あしとくち特別ふろく
悲しみの閉店くんたち。


ときはすぎ、ひともとりも移り変わってゆきます。あるものは残り、あるものは消えてなくなる。とてもしぜんなことです。うつくしいあの山の、おいしいみをたくさんつけてたあの木も、こころないひとの手できられてしまいましたよ。でも、やっぱり、からだをこすりつけてじぶんのにおいをつけた、親しみのあるばしょがなくなっていくのをみるのは、つらくてくるしいのです。すのなかのいきものはきえて、ぬけがらだけがのこる。でも、そんなぬけがらをみて、時々とりはおもいます。くろうしてつくったじぶんのすを、たたまなければいけない。それは、どんなきぶんなのでしょうか。そして、たたんだあと、彼らはどこへいくのでしょうか。森へかえるのでしょうか。いつのひか、まちにもどってきてほしいものですね。

ちちっ、というわけで、「閉店くんたち」。ひとつのおみせがかつてそこにあったってことは、その場所のささやかな歴史だとおもいます。そして、それぞれのおみせには、かつておとずれたわたくしなりのストーリーがあります。がいどにはならないけど、そんな小さなことをいくつか、ここにかきためてみましたよ。


・ACB(あしべ)ばー  
カクテルバー  
JR新宿駅西口
住友三角ビル52階  

たかくとぶ。ゆめですね、みんなにとって。すをたかい処につくってしまえば、ずっとたかいところにいられるのです。すばらしいことです。けど、たかいところはあんまりなくって、あってもつよいものたちにうばわれています。よわいものはあまりたかいところにはのぼれない、それが自然のきまりなのです。でもこのバーは、よわいわたくしたちにもとまるところをわけてくれた、とても良いおみせでした。ふかふかのいすにすわり、ろうそくのともるいい雰囲気のほの暗い店内から窓の外をみおろす。そこにひろがる新宿の野鶏、おっと夜景は、わたくしもいつかきっとそらたかくまいあがるんだ、っておもわせてくれたものでした。いろいろのカクテルはおいしいというほどじゃないけど600円とかの安さ、チャージもたしか500円。ぢめんで飲むよりもやすかったのです。でも、しずかになってしまいました。がんばっていたのに…。まわりの会員制のすなんかのいきものたちにつつかれて、この心の広いやどりぎは三角形のビルからおっこちてしまったのでしょうか。

・バルバッコア グリル渋谷店(?)  
シュラスコ/カリブ風バー  
JR渋谷駅ハチ公口・公園通り
渋谷区宇田川町20-15ヒューマックスパビリオンB1?  

いつの世も、すづくりとはたいへんなものです。いちばん大切なこと、それはやっぱりなごめるかどうかではないでしょうか。かれえだとか、いしころとか、いろんなものをあつめて、かたちにするのはひとくろう。へんにおおきかったり、ごうかだったりするものは、こころをやわらかくつつみこんでくれないのです。

ばぶるとひとがいうあの時代、つめたいたてものがいっぱいふえました。それでもひとやとりはうかれて熱くって、丁度いいくらいだったのですね。それからしばらくの時が過ぎみんなもぬるくなって、あのつめたさが痛くなったとき、からのいすが増えていきました。わたくしがここを訪れたのは、そんな嵐のあと。あんなに人気のあったシュラスコ料理も勢いを失い、それぞれの店がそれぞれのあらたな方向をさがしているときでした。このおみせも例外でなく、下の階をカリブ風のバーとして営業していたのです。

でむかえてくれたのは、長いまき毛や茶金の毛のはえたおおきなとりさん(?)。ここにすんでいるのでしょうか?カリブのテラスにありそうな籐のやねと椅子があしらわれたひろーいおみせには、数組のつがいがぽつ、ぽつ。よけい、ひろくかんじますよ。とりあえずわたくしはカクテル「針葉樹林」をたのんでみました。するとさきほどの彼らが、めずらしかったのでしょう、ちょっとだけのませて?とつついてくるではありませんか。わたくしはこころよくえさをわけあたえました。彼らはおもしろがっていたようです。さて、おつまみですが、大ばこなので、量も多くなかなか工夫をこらしていていました。が、カリブ風かどうかは、とりにはわかりません?そのまさに2、3ヶ月後のことです…すは、ぬけがらになっていました。

・Le Cafe Et Vous  
カフェ  
JR渋谷駅ハチ公口
渋谷区神南1-13-2  

冬になると、冬のあったかいはね。夏には夏の、すずしいうぶげ。きせつそれぞれ、いろとりどり、さまざまなころもをまとっていたいとこころからねがうのです。そんなてだすけをしてくれるのが、12ヶ月ビル斜め向かいの「エ・ヴー(Et Vous)」というおみせ。ちょっとへんなかたちの一軒家?ビル?です。シンプルで上品さただようスタイルのものが身上。いいしごとしてます。おねだんはちょっとだけいじわるですが。ちなみに最近おす用もはいりましたね。

そうしたはいせんすやかたの2階に、むかしカフェがありました。本国フランスからの指示に忠実につくったという内部はおふねのなかをイメージしていたといいます。木のいいかんじと欧州のバーのくすんだふんいきがとてもここちよく、しばしばわたくしもねぐらにしていたものでした。しかも、しかもです。フランス式の深煎りのおいしいコーヒーと、チェーンのみせにはまねできない芸術品のようなうつくしいケーキがついて1000円ですよ?そう、こんなごうかなかくれがに、えさに、もう逢えないのです。いまはなにがあるでもなく、ただのエ・ヴーのそうこになっていて、ふくがどかどかと置いてあります。なぜやめてしまったのでしょうねえ…にどとうごかないのですかねえ…?おみせのよこのかわいい階段と、もう点くことのない電飾のもじが北風にさらされているのをみるにつけ、わたくしのむねにくはしめつけられてやみません。きゅう。

・東京バモラ!!(ル アチ アチ/のみ食い市場/ラシンバー)  
シュラスコ料理+アジア鍋+バー  
京王線笹塚駅  
渋谷区笹塚1-50-1  

新宿から京王線にのって八王子をめざすと、くらいあなのなかをぬけてほっとするのが笹塚のあたりです。そのむかし、光に包まれたおおきなすがそこにあったのでした。名前を、東京バモラ!!。いまでははづかしいそんなせりふを叫んだ球蹴りのひとが代表落ちしなかった時代のことです。道路をはさんで向かいにある、あんぱんとカレーで有名な中村屋が一枚かんでいたようですが、とにかくおおげさなライトアップや派手な建築はいやでもひとやとりのめをひくものでした。どこぞのデザイナーにてきとうにやらせた店内にはいくつかのフロアがあって、そのなかでもメインはシュラスコ料理(ル・アチ アチ)というかんじ。しゅらすこ。にくばかりくらうのはどうもうないきものなのだなとばかりおもっていました。どうもうだから、金のネックレスや人混みのディスコやでかいケータイがにあっていたのだな、と。そういった猛禽類のじだいをばぶるとよぶとしたら、まさにこのたてものはばぶるをだいひょうするものだったのでしょう。

けれどもそれはぱちんとはじけ、バモラもいろんな方向に手をだしてゆきます。あじあなべ、かれーばいきんぐ。テーブルをめぐる、ぶらじる楽団。バー「ラシンバー」はいちはやくつぶし、さらに2階をへんなふくやにかしたりして、いきのびようとがんばりました。わたくしたちのせかいでは、えさのうまくねだれないこどもから死んでゆくのはあたりまえ。けどやっぱり、だめだったのです。あわから栄養をもらっていたのだから、それがはじけてはおわり。一時期はよやくでいっぱいだったこのおみせも、さみしくまくをひいてしまったのでした。あんなにかがやいていた光の巣も、いまでは中村屋の倉庫みたいなもんになっちゃって。今のこの辺り、ひっそりしています。ゆめなど、さめてしまえばこんなものなのでしょうね。

・La Pachanga  
メキシコ料理  
JR渋谷駅ハチ公口・公園通り  
渋谷区神南1-16-7神山ビルB1  

せっかくいっしょうけんめいきのうえにすをつくっても、そのきがくさっちゃったりきられちゃったりしたら、そこにすむものたちはどうしようもありません。でてゆくしかないのです。わたくしのばあいはじめんだし、かんたんなのでだいじょうぶですが。そうですかんたんなほうがとくをするのですよ?

めきしこ。さぼてん。まらかす。てきーら。こんなものしかおもいつかないです。そのくらいめきしこはとおい国ですが、そんな国とわたくしたちを結びつけるものはやはりごはんでしょう。かの国では、こむぎでなくとうもろこしをつかってトルティージャという皮をつくり、いろんなえさをつつんでいただくのです。それが、みわくのタコス。辛いソース、サルサをつけてね。アボカドをねってタマネギとレモンをくわえたワカモーレにチップスをつけてつつくのもたのしい。ライムをいれたコロナビールがあれば、天国にまではばたくことができますよ。

で、そんなめきしこごはんを、おひるに1000円ですきなだけたべられたのがこのおみせでした。ほとんどがタコスだったけど、それでも珍しいです。公園通りをのぼっていって、塩とたばこの博物館を過ぎるてまえ、ビルのねもとのあなぐらのなかにそれはありました。木のテーブル、いす、壁。めきしこの酒場ってこんなかんじなのかな?せきにつくと皿をもらえて、そこにえさをのっけてたべるのです。えさは、ひえてたりかたかったり、炊飯器どかっだったりって、まあよくあるたべ放題のパターンではありました。みせのひとは、あなのなかでくらしすぎて、目のおくにひかりがとどいてません。それでも、タコスです。くちばしからはみでるくらい、つめこんでしまいました。めしどきをはずれて3時くらいだったのに、それなりに客はいました。でも、みょうにくうきが暗かったきがします。さて、ほどなくして、公園通りをさんぽしていて、このおみせのあったビルのまえを通りかかりました。みると、おへやがひとつのこらずからになっています。そうかばぶるのせいでビルがくさっちゃったんだな、って気がつきました。わたくしたちのように、やまのなかにじぶんであなをほっていれば、こんなことにはならなかったのにな、っておもいます。

・Mulberry Building
(Lombardi's/?/West Coast Pizzeria)  
ピザ専門店  
JR渋谷駅ハチ公口・公園通り  
渋谷区神南1-17-?  

たとえば、カラスさんばっかりすんでいる森はどうでしょう。どこか、へんですよね。もっと、ひたきさんとか、だちょうさんとか、にわとりさんとか、いろんなとりがすをつくってこそ、自然というものでしょうやっぱり。いくらカラスさんがすきでも、そればっかりだときもちがよくない。なんにでも、それはいえることじゃないですかね?

さてこの「マルベリー」というなのビル、レストランのあつまる「12ヶ月」別館をたたきこわしてできました。本邦初、ピザ専門店の集まったビルとして。ばぶるよりよっぽどあとのことだから、賭けだったとおもいます。まずじめんのしたには、シカゴからイタリア系の「ロンバルディーズ」。おねだんはちょっとたかめだけど、そのぶんらーめんやにも似た専門店根性がひしひしとつたわってくるよいおみせでした。そしてじめんには、ケーキのような分厚いピザを出す…とりはなまえをわすれましたのおみせ。ピザっぽくないへんなかたちがとりのおきにいりでしたが、なにぶん一人前が一切れ(8分の1)なので、おすのいきものにはひょうばんよくありませんでした。えさがすくないとおもいこんでしまうようです。2階には、サンフランシスコから「ウエストコースト・ピッツェリア」。まあなんというか、いちばんくせのないオーソドックスなアメリカンピザやさんでした。3階にはピザ屋でなく、にんにくりょうりのみせがはいっていましたが、これにはいけずじまいでした。このみせいがい、ちゃあんといきましたよ。それも何回か。そう、とりのえさはむぎとチーズだから、ピザをこのむのです。そのいみで、このビルはうつくしかったものでした。

けど、わざわざあんな渋谷の奥にまでピザだけをたべにいくっていうのは、むりなのですね。電話一本で、じぶんのすまで届けてもらえる時代ですよ。どんなに本格的にやっても、しょせんファーストフード。かくしてひとつ、またひとつとたおれてゆきました。さっそくいなくなった3階のにんにく料理屋はべつにして、まずかわりものピザやさん。いなくなるの、かなりはやかったです。おひるははやってたのにざんねん…。そして「ロンバルディーズ」。いいふんいきだったけど、最初に入ったときからがらがらだったからね…。そして、さいごまでよくがんばりました、「ウエストコースト・ピッツェリア」。さいきんまであったのですが、そのときには客はわたくしたちだけでした。おみせ、ひろいのに、さみしくていやです…。

いまではそれぞれのあとに、べつのおみせがはいっています。新しいピザやさんとか、ニューヨーク式軽食やさんとか、なんかよくわからないごはんやさんとか。この新しいおみせたちにも、入ってみようとたくらんでますよ。けど、ここには3つのがんばったおみせがあったんだよってこと、だれもおぼえてないとおもうから、いつもはなんでもわすれるとりだけでも、がんばっておぼえといてあげようとおもうのです。

・サムラート下北沢店  
インド料理  
京王井の頭線・小田急下北沢駅  
世田谷区北沢2-11-3 Piaza Omiya BLDG. 3F  

たべ放題、ときいてこころをおどらせるのは、わたくしが卑しいいきものだからっていうことでなく、やっぱりいきものの性だからではないでしょうかね?だって、えさをおもうだけ、たべられるんですよ?まわりのいきものさんたちと、たたかわなくてすむんですよ?こころが、あたたかくなりますね。ふつう、えさをたっぷりいただくには、あなぐらにはいって、すづくりの材料になるような紙切れやかなもののまるい板をたっぷりもっていかなければなりません。まちなかで、こうしたものを見つけるのはひと苦労なのですから、あまりたくさん欲しがらないところがいいです。下北沢には、あまりそれをうけとらないで服をわけてくれたりえさくれたりするおみせがおおくて、とりはよく、ぺむてくとうろついているのです。

さて、「サムラート」とは渋谷なんかにもあるインドごはんやさんのチェーンです。よくインドの方がみちぱたでチラシをくばっていたりします。たまにはそれもすの材料になるようです(お茶一杯ぶんくらい)。そんなこのおみせが下北沢にもあったのでした。そこは、楽園だったのです。ただでさえインドごはんはめづらしいのですが、いつでも850円でたべ放題。えさがうまくとれなくておなかがすいているとき、いつもわたくしをあたたかくむかえてくれたのです。なにをつついてもいいよ、どれだけつめこんでもいいよ、って。よくあるたべ放題とちがいえさはひえたりかたくなったりしてなくて、はらぼてになったあと、またすぐにこようなんてこころに誓ったものです。けれど、みちばたのいんどじんさんはいつしか下北にあらわれなくなります。三歩あるくとなんでもわすれてしまうわたくし。きづかせてくれるものがないままに、記憶のそこにしずんでゆくあの誓い。しばらくしてはっとおもいだし、めざしたとき…楽園は、すでにうしなわれていたのでした。


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Chipie1975@aol.com
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