私的2003年ベスト10

 私的ベストも3回目となり、やっとちょっと自慢できるかも。
 昨年を振返ってびっくりしたのは、いつもにもまして新刊本を読んでいないこと。話題になっているとかいうことはどうでもよくて、読みたい時に読みたい本を読んでいる結果だろう。(人様の参考にあまりならないのは申し訳ない)
 昨年は気分的に海外翻訳でなかったらしく、あまり冊数を読んでいなかった。読了数が素直に結果に出たな、という感じ。
 今年は海外翻訳強化年間にしようっと。
 
奪取  (真保裕一/講談社文庫)

 やっぱり昨年の一番はこれだろう。とにかく面白くてぐいぐいと引っ張る力があった1冊(正確には上下巻なので2冊だが) 刊行直後に読まなかったのがもったいないような面白さだった。……って、昨年の『ボーン・コレクター』も同じようなこと書いてますね(笑)。
 徹底的な取材はもとから定評がある著者だが、私が驚いたのはそのエンターテイメント性。ブレイクする前の地味な作風の印象を持ち続けていたのをひっくり返された。痛快コン・ゲーム


邪馬台国はどこですか?  (鯨統一郎/創元推理文庫)

 バカミスの鯨統一郎から入ってデビュー作に戻ったら、意外な面白さだった作品。
 私の点数が甘くなるのは、これが歴史ミステリであるところ。バーに集まる人の会話から常識をくつがえされる真実が証明されて……といった連作短編だが、1本のネタを元に長編のひとつくらい書けそうなので思い切りいいなあ、というのが素直な印象。もう一回こういう作品を書いてくれないものか。


ゴッホ殺人事件  (高橋克彦/講談社)

 高橋克彦、久しぶりの絵画ミステリ。デビューが江戸川乱歩賞の『写楽殺人事件』だし、研究家の側面もあるし、海外の画家がテーマになるとは意外だった。でも、考えてみれば、ゴッホは浮世絵にインスパイアされて日本らしい景色(と、ゴッホが考えた)南仏に移住した画家。ちゃんと繋がりはあるのだった。
 たぶん、ゴッホは日本人に一番知られている作家だろうと思う。そういう画家の意外な真実って逆に書きにくいと思ったが、いやいやどうして。知られていることを逆手に取られた感じだ。


街の灯  (北村薫/文藝春秋)

 北村ファンとしては入れたい一冊。日常の謎でデビューした北村薫がストーリーテラー方面に進みはじめた意欲作……と、思うんだけどどうだろう。
 今回も日常の謎といってもいいが、物語の舞台は昭和7年。日本にクラスが存在した時代のお話だ。失われたモダン東京の姿を楽しめるのもウリ。ベッキーさんの正体ってなんなんだろう。


Puzzle  (恩田陸/祥伝社文庫)

 私的に今年の下半期を恩田陸強化月間にしたポイントの1冊。絶賛されたデビュー作のホラー、私はあまりはまらないまま来てしまったので、今年が恩田陸再発見イヤーとなった。
 きちんと考えなおすとミステリ的に非常に優れているか、ちょーっと疑問が残るが、「ライス的なミステリの楽しさ」を押さえているということでは評価していいんじゃないかなあ。


 ミステリは以上。エンターテイメントからは……
 
聖霊狩り  (瀬川貴次/集英社コバルト文庫)

 『精霊狩り』1冊ではなく、シリーズで評価。瀬川ことび名義の『お葬式』にしようか迷ったのだが、冊数が多いのでこっちを入れてみました(笑)。あとは、ヒロインの一人の萌ちゃんのキャラクター。この本を読むと、一般人にとって「やおい少女がいかに破壊力があるか」がわかると思う。
 私的ベストの中で唯一のライトノベル。キャリアが長いのに勢いが衰えないのはスゴイ。


堪忍箱  (宮部みゆき/新潮文庫)

 どうも2002年に『模倣犯』を読んだせいか、お腹いっぱいになって「宮部みゆきはしばらくケッコー」状態が続いていた。小品だったらいけるかな、と、手に取った時代物の短編集。
 やっぱり宮部みゆきはうまいです。


上と外  (恩田陸/幻冬舎文庫)

 和製グリーンマイルを意識した隔月文庫刊行作品。全6巻。4巻くらいまでは年間ベストに入るとは全然思わなかったのに、最後の2巻でヤラレタ。
 標榜してないが、「10代の魂に語りかける物語」と言っていいと思う。これを読んだので、宮部みゆきの『ブレイブ・ストーリー』を読んでみようかと思ったり。


センセイの鞄  (川上弘美/平凡社)

 まあ、こういうものもたまには(笑)。
 恋愛小説なんてほとんど読まない私が読んだ貴重な1冊。しかし、「恋愛小説とか好きなんですー」とウソをついたとして、「どんな本?」と具体的に聞かれたら1冊しか言えないよ。しかも、男女の年齢差30歳以上という……。
 WOWWOWでドラマ化もされました。


 ノンフィクションでこれを入れるのはどうかと思ったが、
 
海洋堂クロニクル  (あさのまさひこ/太田出版 )

 とにかく圧倒的な分量の本だった。チョコエッグが出るまで存在すら知らなかった海洋堂という会社に一気に詳しくなってしまった。ちなみに村上隆という名前を初めて知った本でもある。
 これを読んで、「『オタクという生き方』を選ぶなら根性入れていかないとイカンのだなあ」と思った、ある意味人生の指南書でもある。あんまり参考にしないけど。


 以上、きわめて私的ベスト。
 今年もいい本に巡り合えますように。

(2004.01.08)

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