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インタビュー=市川哲史





「厄年」退散!




頭蓋骨骨折→X JAPAN解散→右足踵骨折
……なんと「不幸」だらけの97年だったのだろう。
この取材もその踵骨折により一時はTELインタヴューになりかけたのだが、
締め切り間際まで待ってなんとか「実物」に遭遇することができたほどの、「大騒ぎ」であった。
hideという男は、エキセントリックなまでに表現衝動を
次から次へと精力的に具体化する「永遠のロック少年」そのまんま、の生き物である。
元気もいいし派手だし個性的だし、
とにかく眺めてるだけで面白い、「ポップな脳天気野郎」だ。
しかしその反面というか、それだけロックに純粋で誠実であるが故に、
自己快楽がデカい分だけ聴き手に対する責任感もデカいのだ。
だからバンドの解散なんて「事件」があると、
それをおもいきり巨大な業として背負い込んでしまうのである。
それだけに、97年彼を襲った一連の出来事が
彼をヘヴィーにさせた事は想像に難くない。
新春早々リリースされるソロ・シングル"ROCKET DIVE"は、
豪快な「電気パンク」ナンバーだが、
その詞にはhideの葛藤の跡がやはり窺える。真面目だなあ相変わらず。
というわけで、厄年撲滅インタヴューを今回演ってしまう。
ちなみに本記事中の松葉杖写真は、
『音人』のみの激写である。何だかなぁ。



●●(痛々しい松葉杖姿に)その左足踵骨折は一体、どうしたの。

「え?これはあのー、また酔っぱらって(笑)温泉場で裸足で跳んで--『あれ!?』つってたら歩けなかった(笑)」

●●骨のモロさに年齢はすぐ出るから。

「もう本っ当に出ますよね。俺今年の春は頭蓋骨割ったし」

●●そうだそうだ(笑)。頭蓋骨はどういう顛末だったんですかい。

「アレは、西麻布でバケツに足突っ込んでひっくり返ってガン!と頭を床にぶつけて、次の日病院に行ったら--『割れてますねえ』って(笑)」

●●(爆笑)モロい。モロすぎる。

「プラモデルか俺は(笑)」

●●でも頭蓋骨の方は、その後大丈夫なんですかい。

「たぶん……うん、大丈夫。1年に何回か検査しなきゃいけないみたい。レントゲン写真見たら、薄ーい頭蓋骨に1カ所穴が空いてて、空気が見えるの。空気入っちゃいけないのに。で、血が溜まってて」

●●それまずいんじゃないか?

「病院に行ったとき酒臭くて、医者も『二日酔い二日酔い』って笑いながら診てたのに、レントゲン撮った瞬間から急に顔がシリアスになっちゃうの(笑)」

●●まさに厄年だなあ。

「本当にもう……人に言えない事故が、まだ後2つぐらいあるし(笑)」

●●おまけにX解散。

「それもまたデカいんですけど(哀笑)」

●●強運にしみじみしたりした?

「うーん、でも僕その時は落ち込むけど、意外にどんどんどんどん演ってるうちに結構……前向きになっちゃうから。だって足骨折したその日は、凄え落ち込んだもん。痛かったし。年末の東京ドームがやっと決まった時だったし……」

●●解散後の身の振り方は、やはりソロ・アーティストとして。

「うーん……解散があっても無くてもそれは別に変わんないからね(笑)、ずっと演ってるからでも翌日の1月1日から動くよ。自分……たぶんね、間空けるとまた1週間ぐらい無駄にしそうなんだよね、駄目になって」

●●そりゃそうだよなあ。

「解散が決定したのは結構前だったから、随分前からもう『個人』なんだけど、お客様の声も反映するでしょ?僕のホームページにファンの子達から直接メールが届いたりするから、それを呼んでまた引っ張られたり……今回のシングルはちょうどその時作ってたから、そういう事も反映した詞になっちゃった」

●●それは当然の流れだわな。

「うん、そう。曲はもう『PSYENCE(←96年9月発表2ndソロアルバム)』の時に出来てて、詞は無くて。でバンド解散の時にTVのくだらない報道にもまた引っ張られ(苦笑)」

●●解散話は訊いてもいいのかしら。

「あ、別に、いいですよ?だって僕は見たままだもん」

●●「見たまま」(笑)。

「だからTOSHI君が脱けて『TOSHI無しのXはあり得ない』という事で……まあ、言っちゃえばそのくらいの見たまんまだね。もっとありますよ、勿論(笑)」

●●うん、そりゃ山のようにあるだろ。

「市川さんもわかるでしょうけど(笑)」

●●確かに(笑)。

「解散決まったのは4月か5月で、TOSHI君から脱退したいって話が来て皆で話し合って。で、その頃俺は少年ナイフのリミックス演ってたのかなあ……あ、僕はLAで作った新しいバンドのレコーディングをずーっと演ってて」

●●その「LAバンド」って何ですか。

「音はもう出来てんですけどね、会社的な問題があって。でも98年には出ますよ絶対。『もういいやあ』って感じ(笑)。でも音は凄いんだよ。もう自信ある」

●●ずっと言ってたもんねえ。でも完成してから1年経つのも辛いね。

「やっぱそう簡単にいかない大人の世界」

●●にしてもhideって、Xにしろいろいろ振り回されながらも、自分が演りたいと思った活動は全て実行してるから偉いよなあ、未だに。

「でも自己防衛本能だったりするからね。人一倍落ち込むからね」

●●確かに、仕事は「逃げ場」としては最高だからね。

「そう。酒とかに逃げると良くないことが起こる(笑)。仕事に逃げるじゃないけど、仕事してた方がいいという」

●●にしても、X演ってソロ演って店やレーベル主宰(←LEMONed)してLAバンドも始動させて--この膨大な活動を自分では整理できてる?

「一応98年は、具体的に言うと僕としてはあんまり『演りたい演りたい』で演るのはヤメたと思ってて」

●●それは何故ですかね。

「だって『PSYENCE』はあんなに普通のアルバムなのに、『マニアック』とか言われるし。何か……もういいや」

●●まあまあ。

「だから98年は一応、自分の演りたい事と演らなきゃいけない事を分けるつもりだった。だからLAバンドで演りたい事を、要するにチャート狙いの事をソロで演るって風にしようと思ったの。ま、97年もそうしようと計画立ててたんですよ。そしたら、頭割れて足折れて解散して、2方向の活動もいろんなしがらみがあって--やっぱり僕思いつき一発でさ、上手くいくんだなあーと思って。だからまた路線変更して、思いつき一発で98年は行こうと思って--3日前から(笑)」

●●子供が珍しく計画表作って夏休みに臨んだら、やはり全然駄目だった的な世界に近いなあ(笑)。

「本当本当(笑)。そもそも計画立てて上手くいったから『だからどうだってんだ』という(笑)」

●●(笑)開き直んなよ。でも自分でもどうなるかわかんないぐらいの方が、全然面白いよね。

「その方がいいみたい……ね。『あ、そうきたかあ。じゃあこういくわ!』ってのがないとつまんない。それで駄目だって別に後悔しないよ。でも、散々計画立てて駄目だと、凄い後悔すんもん」

●●という事は「後悔の97年」だったな。

「そう……特に下半期はその反省に尽きるかなという」

●●さて今回のシングルは「hide with Spread Beaver」名義なんだけども、これは何なのでしょう。

「これはバンドです。ソロで演る場合の僕プラス『誰か達』で」

●●あ、固定メンバーではなく。

「レコーディングとツアーでメンバー分かれるし、まだ具体的に決まってないし」

●●この形態といいLAバンドといい、「バンド・スタイル」に対する郷愁というか想いが何か強いんですかね。

「んー、単純にこれに関して言えば--例えば僕のファンで、Xのファンでもありソロのファンでもある人達にしてみれば、Xという自分の好きな玩具1個失くなっちゃって、残りの1個だけでは淋しいわけじゃない?いろいろあるから面白いと思う人達。そもそも俺がそういうタイプだから(笑)」

●●わはははは。

「だから『今までのhide+αを見せてあげようかな』という意気込みを、一応表してみた(笑)」

●●「だから俺だけでも愉しめるぜ!」みたいな(笑)。

「うん、いや(笑)、そこまで男らしくないけどね、俺(笑)」

●●hideもそうだろうけどさ、洋楽ロック少年少女ってやはり基本形はバンドだから、ソロ・アーティストに何故か物足りなさを感じるんだよねえ。

「なにかドキドキしないんじゃない?そう、ドキドキしないから嫌なの。3年前とかはさ、俺一人でドキドキさせようと思って無茶苦茶な格好してヴィジュアルも何も凝ってたんだけど(笑)、結構無理が来るんだよね。何故、僕がソロになってから雑誌でも凄い格好してたかというと、理由はそこなんだよね」

●●ああ、一人で5人分のヴィジュアル効果を体現してたわけだ!(笑)

「ひひひひ!5人並んだときの威圧感とかあるじゃん。それは化粧してなくても、例えばモッズ4人とかでもカっと睨まれると『うわ、何かドキドキするな』と思うじゃない?それをさ、僕は単純に一人で演りたかったんだな、と最近気づいたのね」

●●要は、一人なんだけども、ゲッターロボみたいに実は3機の戦闘機が合体してるんだぜ的な。

「ふはははは。でもそう、合体ロボとかその発想だと思うんだよね」

●●特に日本人好きじゃん。仮面ライダーも1号よりはダブルライダー、ウルトラマンもウルトラ兄弟勢揃いの方が問答無用で盛り上がるという。

「そうそうそう!(笑)」

●●そういう貧乏くさいゴージャス感って、魅力的だよね(笑)。

「うん。きっと僕もそれが演りたかったんだな、と思ったの(笑)」

●●初めてhideのソロ美学の基本構造が明らかになった観があるなあ。

「あはははは!何じゃそりゃあ。だからとりあえず新年の始めから僕は動くから、たぶん僕のお客さんからしてみたら景気いい感じで演れるかなあ、と」

●●こうやって話訊いてると、hideはやはり解散が重い現実として心にひっかかってるんだなあ。

「ひっかかってるよ、そりゃー(笑)。何年演ってたと思ってんのよ(笑)」

●●で今回のシングル--「いいじゃんパンクで」的な単純明快さがいいね。

「うはははは!」

●●でもさっきの話だと、やはりその曲とは裏腹に詞は多少なりとも影響を受けてるようで。

「うん……お客さんの直接的な抗議その他、激励その他が出ちゃうね」

●●ホームページ及び電子メールの功罪ってデカいと思うよ。迅速かつ直接、聴き手の人達の声が届いちゃうのは、まさに諸刃の剣でもあって。

「本っ当だよ?本っ当僕1年演ってよくわかったもん。何度ヤメようかと思ったもん」

●●やはり厳しい声は厳しいスか。

「厳しいって!!!!もう本っ当に!!『死ね!』とかはまだ笑っちゃえるけど、本当に本当に好きだった人は本当に辛辣に書いてくる……結構辛いっスよね。それ以外の割と普通の子達は迷っちゃってる感じで、本当どうしたらいいかわからないみたいな、グルグルグルグル回ってる感じでもう1日何百通と来るの。結構カオスになってるのね。だから……『そんなもんだぜ』ぐらいの事をたぶん言ってあげたかったのかしらね、この曲は」

●●夜独りでマックに向かって読んだりすると、そりゃ憂鬱になるわなあ。でもhideなりの気持ちを出したと。

「うん。僕もやっぱり子供の頃キッスのファンクラブに入ってて『ちょっと事情があって閉会します』と聞いた時は、『何でだーっ!』(笑)。俺、ファンクラブまで電話したクチだから(笑)」

●●相変わらずファン側の気持ちを痛いほど理解してるねえ。

「わかっちゃうのよねえ」

●●でもこの曲聴く限りでは、複雑な気持ちを整理できてるようには映りますが。一応。

「うん、そうなの。諸刃の剣はそういう部分もあるんだけども、『ああ、ある種責任を持っていかなければいけないんだな』と、珍しくそういう事を思わせられた部分もあるという」

●●hideといえば良い意味での「ロック少年演り散らかし」が最大の持ち味なんだけれども、今回は「責任感も持ちつつ演り散らかした」という新展開があるかもね。

「それが本当に良い部分というならば、新しい部分だよね。バーっと演って、雑誌に言いたい事言って、でさっと消えて、というんじゃないからさ」

●●「別の生真面目さ」が生まれたな。

「そうですね。あ、この曲はね、サッカー関係のタイアップの話が詞を書く前に来たの(←サッカー選手出演のミズノCFソング)。で俺サッカー興味なかったんだけど、そしたらワールドカップ初出場決定とか、一応観なきゃいけないって事で観てたらのめり込んじゃって(笑)」

●●スポーツ観戦嫌いのhideがのめり込んだかあ。

「うん、のめり込んでいっちゃって。だからさっき言ったファンの子達の気持ちと、あとサッカーの高揚する感じも入ってるんだよね」

●●俺とPATAが巨人戦で一喜一憂して酒呑んでるのを横目に、「野球の話早くヤメてよーわかんないからつまんないよー」と言ってた君が(笑)。やはり日本国内のプロ野球と、ナショナリズムが高揚せざるを得ないサッカーの違いかしら。

「(笑)本当に本当にもーう、本当に自分の中でナショナリズムが無茶苦茶ノってきてしまった気が」

●●サッカー人口1千万は増えてるしな。

「はははは。それもあって、この曲を出しましたー(笑)。で最終予選のあの試合をTVで観ながら、『この曲がこの中継で流れてりゃあ、もう無っ茶苦茶いいじゃん!』と思って、自分で同時に曲流してたの(笑)」

●●わははは。自分だけのタイアップ。

「あはは!『盛り上がるぅ盛り上がるぅ』とか言って(笑)」

●●その後ソロアルバムを作り始め?

「あっとねえ、その後山中湖に1週間行って曲を作って。それはもう何もあんまり考えないで。だから方向転換して、『とりあえず吐き出していこう』つって12曲ぐらい出来て」

●●じゃあ作業は順調である、と。

「順調といえば順調。まだ全然まとめてないですけど」

●●さて過去2枚(←94年2月『HIDE YOUR FACE』+前述『PSYENCE』)共、暴走遊び心満載で愉しかったんだけども、今回はどう笑わせてくれるんだろうなあと。

「『笑わせる!』(笑)。あ、今度のはね、熱烈な唄物だよね」

●●?????

「本っ当に。最初はだから、歌謡曲とハードエッジな物を分けようかなーなんて思ってたけど、『違うよ』となって--唄物に統一すりゃあいいんだよ、ハードでも何でも。だから唄聴きたい人は唄しか聴かないし、音楽聴きたい人は音だけ聴いてくれるわけだから」

●●聴き手に「分けて聴け!」と。

「そう」

●●わはははは。高飛車な。

「(笑)僕の場合はだから『こんなの演りたいです!』で作ってきたけど、今回は『こんな歌唄いてえ!』という姿勢でちょっと作ってみようかなと」

●●今後、まさに名実共に「ソロ・アーティスト」hideとして歩んでくわけだけども、ここんとこの紆余曲折によって、hideというソロ・アーティストの特性を自分でも把握できたんじゃないかと。人間的にも。

「だからまんまで、今までのままでいいのかなというのは凄く……ただその屋台骨になる歌を、今までは『こういう曲!』というのが強かったのが、もう『唄!』(笑)。『唄う!』っていう」

●●曲に合う唄を作るんではなく、とにかく「唄う!」

「そうそう。今までもねえ、唄物は唄物で作ってたんですけど、作業的には『はい、コレ歌謡曲』『はい、コレ自分』」

●●「自分」(笑)

「(笑)だからもう今回は作るの早いから、自分も洗脳しようと思って。今作ってるの10何曲、本当唄物だから」

●●98年は猛進しまくると。

「夏までにアルバム出して、もう1枚シングル出して、後半はずっとツアー。もうTVのパーソナリティーも演るから」

●●おまえ「人前で喋るの嫌だ」って言ってたじゃん、昔からずっと(笑)。

「ふははは」

●●でもそれだけやる気である、と。

「うん。というか止まったらマズいだろうなあ!と思って。とりあえず忘れるぐらい演んないと」

●●うん、hideらしくていい衝動だと思うよ。実は気が小さい誠実さが(笑)。

「あはははは」


出典:「音楽と人」1998年2月号

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