最近読んでる本は、ネタバレするとまずいものばかりなのです。で、そのへんの要所との距離の置きかたがまだ自分なりに掴めていないので、とりあえず昔よんだ純文系の本をひっぱってきました。(書評じゃなくて読んで思ったことを気儘に書いているから関係ないとはおもうんだけどね)
熱帯がテーマないし舞台になっている話が好きです。レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』とか『ジャングルDEいこう!』とか。冗談はおいておくとして、私は寒い地方の生まれなので、徹底的に暑い地域というものにひたすら惹かれます。憧憬というか。
この本も、小説家である女性がバリに行ってデカダンしてる話なんだけど、そんな風景のなかで自分の思いに沈潜していっている。描写は村上龍にちかい方法論。いやむしろもう少し思弁的かな。肉体とか、食物とか、そういったものを概念的にとらえていくのじゃなくて、むしろその相互作用のなかに溶けこんでやるといったような距離感。しかしJ・G・バラードよりは外界とのアクセスを試みている感じ。どのみちSFやミステリとは対置されるべき文章なんだろうなあ。
そういう理由でSF研では受けないんだろうなあ。村上龍しかり。(^^; まあ別の理由が強いような気もするが、ここでは深入りしない。そういや村上龍『ラッフルズ・ホテル』はシンガポールだったけど、あれはサザンの歌がよかった。(『Blue〜こんな夜は踊れない』だっけ? ずいぶん古い)
とにかくフィールドが熱帯に移ったとたん、時間の流れが変化するわけね。南の島というモチーフの魅力。井上昌己『メリー・ローランの島』とか好きだな。複素解析でローラン展開するときによく聴きたくなる。ってそれは単なる言葉の連想もあるけど。私的にとって複素空間における特異点のアイソレーションってのは、要するに太平洋の南国の孤島なわけね。
南国といえば九州なんかは行ってみたら、暑い国というより熱い国だった。暑さという意味では京都なんかとそれほど変わるものじゃない。緯度そんなに変わらないし。つまりそれっていうのは阿蘇とか菊池、別府温泉のイメージなんだろうけどさ。火山だから火の国なわけね。『火の国の女』。それは坂本冬美の演歌。(^^;
いや別にね、池澤春菜さんのことを踏まえて本を購入しているわけではないんですけどね。でもまあ最初に池澤夏樹さんの本に興味を持ったのは、やはり春菜さんのこととは無関係だといったら嘘になります。池澤さんの本で他に読んでるのは『南鳥島特別航路』『母なる自然のおっぱい』そして『読書癖』シリーズくらいだった筈。(タイトルこれで合ってるんかな……本のタイトルを覚えるの苦手)これらはどれもエッセーですから、池澤夏樹小説にはまだ触れていないってことになります。
そういや、池澤夏樹さんのことをSF研のある人間(声優とは縁がない)に訊いたら「あのミステリとか書いているひとでしょ」とか返答されたことがあって、しばし、う〜ん。池澤夏樹ってミステリ書いてたっけ!? ……そら夏樹静子でんがな。(ビシッ)(←ツッコミ音)
『母なる自然のおっぱい』は実家に帰省したときに暇潰しに読んでいたんだけど、実家に忘れてきてしまって家族に「へんなタイトルの本がある」って電話で云われて……「読んでみたら?」とか返答しましたけど。(笑)
池澤さんは理系人間です。別に科学以外のことを書いていても、着眼点や発想が理系人間的。文章も素朴でエッセー向きという感じがします。そもそも理系の話題が多いんですけどね。特に地学。気象や地理の話になると文章の趣までガラっとかわってしまいます。ミステリやSF作家の名前もちょくちょく出てくる(今回はこっち系の作家ではマイクル・クライトン、高村薫、松本清張、カート・ヴォネガット。『読書癖』あたりではギブスンやディック、クラーク、ニーブン、なんとバラードあたりまで紹介していたと思うが、ちょっと記憶が曖昧)ので、池澤さんは私的にはそのへんも気になっている作家さんです。しかしこの本、『磯野家の謎』まで登場する。(^^;
見合いの話を書かせたら、氷室冴子さんの右にでるひとはいない(と勝手に思ってる)。とくに結婚に関して親など周囲からプレッシャーをかけられた女性を描かせたら絶品ですから。
というわけで、この本もそんな女性が主人公の見合いの話。母親や仲人マニアのおばさまたちの罠にまんまとはまっていく、主人公。まあ私はこの主人公みたいな性格の女性は苦手なので、ちょっと感情移入しにくかったんだけど、それでも普通によくいるタイプだし、友人や交際相手との一見噛み合っていないようなやりとりがまた笑えて、氷室さん風にやはりさっぱりと読ませてくれました。
しかもこの主人公は母校の大学の職員をしていて、学生課だったりします。私は学校でお世話になっている教務掛のお姉さんたちに、ちょっと感じが似ているというだけで「教務掛の林原」とか「数学教室のみやむー」とか勝手に名付け、親しんでいました。ごめんなさい。まあしかしなんか学生相手に主人公がいろいろしているシーンがでてくると、脳裏でそんな光景が重なりましたね。あのお姉さんたちも夏休みなんかが近づいてくると「今年は帰省するのー?」とか話し合っていたりして、そんなやりとりのなかから彼女達のもうひとつの一面が垣間見えたり。チャリンコに乗ってパシリしている教務のお姉さんや、教授達にお茶とお菓子を配ってまわっている事務室のお姉さん。4月なんかの超多忙な時期には露骨にしんどそうな表情で応対してくれますが、彼女たちもお仕事ですから、頑張ってるんです。なんの話なのかな。(笑)
いきなりこれか、って感じの本でしょ。大山マスタツさんの本はどんな本でも半分くらいは自伝という感じなんですけど、この本も例外ではない。でもこのひとの半生はそのままで充分ケンカバカマンガ(失礼)の主人公を地で行っているから、おもしろいんですよね。若い頃はほとんどケンカばかりしていたみたいにすら見えます。しかしこのタイトル、モロ大上段に構えすぎだが、このひとのばあい実にかっこいい。まさに威風堂々として見えますね。
しかしまあ、ちゃーんと「現代の世相を撃つ」という章を置いて日本の政治に一言とか、いまの日本人に一言とか。非常にニッポンへの愛が感じられます。さすが空手家。
うーんしかしこの筆力は、そのへんのスポーツにばかりかまけていた人間の文章レベルなんかを遥かに凌駕している。気の利いた言い回しとか。身体を鍛えあげるとともに文章表現の修行も怠ったりはしなかったのでしょう。やはり大山倍達氏は只者ではないです。彼は松本伊代みたいなアイドルと違ってゴーストライターに頼ったりしないでしょうから!