デジタルネットワークとコミュニティ形成


4ー3.SHIPによるコミュニティーの活性化

この小論文は慶應義塾SFCコンソーシアムに提出した
「知の共有化プロジェクト(SHIP)」報告レポートの一部です。

■4-3-1. 本節での問題意識の確認

この章では第二節において、参加者の活動実態と個々のメンバーの受け止めを見てきた。 この章のまとめとして、レンズをより広角に引き、2つの母体コミュニティである、 112年三田会およびSFC三田会とSHIPとの関係を見てみよう。(図1参照)
これらの相互関係を考察するには、次の3つの問いかけに答える必要があろう。

1)SHIPは母体のコミュニティに如何なる影響を与えたか。
2)母体のコミュニティの性格は、SHIPにどう反映されたか。
3)SHIPは2つの母体を超え、自律的な新たなコミュニティを生み出しうるか。

さらには、より積極的に、コミュニティの活性化を図ろうとする立場から、
4)電子ネットワークメディアはコミュニティ活性化にどんな役割を果たせるのか。
5)その時、機能面、運営面から見て何が活性化のキーファクターになりうるのか。
という2つの問いかけも、すぐれて今日的な意味を持つと思われる。


図1:SHIPと母体コミュニティ

■4-3-2. 母体コミュニティの性格

まず、SHIPの母体となった2つのコミュニティ=112年三田会とSFC三田会の状況を 概観してみよう。

112年三田会は昭和46年に塾を卒業した5700名をメンバーとしている。
これは、現役ストレートとすれば、昭和23年から24年早生まれまでの世代であり、 平成9年4月現在、48歳から50代前半にあたり、いわゆる団塊世代の中核的な年代といえる。
112年三田会は、卒業以来まとまった活動は行ってこなかった。 平成3年に卒業20周年を迎え、連合三田会の当番学年となったのを契機に、 連絡が復活し、平成8年の25周年を期して、名簿の作成や同期会の開催、 塾への募金活動等を実施した。
以降、「112年三田会報」発行、「112セミナー」開催、 活動拠点としての「サロングラディオ」運営等を行っている。
歴史こそ四半世紀を経ているものの、いまだ、形成過程にある三田会といえる。

一方のSFC三田会は、慶應義塾湘南藤沢キャンパスの環境情報、総合政策両学部の卒業生 なる同窓会であり。 平成7年卒業の一期生を筆頭に、現在三期にわたる●●名の会員を擁している。
毎年卒業時期にあわせ総会を開催しており、また、「SFC三田会報」「ミネルバ」等の新聞を 年1回発行している。
この他、SFC三田会としての活動ではないが、1部有志によるメーリングリストを活用した 情報交換等も行われている。
まだ、卒業して日が浅く、会員それぞれが、社会人としての適応にプライオリティが高いせいか、 アクティブなメンバーには限度があり、ここもまた、形成過程にある三田会といえよう。

■4-3-3. 母体コミュニティへのSHIPの影響

112年三田会、SFC三田会ともにSHIPの運営そのものが、 会の活動維持のための基幹事業となっている。
例えば112年三田会にとっては25周年事業を終了した現在、 30周年連合三田会に向け、活動レベルを維持するために、何らかの活動目標が必要な時期にある。 こうしたニーズにSHIPがフィットし、格好の事業となっている。
特に、SHIPのテーマが112年三田会メンバーにとり適当であったと思われる。
ここ数年のインターネットブームは団塊世代にとり、看過し得ないものの、 積極的にリテラシーの向上を図ろうとしても、一人ではなかなか取り組むことに 躊躇しがちなテーマである。
こうした状況をブレークスルーするきっかけとしてSHIPが吸引力を持っている。 また、噂に聞くSFCの教育的試みも今日的テーマであり、 112年三田会にとり、魅力的なテーマである。
112年三田会の糾合に当たっては、これらがフェロモンとして機能した。
また、SFC三田会にとってはキャンパスでの生活の実感が日々疎くなりつつある中で、 SHIPが容易に保ちうる塾との紐帯として、活動維持の支えとなっている。

次にSHIPがメンバー拡大に果たす役割も見逃せない。
別に詳述するように、会報その他でPRを行うと、その都度新メンバーが確実に増加している。 さらに、このようなメンバー数全体の拡大のさることながら、 より注目すべきは、アクティブメンバーの増加であろう。
112三田会においては、「112セミナー」との相乗効果により、 中核活動層が形成されつつある。

■4-3-4. SHIPからの母体のコミュニティへの影響

一般に、デジタルネットワークが形成するネットワークコミュニティは、 母体のコミュニティが「ヒエラルキー構造」により成立している場合は、 既存のコミュニケーションチャネルとのバッティングや、 既存の意志決定プロセスとのコンフリクトを発生させる傾向が認められる。
しかしながら、2つの母体コミュニティとも、4-3-2.で明らかにした如く いまだ、コミュニティ形成のプロセスにあるとの事情があり、 また、同期会というグループの性格そのものが、「ネットワーク構造」に立脚している こともあり、特段のカルチャーギャップによる混乱は認められない。
むしろ現時点では、母体コミュニティの形成に著しい効果を発揮していると評価できる。

しかしながら、今後SHIP内の活動が、金銭的授受を伴う事業に発展する、 もしくは、何らかの意志決定がなされるようになったとき、いかなる影響を与えるか。 さらに、112年三田会、SFC三田会にとどまらず、他三田会や、 連合三田会の基幹ネットワークメディアへと変化したとき、どうなるかは未知数である。

■4-3-5. 自律的コミュニティ形成の可能性

SHIPのスタート以来、オフラインミーティングを実施し、特に平成8年8月には、 デジタルネットワークのイベント「ネットワーカーズジャパン」(パシフィコ横浜で開催) に参加するなど、コミュニティ形成をめざし活動を展開してきた。
オフラインでの活動は平成8年12月以来、「112セミナー」で定例化し、 この他にも、前節の報告者である新行内君帰国の際はミーティングを持つ、 あるいは温泉地への小旅行を実施する等の活動を行い、112三田会、SFC三田会を通じ、 コアスタッフには、自律的コミュニティが形成されている。
今後は、この層をいかに拡大するかが課題と言えよう。

112三田会、SFC三田会相互の交流について言えば、 いまだ、満足しうる水準にあるとはいいがたい。
SHIPへの書き込みも、112主体であり、SFCからの発言が少ないのが実態である。
SFC三田会の参加申し込みが極めて多いにも関わらず、 発言数は少ないという、ギャップをいかに埋めうるか、 世代を超えたコラボレーションを如何なるかたちで活性化するかが当面の課題である。

■4-3-6. 電子ネットワークメディアとコミュニティ活性化

平成60年の電電三法の施行に基づき、商用パソコン通信が本格的にはじまり、 10数年を経過したが、この間圧倒的なシェアを占めたのがニフティサーブであった。
ニフティより早くこの事業に進出したPC-van(現Biglobe)との間には、 加入者数はともかく、ネットワーク内のアクティビティ、利用者のアクセス数ともに、 圧倒的な差が生まれ、今日に至っている。
そのニフティにしても、インターネットの急伸の前に、転換期に直面し、 インターネット文化との整合を図るための模索のさなかにある。
ニフティの成長の秘密も、また、現在の同社の混迷のメカニズムについても、 実証的な研究が充分なされているとは思えず、今後の一層の検討が待たれる。
しかしながら、ニフティとPC-vanの差の原因は通信技術やサーバ技術などの ハードのシステムだけでは説明しえず、シスオペのフォーラム運営などを含む、 コミュニケーション文化を主体としたソフトの側面が活性化のファクターとして重要であることは、 異論のないところだろう。
仮説的にいうならば、 A)母体となるコミュニティのコミュニケーション文化と、 ネットワークコミュニティの持つコミュニケーション文化の整合性が、 母体コミュニティとネットワークコミュニティの相互作用に大きな影響を与えること。
B)ネットワークコミュニティのコミュニケーション文化には、a:基盤となるシステムの特性と、 b:ネットワーク運営スタッフが持つコミュニケーション文化と、 c:アクティブなメンバーの持つコミュニケーション文化が 規定要因になると考えることができる。(図2参照)


図2:ネットワークシステムとコミュニケーション文化


こうした観点から現在のSHIPの特性を検討するならば。
A-1:母体コミュニティは、いずれも確固たるコミュニケーション文化を持つに至っていない。
A-2:同窓会という性格上、階層構造を持たない個人による、ボランタリーベースのコミュニティ。
A-3:2つの母体コミュニティの融合はまだ緒についたばかり。
Bb-1:ラウンジの話題を交通整理するシスオペとしての役割が確立しきっていない。
Bc-1:アクティブな書き込みメンバーが固定化の傾向にある。
Ba-1:クローズドなシステムである。
Ba-2:発言テーブルがテーマごとに分かれており、冗長性(リダンダンシー)に富んだ発言がしにくい。
といった特徴を指摘できるだろう。
今後は、こうした特徴を踏まえ、SHIPのコミュニケーション文化をどう誘導することで、 母体コミュニティとのいかなる相互作用を生み出すべきかを検討していく必要があると思われる。 4-3-1. 問題意識の確認で掲げた、電子ネットワークメディアと組織の活性化を視野においた、 4)5)の二つのポイントへの解答は今後のプロセスの中から見えてくるだろうと思われる。


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