大阪の思ひ出

:かずぞうとファンタジア2000で大阪の旅を締め括る、の巻:

 

その夜は急遽かずぞうの家にお泊りになっていた(鹿児島を出発する直前に決定)。12時近くをまわっていたというのに、かずぞうのおかあさんは起きて待っていてくださる。広くて清々しく、きちんと整頓された部屋部屋。壁には額に入れたかずぞうの卒業式の写真と卒業証書のコピーが並んでかけられている。就寝につくまでアメリカでの写真(ここでやっとジョンぞうさんを見る!)やら思い出をおかあさんが話してくださり、楽しい一時。「えっちゃん、明日はゆっくりしような。それからファンタジアやで〜!」つい昨日のことなのに、まるで何ヶ月ぶりかの感で入ったお風呂で体中の力が抜け、へろへろと布団に潜る。「へや〜...」っと大きく深呼吸して目を閉じた。とその瞬間、

「グォイ〜ン、グゥワ〜ン、カ〜ンッ!!!」

っと突然置時計が12時を知らせようと予告音を鳴らし始めた。一瞬坊さんが除夜の鐘を耳元で威勢良く叩きつけている絵が脳裏に生じる。半目状態で「...」と固まった状態でいると、さっと襖が開き、かずぞう中に入ってくる。「えっちゃんごめんな、うるさかったやろ」と申し訳なさそうに置時計を担ぎ、退散するかずぞう。「どうせ熟睡したら気が付かんし、平気だよ」と思っているとかずぞう、部屋を去る瞬間ぼそっ、と「この時計、15分おきになるねん。うるさいねん」と言い残す。あぁ、そういうことならお願いします、という頷きをしながら今度こそほんとに眠る。(去っていくかずぞうと共に、時計はなおも「カォ〜ン、カォ〜ン..」となっていた)

翌朝。9時すぎに目を覚ますとすでにお父さんはお出かけされていた。かなり早朝から電話を掛けてきた夫にぷりぷりしていたらしいかずぞうも2階から降りてきて、一緒に朝食。いや、まるで旅館でのような見事な朝食!白いご飯に貝の味噌汁、焼きたての魚にお漬物。デザートにすいかまで用意してくださりいたく感激。これよ、これ。朝はこうでなくっちゃー!っと大満足で浮かれているところへお父さんご帰宅。横山やっさんをダンディーにしたようなお父さんが、休む間もなくコーヒーを入れてくださる。う、うまい!「プロだから」とのことはある。旅行がお好きなようで、鹿児島にも行ったことがあるという一言で盛り上がる。「またいつでも遊びにきてくださいね」お母さんが何度も言ってくださる。言葉では足りないくらいの感謝を込めて、かずぞう宅をあとにする。いやぁ、幸せものもだな、えっちゃんは!

お父さん運転でJRの駅まで。つくづく都会のこういうところ(電車がたくさんあって何処へ行くにも便利)っていいよなー、と感じながらファンタジアをやっているIMAXシアターへ直行。8年くらい前には海遊館という大きな水族館しかなかったと記憶していたその場所に、まるで吸い寄せられるようにたくさんの人が尽きる様子もなく向かっていた。すっかり観光名所といった感じ。予定していた2時のチケットが完売、と知って、4時のチケットを購入。時間もあるので元来た道を引き返し、かずぞうお勧めの「風月」というお好み焼き屋さんへ。着くと、地元人しか知らないような裏通りに「風月」はあった。

長く待つことなく2階へ案内されて、本場大阪のお好み焼きを食す。うまい!モダン焼きを注文したので、あっというまにおなかが膨れる。「他に注文しとかないで正解だったね〜!」っとあっぷあっぷしながら再び劇場へ。

かずぞうのお友達も一緒に観る約束をしていたので、現地で待ち合わせる。新しい施設の、とても上品な設計だったIMAXシアター。劇場の中に入ってあまりのスクリーンのでかさにかなり驚く。ふつうの映画館の数倍は軽くある。立ち見はなく、お友達が真中の最高に良いシートを確保してくれる。ファンタジア2000は、各曲の構成がよかったと思った。ディズニーが好きなえっちゃんとしては声をだして笑ってしまうほど感動した(変な表現だけど)。映画を観ながら、ふと、この2日間の出来事が脳裏を走った。曲にあわせてみんなの顔や場所場所での楽しかった出来事が画像と共に流れていく。「...楽しかった...」つい、ぼんやりつぶやいてしまったえっちゃんなり。

「えっちゃんには本当に申し訳ないんだけどさ」かずぞうが本当に申し訳なさそうにうつむきがちに口を開く。「かず、お父さんと食事する約束しとったの、すっかりわすれとってん。バスセンターまで見送りしたかったけど、行けそうにないねん。ほんま、ごめんな」考えてみれば(考えなくても)、かずぞうも久しぶりの大阪であった。帰阪のほぼ全日程をオフ会関係に費やしてしまったのだ。大事な家族との団欒をろくにもてなかったこと、こちらこそ本当にごめんなさい、である。そしてここでも突然のお別れとなった。「ほんとにありがとう、かずぞうさん」「えっちゃんも、がんばろうな」満足なお礼も伝えられないまま、お互いの乗る電車がやってきた。「じゃ、またな!」「また井戸端でね、メール書くね〜!」えっちゃん、お別れは弱いのだ。寂しくって涙がでた。お友達がかずぞうのかわりにバス停まで付き合ってくれることになったのだけど、彼女を相手に「さみしいよ〜」と涙ながらに訴える(今思えば、迷惑だったろう)。ドアが閉まり、かずぞうが見えなくなるまで手を振りつづける。(この時の私、相変わらずリュックを背中に背負い、みるからに田舎者ファッション)

思えばえっちゃんが大阪に着いてから一時も離れることなく隣にかずぞうがいてくれて、何時間一緒に過ごしたか数えていないからわからないけど、とにかく起きている間ずーーーーっと話をしていたね。仕事のこと、パートナーのこと、みんなのこと、あってないみんなのこと、ぱたさんのこと...たったの2日間だったのに、2日以上の時間を大阪で過ごしてきたみたいだ。

時間が近づいてきたので鹿児島の家族、お世話になったかずぞうのご両親、まき。師匠たちに電話する。相棒にも掛けようとして、まだ向こうは早朝ということに気付き受話器を置く。あと5分でバスが出る。「さて、いこうかな」床に置いたリュックを背負い、待合室を出ようとしたその瞬間、

「お仕事、ごくろうさん」

自動販売機の前で、腕を組み、そう私に話し掛ける人がいた。

「か、かずぞうさん!!!」

つづく

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