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好き好き、西澤保彦

今のところ、日本の推理小説でヒイキしているのが西澤保彦。
この人ときたら、テレポートができる犯人や超能力で作られた密室なんていう
『推理小説の書き方』で禁じられてる手をバシバシ使ってしまいます。
それでいて、絶対の推理小説。ずるっこなし!
その軽妙さとパズルとしてのおもしろさは、日本の小説の中でも
白眉だと思うのですが、いかかがでしょう?


七回死んだ男
西澤保彦 講談社
COVER
STORY
 僕の名は大庭久太郎(おおばひさたろう)、愛称・キュータロー。(不本意)
 頭もよくないし、顔も十人並み、といった僕だが、極めて珍しい体質を持っている。
 それは時の"反復落とし穴"に落ちてしまうこと。自分の目から見ると、同じ日が都合9回 繰り返される。そしてそれを認識しているのは僕だけ。9回目の「今日」に起こったことが 「明日」につながるので、上手く使えば入試だって思いのまま。
 さて、新年恒例で祖父・渕上零治郎の家に集まった僕は、そこで"反復落とし穴"にはまって しまった。しかも、祖父が何者かに殺されて・・・。
COMENT
 ついに登場、私がイチオシの作品です。
 この作品を再読してみて、推理小説というのはつくづくミス・ディレクションがいかに上手いか、 に尽きる気さえしてきました。私は、中学の頃読んだ辻真先作品の「・・・『あっ』と驚いてから 『ふむふむ』と納得するのが好きだった。難しく言えば、意外性と論理性だ」という文(すみません 原本が手元にないので、意訳です。まるっきり違っていたら申し訳無いっ)に本当に感銘を 受けました。そしてX年、年季の入ったミステリファンとなった今も、日々その思いを新に しております。
 つまりは、この意外性と論理性をものすごーく満足させてくれるのが西澤作品なワケですね。
 意外性といえば、これほどもない数々の設定。そしてそんな状況設定の中で繰り出される謎解き。 私の心がキューッとわしづかみにされたのも無理もありません。
 今回は、その設定からして秀逸です。
 良く出来たコメディ映画を見ている気にさせてくれるミステリ。なかなかありませんよん。
(99.08.24)

人格転移の殺人
西澤保彦 講談社
COVER
STORY
 カリフォルニア州S市に、通称"セカンド・シティ"と呼ばれるCIAの軍事施設がある。
 正式名称"スイッチング・サークル(入れ替わりの環)"のそこは、入った人間の意識が入れ替 わってしまうという、宇宙人が作った(と、思われる)へんてこりんな場所であった。
 時は流れて十数年後、軍事施設はなんとショッピング・モールになっていた。
 そこに大地震が起こって…。
COMENT
 犯人はずばりXXです。と、いっても、この作品に限ってはミステリのマナー違反になりません。
 今回は、宇宙人の作った(と思われる)ナゾの装置が登場!これは、中に入った人間の 意識を入れ替えてしまうという、奇妙キテレツなもの。17才の少年の体に80才のおじい さんの心が入ってしまったりするわけです。(ああ、本当にこれは推理小説のレビューな のだろうか…)しかも、入れ替わったまんまだったら、まだいいのに、入れ替わりは不意 にまた起こり、死ぬまで意識の入れ替わりは終わらないという…。
 だから、この小説の犯人はXXです。と、公言してもいいのです。だって外側がXXで も、中味は別人なんだもーん。
 ところで、この小説のヒロイン(と、言っていいのか)ジャクリーン・ターケル。初め て読んだ時、なんてイヤな女なんだろう、と、思いました。が、今回読んでみたら、そう でもない。そういえば、こんなことは前にもありました。ええ、あの人。
 峰不二子ちゃん。
 彼女には、がんばって欲しいです。女が一人で生きていくには大変なんだから(笑)。
(99.08.05)

瞬間移動死体
西澤保彦 講談社
COVER
STORY
 妻は人気作家。俺はそんな景子に食わしてもらっている怠け者。
 俺は、性格にちょっと難のある景子を心から愛しているのだが、あいつは、とうとう言ってはならない禁句を言ったのだった。景子を殺そう。ちょっとロスまで行って。
 アリバイは大丈夫。だって、俺ってテレポーテーションが使えるんだもーん。
COMENT
 ひきょう!犯人(予定)が瞬間移動の超能力者だなんて、これ以上ないひきょうっ!(笑)
 ・・・と、思うとこでしょうが、さすが西澤氏、たーだーのご都合主義の超能力ではありません。 「俺」の超能力には、いくつもお約束があって・・・。と、まあ、こんな具合。
 しかし、今回のレビューのために再読して、私は感動いたしましたね。
 主人公は、みずから怠け者と自覚している。
 こ、これは、日頃「キング・オブ・ぐーたら」を名乗る私に、なんて親近感を与えるのでしょう! (感動のあまり、いささか英語の和訳くさい文)特にスバラシイのが、次の一文。
 『しかし、それは心得違いというものだ。怠け者という奴は、怠けるためならば、それこそ血の滲む努力を怠らないものなのだ。』
 そうです。これこそ怠け者の心の叫び!例えば、私は仕事が好きじゃないので、仕事をしないためなら多少の仕事はいとわない。これっすね!
 しかし、なぜこんなに怠け者の心情がリアルに描写できるのでしょう。もしかして・・・。
(99.07.26)

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