店主の読書日記 MAY2002

2002/5/10

 資料か、ただの読書か微妙なところだが、『隠された聖地−マグダラのマリアの生地を巡る謎を解く−』(ヘンリー・リンカーン・荒俣宏監修・平石律子訳/河出書房新社)読了。
 ひとことでいうと、フランス版徳川埋蔵金。いや、ブツがキリスト教関係なので、ちょっと乱暴すぎるか。
 この本の主役、レンヌ・ル・シャトー(Rennnes-le-Chateau)は1960年代まで西フランスの静かな寒村でしかなかった。それを一躍有名にしたのは著者のリンカーン。彼はTV番組の脚本家で、レンヌ・ル・シャトーとそれにまつわるミステリーを歴史探訪番組に仕立てたのだ。それからが大変。
 レンヌ・ル・シャトーに大河ドラマのゆかりの地を訪れるように山ほどの人が来て……と、いうことからわかるように、レンヌ・ル・シャトーは新しいミステリー・スポット。
 まず、1885年にレンヌ・ル・シャトーに配属された司祭の話からはじめよう。彼の名はベランジェ・ソニエール。配属された翌年に、彼は教会の柱の中から古い羊皮紙を発見する。貧乏な(金銭出納帳が残っている)司祭のソニエールは、次のシーンでは荒れた教会を建て直し家具や壷に湯水のようにお金を使う金満家になっている。なんて、不思議!
 あやしい。ソニエールに何があったのか。
 で、通常思い当たるのは、あの羊皮紙だ。柱の中から発見された、いわくありげな羊皮紙。あれは、もしかして宝の地図なんじゃ……というのが、現在まで続くレンヌ・ル・シャトーの謎。
 本書はリンカーンの3冊目の本で、新しい発見について述べてある。
 またひとことで乱暴にまとめると、レンヌ・ル・シャトーとまわりを取り囲む高台や教会は五芒星に配置されてるということ。建築物はオッケーとして、山の頂上がそこにあるというのは、どういうことよ。
 ……と、リンカーンはいいたいらしい。
 しかし、この本、結構冗長。監修の荒俣宏が、「私の判断で一部割愛した」というのもよくわかる。
 解決編のない推理小説みたいで、満たされない思いでいっぱいだ。
 一番面白かったのは、荒俣宏の序文だったりする。

 でも、読み始めは、確かになにかが私をわくわくさせていた。
 この本の表紙にはプッサンの「アルカディアの羊飼いたち」が使われている。ソニエールはルーブルで2枚の複製絵画を買ったといわれ、その1枚がこれ。
 割と有名な絵なので、ご覧になったかたも多いだろう。
 この絵にも謎が隠されていて……っていうのは、面白くありませんか? 何しろルーブル美術館収蔵、一般に公開されている。図録や教科書や、ありとあらゆる書籍に掲載されてもいる。
 こういう、全世界に人に何世紀も見せておかれながら誰も知らない謎……というのは、つくづくロマンだと思うのだが……どうだろう?



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