好き好き、西澤保彦 |
七回死んだ男 西澤保彦 講談社 |
■STORY■ 僕の名は大庭久太郎(おおばひさたろう)、愛称・キュータロー。(不本意) 頭もよくないし、顔も十人並み、といった僕だが、極めて珍しい体質を持っている。 それは時の"反復落とし穴"に落ちてしまうこと。自分の目から見ると、同じ日が都合9回 繰り返される。そしてそれを認識しているのは僕だけ。9回目の「今日」に起こったことが 「明日」につながるので、上手く使えば入試だって思いのまま。 さて、新年恒例で祖父・渕上零治郎の家に集まった僕は、そこで"反復落とし穴"にはまって しまった。しかも、祖父が何者かに殺されて・・・。 ■COMENT■ ついに登場、私がイチオシの作品です。 この作品を再読してみて、推理小説というのはつくづくミス・ディレクションがいかに上手いか、 に尽きる気さえしてきました。私は、中学の頃読んだ辻真先作品の「・・・『あっ』と驚いてから 『ふむふむ』と納得するのが好きだった。難しく言えば、意外性と論理性だ」という文(すみません 原本が手元にないので、意訳です。まるっきり違っていたら申し訳無いっ)に本当に感銘を 受けました。そしてX年、年季の入ったミステリファンとなった今も、日々その思いを新に しております。 つまりは、この意外性と論理性をものすごーく満足させてくれるのが西澤作品なワケですね。 意外性といえば、これほどもない数々の設定。そしてそんな状況設定の中で繰り出される謎解き。 私の心がキューッとわしづかみにされたのも無理もありません。 今回は、その設定からして秀逸です。 良く出来たコメディ映画を見ている気にさせてくれるミステリ。なかなかありませんよん。 (99.08.24)
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人格転移の殺人 西澤保彦 講談社 |
■STORY■ カリフォルニア州S市に、通称"セカンド・シティ"と呼ばれるCIAの軍事施設がある。 正式名称"スイッチング・サークル(入れ替わりの環)"のそこは、入った人間の意識が入れ替 わってしまうという、宇宙人が作った(と、思われる)へんてこりんな場所であった。 時は流れて十数年後、軍事施設はなんとショッピング・モールになっていた。 そこに大地震が起こって…。 ■COMENT■ 犯人はずばりXXです。と、いっても、この作品に限ってはミステリのマナー違反になりません。 今回は、宇宙人の作った(と思われる)ナゾの装置が登場!これは、中に入った人間の 意識を入れ替えてしまうという、奇妙キテレツなもの。17才の少年の体に80才のおじい さんの心が入ってしまったりするわけです。(ああ、本当にこれは推理小説のレビューな のだろうか…)しかも、入れ替わったまんまだったら、まだいいのに、入れ替わりは不意 にまた起こり、死ぬまで意識の入れ替わりは終わらないという…。 だから、この小説の犯人はXXです。と、公言してもいいのです。だって外側がXXで も、中味は別人なんだもーん。 ところで、この小説のヒロイン(と、言っていいのか)ジャクリーン・ターケル。初め て読んだ時、なんてイヤな女なんだろう、と、思いました。が、今回読んでみたら、そう でもない。そういえば、こんなことは前にもありました。ええ、あの人。 峰不二子ちゃん。 彼女には、がんばって欲しいです。女が一人で生きていくには大変なんだから(笑)。 (99.08.05)
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瞬間移動死体 西澤保彦 講談社 |
■STORY■ 妻は人気作家。俺はそんな景子に食わしてもらっている怠け者。 俺は、性格にちょっと難のある景子を心から愛しているのだが、あいつは、とうとう言ってはならない禁句を言ったのだった。景子を殺そう。ちょっとロスまで行って。 アリバイは大丈夫。だって、俺ってテレポーテーションが使えるんだもーん。 ■COMENT■ ひきょう!犯人(予定)が瞬間移動の超能力者だなんて、これ以上ないひきょうっ!(笑) ・・・と、思うとこでしょうが、さすが西澤氏、たーだーのご都合主義の超能力ではありません。 「俺」の超能力には、いくつもお約束があって・・・。と、まあ、こんな具合。 しかし、今回のレビューのために再読して、私は感動いたしましたね。 主人公は、みずから怠け者と自覚している。 こ、これは、日頃「キング・オブ・ぐーたら」を名乗る私に、なんて親近感を与えるのでしょう! (感動のあまり、いささか英語の和訳くさい文)特にスバラシイのが、次の一文。 『しかし、それは心得違いというものだ。怠け者という奴は、怠けるためならば、それこそ血の滲む努力を怠らないものなのだ。』 そうです。これこそ怠け者の心の叫び!例えば、私は仕事が好きじゃないので、仕事をしないためなら多少の仕事はいとわない。これっすね! しかし、なぜこんなに怠け者の心情がリアルに描写できるのでしょう。もしかして・・・。 (99.07.26)
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