私的2002年ベスト10

 昨年に引き続き、2002年に私が読んだ本という基準のベスト10です。
 一昨年に比べて、第一次選考で(←そんな大したもんかいっ)あがった本は15冊。それだけ豊作な年だったんでしょう。
 ところで、ノンフィクションを結構読んだのにベストにあげられたのは1冊だけ。読んだものにちょっと偏りがあったものねえ。やっぱり猟奇殺人ものはオススメしにくいのよ、いくら私でも。
 
ボーン・コレクター  (ジェフリー・ディーヴァー、池田真紀子訳/文藝春秋)

 とうとう今年は去年の『極大射程』みたいなケッサクには巡り合わなかったな〜、と、思っていたら最後の最後で大ヒット。
 出版直後から傑作の評判が高かったのだが、なぜだか未読のまま数年経過。今まで読まなかったのがもったいないような作品だった。徹底的な取材、魅力的なキャラクター、ジェットコースターのようにスピード感とうねりのある話。こんなにバランスのいいミステリは久しぶりに読んだ。
 ディーヴァーみたいにに書ける才能が、どっかに売ってないかなー(笑)。


象と耳鳴り  (恩田陸/祥伝社)

 ミステリでありながら、『ボーン・コレクター』とは正反対のような作品。まず連作短編集であること、登場するのは基本的には市井の人であること、そして、刑事事件もあるが多くは日常の謎であること。
 だからといって見劣りするとかそういうことはない。ハリウッド超大作に対する小津作品のようなものだ。好きな人にはたまらない作品だと思う。


模倣犯  (宮部みゆき/小学館)

 今年の映画公開に合わせたわけではないが、読むのが遅くなった。でも、個人的にはいいタイミングで読んだと思う。
 こんな風にみっしりと厚い、取り上げる人間関係や人物も厚みのある本は、ある程度読み手の体力を必要とする。こってりとした料理に向かうようなものだ。ただ、気力と体力が充分なら、決して読み手を失望させない作品。


ハサミ男  (殊能将之/講談社ノベルス)

 前々から面白いということは聞いていたけど(って、こんなのばっかりじゃん(笑))、本当に面白かったメフィスト賞受賞作品。(メフィスト賞はハズレも多い)
 昔、推理小説は犯人がわかってもう一度読むと違った世界が開けたものだった。その感覚を久々いに思い出した快作であり怪作。


なつこ、孤島に囚われ。  (西澤保彦/祥伝社ノンポシェット)

 ミステリとしての出来はともかく(ともかくかいっ)、森奈津子という作家を私に教えてくれた意味で、今年もっとも貢献度が高かった作品。
 西澤作品としては、『異邦人』あたりをランクインさせようか悩んだんだが、結局、これのインパクトに及ばず。まあ、魅力的なヒロインを描いている……という言い方もできるわな。


 ミステリは以上。今年はSF作品もランクイン。
 
西城秀樹のおかげです  (森奈津子/イースト・プレス)

 で、『なつこ、孤島に囚われ。』ではじめて森奈津子を知った私が、モリナツ・ショックを受けたのがこれ。終末SF作品としては日本最強なのではないか?(そう思うのは私だけですかそうですか)
 読むと、西城秀樹ベストなんか聞きたくなることうけあい。


さよならダイノサウルス  (ロバート・J・ソウヤー、内田昌之訳/ハヤカワ文庫SF)

 宇宙船が出ればSFではない、ということを雄弁に教えてくれる作品。SFをSFにしているのは、なによりもセンス・オブ・ワンダーなんだから。センス・オブ・ワンダーの意味は、まあ読んでみればわかるはず。
 言葉を喋る恐竜の正体は○○○なんだよ〜、といいたい。うずうず。


 昨年はちょっと意識してファンタジーと児童文学も読んでみた。
 
緋色の皇女アンナ  (トレーシー・バレット、山内智恵子訳/徳間書店)

 子供向けの本として出版されているのがもったいないような内容だった。ピザンチン帝国の王女の話……っていうの自体が珍しいし、内容も大人の鑑賞に充分堪える。こんな作品が普通に子供向けの作品として書かれるあたり、イギリスの児童文学はまったく油断がならない。


ゴースト・ドラム−北の魔法の物語−  (スーザン・プライス/ベネッセコーポレーション)

 とうとう我慢できなくて、絶版本ベスト10に登場。たぶん、どこかでは読めるはずなので機会があればぜひ読んでみてください。この作家がたいして注目されないあたり、日本のファンタジー文学界って、やっぱり分母が小さいんだろうなあ。


 唯一のノンフィクションがこれ。
 
アニメーションの色職人  (柴口育子、保田道世/徳間書店)

 これは本としての出来より何より、アニメーションの色職人である保田道世さんに敬意を表して。
 黎明期からたずさわって、現在世界に自信を持って輸出できるまでになった日本のアニメーションは、こういう方達の1人1人が発展させたものだと思う。もちろん、ノンフィクションとしても面白いけれど。


 以上、きわめて私的ベスト。
 今年もいい本に巡り合えますように。

(2003.01.10)

■前回のおすすめを聞く   ▼HOME
1