りしていた。
 出門の前に現れる謎の女つばき。執拗につばきを追う鬼御門の先頭に、出門と兄弟同様に育った安倍邪空(あべのじゃくう)がいた。
 江戸を焼き尽くす業火の中、虚空に巨大な逆しまの城が浮かぶ。
「阿修羅の城浮かぶとき、現世は魔界に還る。人も鬼も地獄に堕ちるがいい・・・」
 鬼の王“阿修羅”の悲しき因果に操られ、千年悲劇の幕が開く―――。


2003/8/20

 『聖霊狩り――死の影の谷』(瀬川貴次/集英社コバルト文庫)読了。安内市編が完結して、雑誌掲載の2本に書き下ろし1本を加えた短編集。
 この書き下ろしがとにかく笑えた。
 安内市編のダブルヒロイン、早紀子と萌が大活躍の巻だ。
 安内市は元隠れキリシタンの里としての過去を持ち、本編の物語ではこのネタが根っことなって色々な事件が起こっていた。人が死んだり、街が大混乱になったりした……のに、ボーイズ・ラブ大好き少女の萌は、自作のマンガにこの経験を生かしてしまう。
 イケニエ、もとい、主人公にされたのは、城主の息子・じゅあん。彼をモデルに、父の城主に陵辱されたり、野卑な牢番に陵辱されたりとか……ああ、ちょっと書いてて涙が……というストーリーを目尻を波打たせて創作、下書き、ペン入れ、トーン貼りと、まあ、がんばっていた。
 そこに現われたのが、城主の亡霊。彼はなんと早紀子が書いた漫画の原稿の城主キャラを寄り代として(って、説明するとつくづくすごい話だなあ)秋祭りの中、復活!
 阿鼻叫喚の案内市! せまりくる亡霊! 原稿用紙を握り締めて逃げるダブル・ヒロイン!

 ……と、続けて全部説明したい気はヤマヤマなんだけど、ぐっとがまんしておこう。
 ホラーって、こういう手段もあるのね、と、思った作品。

cover


2003/8/19

 乗り換え駅で平積みだったので『Do Da Dancin'!』(槇村さとる/集英社YOUNG YOUコミックス)7巻購入。

 クラシックバレエの道に戻る決心をした鯛子は、谷川愛子先生の教室に通い始めた。そこで、CMの仕事で共演した世界的バレエダンサー・榊龍一と、先生が親子であることを知るが、先生の口からは意外な言葉が…!? 大好評ダンサーズ・ストーリー!! 第7巻!!

 うーん、予想ハズレ。
 主人公・鯛子が泣いて葛藤してクラシックバレエに戻る決心をしたところで
6巻は終わったから、7巻は絶対スポ根になるのかと思ってた。が、どうやらなんとなーく、家族関係の話になってきそうな気配。
 しかし、やっぱ、最近はどこの世界でもトレーナーが大切なんだなあ、と、思った。メディアでも体改造が話題になるけど、あれはプロのご指導の元、キッチリやらないといかんのね。

cover


2003/8/18

 『試験に敗けない密室』の時に短編の方がいいのかも、と、思ったので、読んでみた『試験に出るパズル ――千葉千波の事件日記』(高田崇史/講談社ノベルス)。
 確かに語り口といい、内容といい、すごく短編向きだった。
 雑誌連載で1号に短編ひとつ、って、いい感じだろうなあ。ひとつの作品には最低2つパズルが入っているから、次の号まで今回のパズルを考えてるの。

 しかし、しかしですよ。
 私は読んでいて――特に「誰かがカレーを焦がした」(書き下ろし短編)がそうだったんだけど、「あれ、鯨統一郎を読んでたんだっけ?」と、思いました。解答があまりにもおバカ(笑)。
 でも、パズルの小難しさと、語り口の軽さとバカミス風味っていうのはいい取り合わせなのかも。

cover


2003/8/17

 昨日のお芝居が終わった後、電車の中でMさんと大河ドラマの話をしていた。
 「武蔵」ではない。来年の「新撰組!」でもない。さ来年の「義経」だ。
 最近、主役の義経がタッキーこと滝沢秀明に決まったと報道されたばかりだ。ちなみにスポーツニッポン8月7日の記事を引用してみよう。(タイトルは「滝沢秀明 NHK大河ドラマで義経役」)

 武蔵坊弁慶との関係など、美少年だった牛若丸時代のエピソードもふんだんに盛り込まれる予定だ。

 ああ! みなまでいうな。
 書いた記者に深い意図がないのはわかっているともさ。
 しかし、弁慶のキャスティングによっては、日曜の夜は街から女子の姿が(色々な女子)消えるかもしれないもんね。そんなわけで、私達は「萌え」なキャスティングに頭を絞っていたのだった。
「きっと今頃、全国で(キャスティングについて)議論が白熱してるよね!」
と、Mさんはいった。
 確かに白熱してるかもしれない。しれないが、方向性は色々違うかも。


2003/8/16

 品川のアロマクラシコでだらだらとメシを食べてから観劇。(おほほほ、マダムみたい?)
 
劇団しゅーくりー夢の「FATHER CHRISTMAS, DON'T CRY」。
 この劇団を見るのは今回で3回目だけど、今までで一番よかったかも。
 今までの舞台設定が異世界(笑)だったり、シティハンターな世界だったりしたが、今回は普通の日常が舞台だった。
 物語は、主人公・モモコの前に、ある日「もうすぐアナタは死ぬから、何かひとつお願いをかなえてあげましょう」という天使が現れる……って、普通の日常じゃないやんけ(笑)。

 天使は普通の人に見えない。死期がせまっている人だけが見える。と、いう設定をうまく使っていて、勉強になりました。はい。
 設定って、ひとつのものを3つの意味で使うくらいしないと生きて来ないんだなあ、と、しみじみ。
 シーンも1つのシーンを3つの効果で使わないといかんのね。


2003/8/15

夏至  映画館に『パイレーツ・オブ・カリビアン』でも見に行こうかと思ったら、時間外ミーティングが入っていたので、DVDを借りておうちで映画鑑賞。『夏至』(2000年フランス/ベトナム映画)。

 うーん、オシャレだ。
 ベトナムにはちょっとだけ行ったけど、私が知ってるベトナムとは全然違う国みたいだぞ(笑)。この映画には街の雑踏も、埃っぽさも、洗練されてない(どちらかといえば猥雑)ゆえのパワーもちらりとも出て来ない。
 物語は3姉妹とその夫や恋人が中心に進んで行く。どの家もアジアンテイストのインテリア雑誌を見ているようだ。末娘が兄と住む部屋なんて、フレンチ・ベトナミーズのお手本みたい。黄色と緑の壁に花柄の布使いで、ちょっと南仏を思わせるインテリア。
 だから、各シーンシーンの美しさは見事というしかない。命日のごちそうに準備される鳥の皮を剥くシーンでさえスタイリッシュだ。
 でも、それに比べるとどーも人間ドラマが薄い。ちっとも胸に迫らない。静かな美しい映像に、どろどろぐちゃぐちゃの人間関係は余計だからか?

 環境ビデオとして流すなら、文句なしに購入をオススメ。
 ドラマを楽しみたい人にはオススメしない。
 そして、お兄ちゃんと妹という、あやしい関係にドキドキする人にはオススメ(笑)。毎日兄のベッドに潜り込んだり、「同じ風景を見たいんだもん」とテーブルの隣に座る妹って、ベトナムでは普通なのかね? (でも、この妹は萌え系じゃないぞ。念の為)


2003/8/14

 今週のイー・ウーマンの対談は精神科医の大平健氏だった。うーん、敬称をどうしようと悩むなあ。作家の場合は敬称略と決めているが、対談相手なんて公人でない場合もあるわけだし。
 って、ことで、ホストの佐々木かをりは敬称略、ゲストは敬称をつけようっと。(と、今、決める)

 今回の対談は読んで色々考えた。
 例えば大平氏のこんな発言。

たとえば診察中に、自分の力では対処できない患者さんが出てきたりする。そういうときに、最初に教えてもらった先生だったらどうするかな、と思ったら、もうすんなりできちゃうんですよ。その先生に成り代わっちゃう。ずっと見ていたわけですから。

 読んだ瞬間に思い浮かべたのは、『ヒカルの碁』だった。
 手詰まりの時、ヒカルは自分が佐為になったことを考える。
 何も手がないと思う時でも、次の瞬間、佐為はにっこり笑って一手を指すんだ――と、ヒカルがモノローグで言っていた。
 そうそう、たぶん、それが真実なんだよね。師弟関係ってたぶん、そういうことなんだ。
 それをすっごく簡単に、小学生でもわかるように言ってるジャンプってすごい。でも、逆に言えば、ほとんどのことは簡単な言葉や表現で伝えられるのかもしれない。
 なるべく難しい言葉を使わないように、専門用語や業界用語は使わないように、と、仕事では日頃から心がけているけれど、すべてにおいて大切な心がけなのかも。


2003/8/13

 夏なので、ちょっと怖い話でもしよう。先日、会社で話してみんなを寒くさせた実話だ。

 あのね、実家にいた頃の話なんだけど(ここから語り口調)、夜中に起きたの。私は熟睡するタイプだから、普通は一度寝たら朝まで起きないのに、その日はなぜかとてもとても喉が乾いてね。
 仕方なく起きて、真っ暗な中を1階まで降りて台所に行ったら……そう、こういう間取りでここのあたりなんだけど、そこから音がするんだよ。
 まあ、そこはゴキブリホイホイが置いてあったところなんだけどね。
 でも、闇夜の中、ゴキブリのカサカサいう音じゃない音が確かにしたんだ。そこから。
「チュウ」
って……。

 ここで、あたりは阿鼻叫喚の図になった。
 勇気ある後輩が、
「その後、どうしたんですか?」
と、聞いてきた。
「本当に聞きたい?」
と、念押ししたら、
「聞きたくありません」
と、あっさり退却。
 だから、ここでも詳しくは語らないことにする。
 しかし、本当に恐怖の一夜だったよ……。


2003/8/12

 『Puzzle』(恩田陸/祥伝社文庫)読了。
 恩田陸はパズラーだったのか、と、思った1冊。いえ、題名が『Puzzle』だからじゃなくって(笑)。

 学校の体育館で発見された餓死死体。高層アパートの屋上には、墜落したとしか思えない全身打撲死体。映画館の座席に腰掛けていた感電死体――コンクリートの堤防に囲まれた無機質な廃墟の島で見つかった、奇妙な遺体たち。しかも、死亡時刻も限りなく近い。
 偶然による事故なのか、殺人か?
 この謎に挑む二人の検事の、息詰まる攻防を描く驚愕のミステリー。

 ほらほら。ほらほらほらほら。パズラーなお話でしょ?
 人によって好みはあると思うけど、私は結構好き。150Pで、つるっと読めてしまうボリュームもいい。
 今回の主役は、『
象と耳鳴り』にも出てきた検事・関根春。(『六番目の小夜子』には弟の関根秋が登場している)
 そして今回登場の検事仲間、黒田志土。ひょろりと手足が長いスレンダーな体に黒づくめの服。端正な顔立ちにクセのある性格。
 ちなみに、私の脳内イメージは、ゲイリー・オールドマンだった。志土→しど→セックス・ピストルズの→「シド・アンド・ナンシー」……という、非常にわかりやすい連想による。
 しかし、読んでいたら、このゲイリー・オールドマン顔が、やおら聞くんですよ。

「クリームパンとあんパンとどっちがいい?」

 そして、黒い服のポケットからパンを二つ取り出したという(笑)。

 まあ、これはあまり本筋に関係なお話。物語は結構シリアスに進んでいく。
 最初に出てくるばらばらな記事の断片が、やがてきっちりとはまって絵になっていく。まるで、パズルのピースのように。
 こんなカタルシスを与えてくれるなら、やっぱり恩田陸にはミステリを書いて欲しいなあ。

cover


2003/8/11

 試写会に行く。
 最近、試写会づいているんだけど、ご案内のメールが来るんだもの。
 今回見たのは、完成したばっかりの「花」。
 見る前には知らなかったのだが、一昨年ガンで亡くなった相米慎二監督に捧げる作品らしい。

 物語は、野崎(大沢たかお)が動脈瘤を診断されるところからはじまる。
 脳の中の動脈瘤は放っておけば確実に死をもたらし、手術をしたとしても体に障害が出たり、記憶障害が出る場合もある。会社も辞め、何をしていいかわからない野崎に変わったアルバイトが持ち込まれた。
 国道1、2、3号を通って車で九州まで行く鳥越(柄本明)の運転手だ。鳥越は30年前に別れた妻・恵子(牧瀬里穂)の遺品を取りに指宿のホスピスを目指している。それはかつて鳥越が妻と新婚旅行でたどった道だった……。

 表テーマは、「記憶」だろう。
 鳥越は離婚して30年、ずっと妻に恋している。彼は10年一緒に暮らした妻の顔が思い出せない。たぶん、辛すぎて記憶を封印してしまっているのだろうと、思う。
 だから、妻の遺品を受け取るのがこわい。妻が残したものは何なのか。それは何を語るのか。鳥越はわからないまま国道を走る。
 国道の旅は、新婚旅行をたどる旅でもあるし、遺品を受け取るのを先延ばしにする旅でもある。切ない初老の男を演じる柄本明はさすがにウマイ。
 1時間46分の上演時間だったが、短気な私も全然飽きなかった。(ああ、でも、牧瀬里穂が10歳若ければ〜)
 物語は新婚の夏と現在と交互に進んでいく。
 過去の風景の方が色鮮やかだ。30年間連絡を取ることもなかった妻は、鳥越の思い出の中で今も若い。どこかくすんだ色の現在は、心象風景なのかもしれない。
 その中で野崎と鳥越が乗る4WDだけ、ぽつんと5月の空を切り取ったような水色できれいだった。車は相米監督の「風花」で使用したものだとか。

『花』 2003年秋公開
監督:西谷真一/原作:金城一紀(「花」より 小説すばる2001年3月号掲載)/脚本:奥寺佐渡子/音楽:村治佳織
出演:大沢たかお、柄本明、牧瀬里穂、西田尚美、加瀬亮、樋口可南子、南果歩、仲村トオル、椎名桔平他


2003/8/10

 もう、○○探偵というのは、すべて読破しようと……って前にも書いたな。(っていうのも前に書いた) 
 『とんち探偵一休さん――金閣寺に密室(ひそかむろ)』(鯨統一郎/祥伝社ノン・ノベル)読了。

 応永15年(1408)、初夏。賢才の誉れ高い建仁寺の小坊主一休に、奇妙な依頼が舞い込んだ。
「足利義満様の死の謎を解いてくだされ」
 将軍職を退いた後も権勢を誇り、ついに帝位までも狙った義満が、数日前、金閣寺最上層の究竟頂で、首吊り死体で発見されたという。現場は完全なる密室。しかし、義満に自殺の動機はなし…。一休は能楽者の世阿弥、検使官の新右衛門らの協力を得て推理を開始。そして辿り着いた仰天の結論とは…。
 推理界の新星が日本史の常識を飄々と覆す痛快無比の傑作!書下ろし長編本格歴史推理。

 井沢元彦の『天皇になろうとした将軍』を読んだから、足利義満がアニメの将軍様みたいに愛らしい人でないことは知っていた。
 あの藤原家も考えなかった皇位簒奪の野望を抱いた将軍である。現在、世界最古のロイヤルファミリーを誇る日本の天皇家も、義満の前にはその歴史をストップさせられていたかもしれないのだ。

 しかし、この本の義満はホントに悪役。
 ひとーつ、人の妻女を奪い。ふたつ、ふらちな悪行三昧。みっつ3代義満を、退治てくれよう桃太郎!
 おっと、番組も時代も違ちゃったよ。でも、この暴虐非道ぶり、本当に誰に殺されてもおかしくないよ、将軍様!
 義満の死の謎を解くのは、おなじみ一休さんとシンエモンさん、さよちゃん(この作品では茜だが、私の脳内映像はさよちゃん)。
 しかし、私は、この本を読んで、なぜアニメの一休さんが母上の作ったてるてる坊主に語りかけているのかわかりました。ついでに、ひとくさり「ははうえさま♪お元気ですか〜♪」と歌ってしまいましたよ。

cover


2003/8/9

 電車に乗っていて、持っていたペットボトルをぼんやり見ていた。
 
伊藤園の「純そば茶」の500mlペットだ。
 「韃靼そば100%使用」。
 韃靼(だったん)は中国北部の地方です、と説明がある。
 韃靼といえば、「真夏の夜の夢」でパック役の北島マヤが(というからには元ネタはシェイクスピア先生なのだけど)、
「ダッタン人の矢より早く!」
と、いってたっけ。
 これが同じダッタンなら、ダッタン人は中国北部からイングランドまで、ずいぶんと広域に渡って活動してたんだなあ。

 ……と、遠く大陸を渡る壮大な夢を見た、代々木=原宿間。
 なお、ダッタン人=タタール人だとか。


2003/8/8

 前から薬を飲んでいた石灰化した肩の痛みが引かない。
 最近、先輩達になぜか整骨院が大流行している。いわゆるカイロプラティックだ。流行ものに弱いし、悪いところもあるので行ってみた。

 会社の同期に
「カイロに行ってね……」
と、言ったら、
「えっ、エジプトに行ってたの!?」
と、驚かれた。週日休んでないのに。
 可能性があるとすれば週末だが、いや、ふつー、1泊2日で行かないだろ、エジプトは。


2003/8/7

 NYに行く前、行きたいところを聞いたら、同行のEちゃんは答えた。
Dean & DeLucaに行きたい!」。
  Dean & DeLucaは、NYの高級デリ(お惣菜屋)。たとえば、映画『ハンニバル』で、レクター博士が機内に持ち込んだランチボックスはDean & DeLucaのものだった。箱のDean & DeLucaの文字を見れば、この人は食にこだわりがある人だぞ、と、わかる演出になっている。
 でも、私達がNYに行ったのは映画が封切られる、ずっと前の話。小説の『ハンニバル』だって出版されてなかった。当時は、NYに行ったことがあるか、相当の食いしん坊さんじゃないと知らなかったはずだ。

 結局、NYではDean & DeLucaには行けなかった。
 そのDean & DeLucaが、丸ビル近くの三菱信託銀行本店ビルにオープンしたというので見に行ってみた。  いやあ、天井が高い。ついでに売ってるものの値段も高い(笑)。(紅茶が200gで2,000円ですってよ、奥様)
 店でお惣菜とかパンをいただけるのだが、そこではいただかず、丸ビルに行った。
 KUA`AINAというハンバーガーの店が気になってたんだよね。 確か、青山の骨董通りにもあって、前を通るたびに食べようかどうしようかと迷っていたのだった。
 マックでハンバーガー69円の時代に、880円〜という価格設定。でも、キッチリ作ったハンバーガーって美味しいんだよねえ。

 ちょっと迷って、BLT&アボガドのサンドイッチを注文。厚めのサンドをがっと大口を開けてほおばる。「とろり」「サクリ」「じゅわー」。全部が渾然一体でやってくる。焦げ目がついて半透明になった厚切り玉ねぎが甘くて香ばしくて美味しい。
 と、いうことで、つけあわせのフレンチフライまで全部(これも、サクっとパリパリでイケた)、きれいに完食した私デシタ。
 満足の一品だったが、ダイエットには悪そうだ(笑)。


2003/8/5

 BBSにニュースのURLを載せたのだけど、かわいいので日記にも残しておこう。

ムラサキのシロクマ  ブエノスアイレスから北西1100kmの動物園のシロクマが、皮膚病の治療のための薬で紫になってしまったそうだ。
 これがまた鮮やかな紫で(笑)。シュタイフがマイセンとコラボしていたクマか、おばさまのオシャレ染めか、っていう感じ。
 1ヶ月くらいで元の毛色に戻るらしいので、シロクマファンの方、ご心配なく。

 『試験に敗けない密室 ――千葉千波の事件日記』(高田崇史/講談社ノベルス)読了。
 シリーズものの第2作から読んだのが悪かったのか、イマイチだった。
 今回は中編だけど、第1作は短編集らしい。話の雰囲気と傾向として短編の方が合っている感じもするなあ。個人的に短編の方が好きだしね。(←すぐ読めるから←短気)

cover


2003/8/4

 『夏の魔術』(田中芳樹/講談社文庫)を詠んでみた。
 この作品は、はじめに徳間書店から出て、出版社が変わって講談社からノベルスで出て、今度は文庫化したという作品。前々から存在は知っていたのだが、思わず店頭で「くっそう」と言ってしまったよ。
 文庫化するのは別にいいのだが、このシリーズ(そう、シリーズなんですよ)の装丁は、ふくやまけいこなんですね。今まで3回出て、そのすべてがふくやまけいこ書き下ろしの表紙と口絵という、ふくやまファンにとって、非常にアコギな商売っぷり(笑)。
 ちなみに徳間書店版と講談社ノベルス版も表紙イメージを載せときましょう。
 まだ3種とも手に入るので、ファンはコンプを目指してください。

徳間ノベルス版   講談社ノベルス版   講談社文庫版

……っと、内容に触れてなかった(笑)。

 夏休み。一人旅に出た大学生の耕平は、自称家出少女の来夢ら見知らぬ男女八人と汽車に乗り合わせた。乗客を閉じ込めたまま夜の闇を走り続けた汽車は、彼らを奇怪な洋館へと導く。邪教の支配するこの世ならぬ世界で、次々と襲い来る異形の影の狙いは、謎の美少女・来夢なのか?
 長編ファンタジック・ホラー。

 だそうです。

cover


2003/8/3

 ふと、思い立って読んでみた『11人いる!』(萩尾望都/小学館文庫)。
 70年代に描かれた、SF者なら知らない人はいないほどの作品。

 物語は、宇宙大学の入学試験が舞台になっている。最終試験は10人1組で宇宙船で53日間過ごすというもの。しかし、宇宙船に乗りこんだ学生が人数を確認すると11人いる。イレギュラーな11人目は誰なのか。試験事務局のミスか、それとも11人目は何かの目的があって、身分をいつわっているのか……。

 むむむ、うまい。
 確かに描かれた年代というのを反映してて、異星人が全部ヒューマノイドなのはどういうことよ、とか、色々ツッコミどころはあるのだけれど、優れたサスペンスなのは間違いない。なにしろ、シーンのひとつひとつに無駄がない。優れたドラマ作りのお手本を見るかのようだ。
 物語の構造は「嵐の山荘」であり、「グランド・ホテル」。
 閉鎖空間の中で受験生達に次々と難問がふりかかる。それぞれに試験を受けに来た理由も違うし、性格も違う。題名通り11人いるのだ。性格の違いを11人描きわけているあたりは、素晴らしい。
 アタリマエとかあんまり思っちゃいけないよ。少女マンガで、11人もの人物の書き分けが出来てる作家の方が珍しいんだから。

   まあ、こんな穿った見方をしなくても、秀作サスペンスと思って見ればオッケー。
 今回、読んでみて思ったけど、萩尾望都ってキャラクターに寄り添わずに、神の目線で描いている感じがする。主人公のモノローグがあっても、そういう感じがする。非常に横山光輝に近い感じ。

cover


2003/8/2

 掃除をした。
 昨日は夜中3:30まで片付けをして、限界が来たので寝て、朝7:30に起きて朝ご飯を食べてからまた掃除。
 なぜ、ここまで真剣に片付けているかというと、建物の点検が入るからだ。
 考えれば2週間前も同じことをしていた。その時は火災報知機の点検だった。火災報知機はトイレ、風呂以外のすべての部屋についているので、そりゃもー、泣きながら片付けたものさ。(誰に語っているのだ>自分)
 あれから2週間で散らかす私も私だが、こんなに立て続けに点検が入るスケジュールもスケジュールだ。
 何しろ、そのまた2週間前には自治会が「1級建築士さんに建物の設計施行上の不備不具合を見てもらっちゃおうデー」という催しもやったんだもの。無料だったら見てもらっちゃうじゃないですか、やっぱり(笑)。面白いし。
 だから、なんだか最近、2週間ごとにフラフラになりながら片付けをしている。
 ついでに2週間後、補修工事をしてくれるらしいので、また人が立ち入る予定になっている。それまでに散らかさないでコマメに片付けていればいい話なんだけど……ねえ?


2003/8/1

 最近、対談がメールで送られてくる。
 仕事の関係で「登録してください」と言われた
イー・ウーマンというサイトのコンテンツで、佐々木かをりの対談を掲載しているのだ。
 興味がなかったり、忙しい時は読まない。メールとして来るのは10KB分くらいのものなのだけど、「続き」をクリックして全部読もうとすると、かなり量がある。今回のなんて全部で16Pもあった(笑)。

 今週のゲストは西樹氏。
 株式会社花形商品研究所代表取締役で、情報サイト「シブヤ経済新聞」を開設している。……って、なぜプロフィールを語っておくかというと、シブヤについての発言で面白いところがあったから。

 実態の渋谷を見ていると、コンテンツ力というものがあると思うんですよ。ミニシアターにしても、音楽にしても、ファッションにしても。コンテンツ力があるということは、多分「エイジレス(=ageless)になっていくんじゃないかなと。
 だから大人とか子どもという世代の切り口というのは、あまり関係なくなってきていると思います。世の中がヨーロッパ的になっていくとすると、このコンテンツがあれば、別に10代の人がいても、40代のおじさんがいても、そういう街のほうが僕は成熟度が高くなっていくような気がするんですね。

 気がついてみるとなるほどで、成熟度っていうのは個人によって違う。
 読書も、10代で非常に成熟した読み手もいれば、中高年でそうでもない人だっている。
 これだけ好みが細分化して、探せば色々なものが手に入るようになった今、成熟度というのはある程度自分で選べる時代なのだろう。
 でも、文化の成熟度と魂の成熟度はまったく別問題。



▲7月の日記へ │  ▼HOME │  ▲9月の日記へ

1